自筆証書遺言の法務局での保管サービスに関して

最近,相続業界でも話題なのが,今年の7月10日から始まる,自筆証書遺言を法務局で保管してくれるサービスです。

遺言書には

①自筆証書遺言

②公正証書遺言

③秘密証書遺言

の3種類がありますが,今回新設される制度は①の自筆証書遺言を国が保管してくれる制度です。

 

①の自筆証書遺言は,特別な手続きがなくとも自宅で一人で作れる反面,自宅等で保管することから

⑴ 隠しておいたら隠し場所を忘れてしまい,見つからない。

⑵ 汚してしまったり,自宅の火災で焼失してしまった。

⑶ 故人が周囲には内緒で作っていたため,亡くなったあと誰も存在を知らない

⑷ 相続人が自分に不利な遺言を隠したり,改竄してしまう

⑸ 亡くなった後,遺言書を裁判所に持っていく検認手続というものをしなければならない

⑹ 次のような形式要件があり,せっかく作っても無効になってしまう可能性がある。

・原則として全て遺言者が自書すること

・作成した日付の記入

・遺言者の署名

・印鑑を押すこと

といったデメリットがありました。

こういった場合,せっかく遺言を作っていても遺言は効力を発揮できません。

また,仮に遺言がちゃんと綺麗に見つかっても,自分に不利なことが書かれている相続人が「その遺言は改竄されているから無効だ。」などと言いがかりをつけてきて,紛争の火種になってしまいます。

 

一方で,②の公正証書遺言は,公証役場という場所に行き,公証人に遺言の内容を伝えると,公証人が遺言書を作成し保管してくれます。

この公証役場というのは,全国の比較的大きな都市にはだいたいあり,東京ですと43ヶ所あります。

公正証書遺言による場合は,①自筆証書遺言のような,紛失・汚損・改竄のリスクや,せっかく作っても形式が間違っており無効となるリスクはありません。

しかしながら

⑴ 公証役場の料金が数万円~十数万円程度かかる

(「1億円の財産を,奥さんに6000万円,長男に4000万円相続させる」との遺言の場合は,8万3000円かかります。)

⑵ 遺言書を作ったことが他の相続人にバレてしまうリスクがある

といった,デメリットが公正証書遺言にもあります。

 

この一長一短の制度を補うものとして,今回の自筆証書遺言の制度が設けられました。

この制度のメリットとしては次のような点が挙げられます。

⑴ 国が保管してくれるため遺言書を紛失したり,汚したりしてしまうリスクがない

⑵ 他人に見つかり,隠されたり改竄されてしまうリスクがない

⑶ 亡くなった場合,遺言書があれば国が通知してくれる

⑷ 手数料が公正証書遺言より安い(手数料はまだ未定ですが,少なくとも十数万円することはないと思われます)

⑸ 亡くなった後,裁判所に遺言を持っていく(検認手続をする)必要がない

もっとも,遺言が形式不備で無効になってしまうなどのリスクは存在するため,注意は必要です。

 

このように,従来の制度の短所を埋める形で,安く手軽に遺言ができるようになる今回の法務局での保管サービスは,私としても今後利用をしていきたいと思います。

また,別の機会に,保管サービスの具体的な利用方法などをご紹介できたらと思います。

 

 

最近は新型ウイルスも他人事とは言えなくなってきましたので,手洗い・マスク等を徹底して,皆様どうかお気を付けください。