介護をした際の寄与分の計算方法

親の介護などをした相続人の相続の取り分を増やす寄与分ですが、その計算方法がよく問題となります。

東京では、もしかしたら、親と同居して介護をするといった家庭は減ってきているのかもしれませんが、それでも相続で一、二を争うテーマです。

寄与分の類型により、計算方法は変わってきますが、特に問題となるのが、病気や高齢により独りで生活ができない親を子供が世話をした場合(療養看護型)の計算方法です。

 

1 介護の日数に応じて計算される

このような場合は、相続人の介護がなければ介護サービスや老人ホームの費用が必要になるところ、介護によりその支払いをせずに済んだ場合には、寄与分として認められるケースがあります。

そのため、計算方法は介護日数に応じて次のように計算されます。

 

看護報酬額×日数×裁量割合

 

2 看護報酬額の算定

介護保険における「介護報酬基準」が用いられることが多くなっています。

「介護報酬基準」では、要支援1~2、要介護1~5の7段階に分け、介護サービスの内容等により報酬を定めています。

具体的には、次の通りです。

要支援1:1397円~2793円

要支援2:2212円~4423円

要介護1:2212円~4423円

要介護2:3215円~6430円

要介護3:3215円~6430円

要介護4:3671円~7342円

要介護5:4127円~8254円

 

なお、要介護認定がされていない場合でも、寄与分が認められる可能性があります。

その場合は、被相続人の状況から要介護度を推測して介護報酬基準を利用するといくらかを基準にすることもあります。

 

また、介護を相続人で分担して行っていた場合には、行った介護時間の割合で介護報酬を分けるといった計算がなされます。

 

3 裁量割合により減額される

寄与分が認められたとしても、介護報酬基準などに基づく報酬相当額が当然認められるわけではありません。

介護報酬基準は、家政婦協会等の介護機関に支払う金額であり、実際に介護をした人が受け取る金額はこれより少なくなります。

また、介護報酬基準に基づく報酬は、看護・介護の資格を持つプロに支払われる金額であり、資格のない親族が行う介護については介護の内容も異なってきます。

加えて、親族は扶養義務を負っているため、扶養義務を超えた分の介護が寄与分となります。

そのため、実際には50%~80%の裁量割合がかけられるケースが多くなります。

寄与分とは

1 相続でしばしば問題になる「寄与分」

相続で、しばしば問題となるのが、介護をした相続人とそうでない相続人がいる場合です。

「あれだけ苦労をして介護したのに、相続の取り分が何もしていない相続人と同じなのはおかしい」

と思うのは、自然な感覚だと思います。

一方で、

「介護というが、家賃も払わず同居してもらっているのだから、それくらい面倒をみて当たり前だ」

「そんなに大変ならプロを雇えばよかった」

という言い分も納得できるものがあります。

 

2 「寄与分」とは

このような、相続でよく問題になる介護の問題について、民法では「寄与分」という制度を設けています。

「寄与分」が認められると、たとえば、介護をした相続人の相続分が、介護をしていない相続人の相続分より多くなります。

 

一例として、父親の遺産が2000万円で長男Aと次男Bが相続した場合、今まで長男が行ってきた介護が200万円の寄与分として認められると、それぞれの相続分は次のような計算になります。

長男A:(2000万円-200万円)÷2+200万円=1100万円

次男B:(2000万円-200万円)÷2      =900万円

このように、長男Aと次男Bの間では、寄与分200万円の分だけ、相続で差ができます。

 

この寄与分は、よく問題になるのは親の介護の場面ですが、他にも、

・子が親にお金を支援した結果、親の遺産が増えた場合

・子が親の事業(会社、農業)などを手伝った結果、親の遺産が増えた場合

などでも問題となります。

 

3 寄与分が認められる場合

なんでもいいから少しでも親の面倒を見れば寄与分になるわけではありません。

たまに親のもとを訪れて、話をきいてあげたり、食事を作ってあげたりした、というだけでは寄与分は認められません。

寄与分が認められるためには、法律で定められた要件を満たすことが必要となります。

まず、例えば、「特別の寄与」であることが求められます。少し面倒を見たくらいではダメということです。

また、よく問題になるのが、「財産の維持又は増加」に寄与していないといけません。「親の世話をしたことでデイサービス等の利用回数が減った=財産が増えた」など、金銭的にプラスになってなければ意味がないという考え方です。

 

詳しい要件については、また紹介をできればと思いますが、このようにややこしい要件が法律で定められています。

もし、ご自身のご相続で、介護が問題になりそうな場合は、弁護士にご相談ください。

 

 

 

生命保険が特別受益になる例外的な場合

1 「著しい不公平」がある場合には生命保険金が特別受益となる

生命保険は、原則的に特別受益にはなりません。

しかし、例外的に特別受益になる場合があります。

判例上も、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険金も特別受益にあたるとしています。

 

そして、「著しい不公平」となるかどうかは

①保険金の額

②保険金額の遺産の総額に対する比率

③同居の有無

④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係

⑤各相続人の生活実態等

を総合考慮して判断されます。

(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)

 

3 生命保険金が特別受益となる具体的な場合

生命保険金が特別受益となるかは、事案ごとに判断されますが、②遺産の総額に対する保険金の比率は重要な考慮要素となります。

※「遺産の総額」とは、生命保険金を含みません。

 

例えば、次のような場合には生命保険金が特別受益とされています。

 

例1)東京高決平成17年10月27日

ア 遺産の総額:1憶 134万円

イ 生命保険金:1憶 129万円

ウ イ ÷ ア:99.9%

→〇特別受益にあたる

 

例2)名古屋高決平成18年3月27日

ア 遺産の総額:8423万円

イ 生命保険金:5154万円

ウ イ ÷ ア:61.1%

→〇特別受益にあたる

 

また、次のような場合には、特別受益性が否定されました。

 

例3)大阪家堺支審平成18年3月22日

ア 遺産の総額:6963万円

イ 生命保険金: 428万円

ウ イ ÷ ア:6.1%

→×特別受益にあたらない

 

4 特別受益になるかは事案ごとの判断が必要

生命保険金の遺産に対する割合は重要ですが、もちろんこれだけで特別受益であるかどうかが決まるわけではありません。

 

例えば、今まで無償で介護をしてきた相続人が保険金を受け取った場合には、今までの介護へのお礼・対価としての意味合いがあることから、介護をしていない相続人と著しい不公平は生じないとして特別受益には当たりにくくなります。(④相続人の貢献の度合い)

また、喪主になる予定の長男にだけ2~300万円程度の生命保険金の受取人に設定されていた場合などは、生命保険金は葬儀費用に充てるためであり、仮に葬儀費用より保険金の方が多くとも、相続人間に著しい不公平があるとはなりにくいでしょう。

 

生命保険金が特別受益になるかの判断は難しいため、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

生命保険と特別受益

1 生命保険金は特別受益にならない

生前に贈与を受けたときは、「特別受益」として相続の際にその分だけ取り分が減ります。

そこで、よくご質問をいただくのが、「生命保険金を受け取った人は相続の取り分が減るのか」です。

結論から申し上げますと、生命保険金は原則として特別受益になりません。

これについては、判例があり、生命保険金は亡くなって初めて請求できるようになるため、「相続人固有の権利」であり、生前贈与とは性質が違うことが理由とされています。

(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)

 

2 「相続人固有の権利」とは?

土地であれ現金であれ、被相続人(=亡くなった方)の権利を引き継ぐのが相続です。

生前贈与も、亡くなる前に権利を引き継ぐ点では同じです。

これに対し、「相続人固有の権利」とは、元々被相続人が持っていた権利ではなく、最初から相続人のものとなる権利をいいます。

被相続人から貰った権利ではないため、相続人”固有”と言われています。

生命保険金は、生前に請求することはできず、亡くなって初めて請求できるようになります。

そのため、被相続人が元々持っていた権利(遺産)を相続したのではなく、法的には生命保険金は最初から相続人のものであったと扱われます。

相続放棄をしても、生命保険が受け取れるのも同じ理由になります。

 

3 生命保険金が特別受益となる例外的な場合

しかし、このような考え方は、とっさには受け入れにくいと思います。

というのも、例えば一時払いの生命保険金は、被相続人が生前に支払った保険料が、死後に生命保険金という形で戻ってくるため、実質的には生前贈与と変わらないからです。

(理屈はともかく、感覚としては弁護士でも受け入れにくいと思います笑)

判例も、生命保険が生前贈与と性質が似ている点から、例外的に生命保険金を特別受益とすることを認めています。

要は、2000万円の生前贈与をもらおうと、2000万円を生命保険でもらおうと、不公平には変わりがないでしょうという考え方です。

ただし、生命保険が特別受益になるのは、あくまで”例外的”な場合で、基本的には認められないことは注意が必要です。

何が”例外的”な場合なのかについては、長くなるので次回紹介させていただきます。