1 車の処分は相続放棄ができなくなる可能性がある
民法では、故人の財産を処分すると、単純承認になると定められています。
単純承認をすると、相続する(条文上は「被相続人の権利義務を承継する」)ことになるため、相続放棄ができなくなってしまいます。
そのため、条文を文字通り読めば、車を廃車にするなどしてしまうと相続放棄ができないということになります。
民法902条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
民法903条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
第1号 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
2 本来は相続財産清算人を立てる
ただし、相続放棄をしたからと言って、放置をしていいかどうかという問題があります。
賃貸の駐車場に停めてある場合は、賃貸人から撤去を強く求められるうえ、賃料がかかり続けます。
民法改正で、相続放棄をすれば「現に占有」をしていない財産であれば管理責任を負わなくなったため、そのまま駐車したままでも賃料の支払義務は負いません。
民法904条 第1項
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
もっとも、亡くなったのが同居の親で自宅に車の鍵がある場合は「現に占有」していると言えるので、車を移動させない限りは賃料を支払う義務が発生します。
また、駐車場を賃貸しておらず自己所有の駐車場に駐車している場合でも、そのまま置いておくわけにはいきません。
このような場合は、相続財産清算人の選任を裁判所に申立てをし、相続財産清算人に車を処分してもらうというのが民法の建前です。
しかし、相続財産清算人の申立ては、申立ての際の弁護士報酬や裁判所への予納金で数十万円はかかるため、悩ましいところです。
3 車を処分した後の流れ
そこで、頻繁に質問をいただくのが「価値がない車なので、相続放棄の後に処分していいか?」です。
ここについては、「車を処分すると相続放棄できなくなる」とはよく言われているものの、具体的な流れは余り説明がないことも多いです。
相続放棄が裁判所に受理された後に車を処分すると、やはり、単純承認となり、相続放棄は無効となります。
一方で、無効になる場合としては、債権者(故人にお金を貸していた人)などが車が処分されていることに気づいて、相続放棄が無効であることを訴訟で争ってくる場合です。
つまり、債権者が、車が処分されていることに気づかなければ、そのまま問題になることもなく終わってしまう可能性があります。
実際に、貸金業者などは故人が車を所有していたことすら知らないことがほとんどで、仮に知っていたとしても誰が処分したか不明であるため、車を処分されたものの相続放棄できてしまうというケースは多くありそうです。
ただし、だからと言って放棄しても車を処分してもOKとはならず、いつでも相続放棄が無効になるリスクは忘れてはいけないのかとは思います。
まずは弁護士に相談した方が良いでしょう。