昨年の私が行った相続放棄の件数を数えたところ、約320件でした。
もちろん、320件の中には、死亡したことを知ってから3か月を経過した案件もかなりの数ありました。
依頼をいただいた案件は、100%相続放棄は成功しているのですが、その中でも特に難しかった案件をいくつか紹介したいと思います。
1 3年前に死亡した父の借金の手紙を、開けずに放置していたケース
概要)
父が、40年前に自宅を買い住宅ローンを組んだが、支払ができず自宅は競売になってしまい、借金も残ってしまった。
そのとき、まだ息子である相談者は高校生で、住宅ローンがあることすら知らず、なぜか引っ越しになったくらいにしか考えていなかった。
3年前に父が死亡したときにも、父宛に未払の住宅ローンの請求は届いていたが、封筒を開けなかったため借金の存在に気づけなかった。
父死亡の3年後に、相談者宛に約8000万円の住宅ローンの支払を求める手紙が届き、相続放棄ができないか、急いで弁護士に相談した。
問題点)
相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始を知った時から3か月」とされています。
3か月の期限のスタートになる「自己のために相続の開始を知った」とは、このケースでは、父親が死亡したことを知った時から3か月になります。
問題は、借金を知った時から3か月ではないため、原則は、相続放棄の期限自体は3年前に過ぎてしまっていることです。
このケースは、借金を知った時から3か月で相続放棄を認めた最高裁判所の裁判例に紐づけて意見書を書いたことで、借金を知った時から3か月以内の相続放棄が認められました。
2 30年以上前に死亡した祖父母の実家の固定資産税の支払を求められたケース
概要)
30年以上前に祖父母が亡くなり、実家は祖父母名義のままだった。
実家には、祖父母の長男(相談者から見て叔父)の夫婦が住んでいた。
1年前に、相談者の叔父家族が亡くなったため、今頃になって相談者に固定資産税の支払の請求が来た。
問題点)
この件は、
祖父母 死亡
↓ 25年後
相談者の母(長女) 死亡
↓ 5年後
相談者(孫) 相続放棄
と相続をしています。
そのため、相続放棄をするのであれば、5年前に相談者の母(祖父母の長女)が相続放棄をしていなければなりませんでした。
再転相続放棄という制度もあるのですが、その場合も、祖父母が死亡してから3か月以内に母親が死亡している必要があります。
つまり、本来は、以下のようなスケジュールで放棄をする必要があります。
祖父母 死亡
↓ 3か月以内
相談者の母(長女) 死亡
↓ 3か月以内
相談者(孫) 相続放棄
2か所で3か月の期限を、25年、5年と大幅に過ぎてしまっています。
このケースも、実家については居住している長男の所有物だと思っていたことを理由に、相続放棄が認められました。
このケースは、退職した裁判官にも「無理だから諦めた方がいい」と言われていましたが、何とか解決できました。
司法書士や専門でない弁護士はまず断る案件でしょうが、弁護士が意見書を書くことでどうにかなることもある、いい例かなとは思います。