1 税金など一部の未払金は減額されない
個人再生は、借金を減額した上で3年や5年といった期間かけて分割払いしていく手続きです。
もっとも、全ての借金や未払金が減額されるわけではなく、税金など一部の債権は個人再生をしても減額されることはなく、そのまま支払い続けなければなりません。
民事再生法122条において「一般の先取特権その他一般の優先権」(一般優先債権)は、個人再生を行っても減額されません。
また、抵当権など担保がついている債権は、個人再生をしても担保権の実行をすることができるため、個人再生で減額をする前に債権回収が行われてしまいます。
個人再生で減額されない債権は、一覧にすると以下のとおりです。
① 担保権のついている債権(民事再生法53条参照)
例)不動産担保ローン、リース債権等
② 租税等の請求権(国税徴収法8条参照)
例)市県民税、所得税、国民健康保険料、社会保険料、罰金等
③ 労働債権
例)個人事業主の従業員の給料
④ 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権
例)交通事故の違反金、有罪判決により科された罰金等
⑤ 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
例)他人を殴った場合の慰謝料、横領した会社の返還請求
⑥ 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
例)交通事故で怪我を負わせた場合の治療費
⑦ 養育費、婚姻費用、子の扶養義務等
もっとも、細かくみていくと、民事再生法以外の法律も関係してくるため、減額されるのか減額されないのか、弁護士でも判断に困ることもあります。
そこで、以下でいくつかピックアップして細かく説明します。
2 担保権のついている債権
自宅に抵当権を付けるなどして担保に借入を行った借金は、別除権を有します。(民事再生法53条1項)
別除権を有する債権は、個人再生の手続中であっても別除権の行使が可能です。(民事再生法53条2項)
つまり、例えば自宅に抵当権を借りた不動産担保ローンについては、自宅を競売にかけて売却することができ、借金を自宅の売却代金から回収されてしまいます。
また、リースで購入した自動車については、所有権留保が自動車についているため、自動車は引き揚げられて売却されてしまいます。
なお、「個人再生において住宅ローンは残せる」とよく言われますが、住宅ローンも別除権付債権にあたり、原則は自宅の競売が可能です。
しかし、住宅ローンについては特例があり、要件を満たせば例外的に住宅を売却されずに残せることになっています。
3 租税等の請求権
「租税等の請求権」については、「一般優先債権」(民事再生法第122条1項)にあたり、個人再生で減額ができません。
租税というと、いわゆる税金をイメージしますが、税金以外の国民健康保険料や社会保険料なども租税債権に含まれます。
「租税等の請求権」は、「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」とされています。(破産法97条4号)
国税徴収法では通常の民事訴訟等を経ないで差し押さえをすることができますが、市税や保険料などは、国税徴収法と同じ仕組みで差押等の手続きをすることができます。
つまり、このような仕組みで差押ができる請求権は、「租税等の請求権」として、個人再生を行っても減額できません。
具体的には、市県民税、固定資産税などの市税や国民健康保険料や社会保険料などの保険料が減額できません。
4 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求とは、人を殴った場合の慰謝料など、故意に行った違法行為についての損害賠償を指します。
ここでいう「悪意」とは法律用語で、言い換えるなら「わざと」という言葉が一番しっくりくるかもしれません。
「悪気があって」という意味とは少々ニュアンスが違います。
稀にあるケースとして、借金の返済に困って会社のお金に手を付けてしまった場合などはこれにあたり、個人再生をしても減額することができません。
また、支払うお金がないからと返さないと刑事事件にされるリスクもあるため、扱いは慎重にならなければいけません。
5 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
典型例としては、交通事故で相手に怪我をさせた場合の治療費などがこれにあたります。
「故意又は重大な過失」が条件であるため、裏返すと通常の過失や軽過失により発生した事故によりけがを負わせた場合は、個人再生で減額の対象になる可能性があります。
もっとも、このようなケースでは被害者側からの強い反対が想定され、個人再生の手続きが難航する恐れがあるため、よく弁護士に相談しましょう。
6 まずは弁護士に相談
以上を見ていくとわかるように、どれが減額できてどれが厳格できないかは、個別に見ていくとかなり専門的な内容です。
もっとも、減額できると思っていたものが減額できないとすると将来の返済計画が大きく崩れます。
そのため、不安がある場合は、まずは弁護士に相談しましょう。