1 単純承認になる可能性
相続放棄の相談で、最も多くの相談をもらうのが遺品整理です。
これは、遺品整理が、財産処分にあたるとされると単純承認になる可能性があるためです。
単純承認をしてしまうと問題になる場面は以下の2点です。
・家庭裁判所に相続放棄の申立てをした際に、相続放棄が認められない可能性がある。
・相続放棄が認められた後、債権者が相続放棄が無効だとして、相続放棄した人を訴えてくる可能性がある。
どちらの場合でも、相続放棄ができなくなってはしまうため、亡くなった人の借金を全額支払わなければいけなくなってしまいます。
2 どこまでなら遺品整理してよいか
遺品には一切手を付けないのが安全ではありますが、一切の遺品整理がいけないかというとそういうわけではありません。
過去の裁判例では、亡くなった人の家に残されたごみを処分した場合でも相続放棄は有効と認められたケースがあります。
また、相続の単純承認になるには、相続を認めたといえるだけの行為である必要があるとされているため、あらゆる行為が単純承認になるわけではありません。
そのため、衣類やごみなどおよそ財産的価値のないものを捨てるなどして処分したとしても相続放棄ができなくなる可能性はそこまで高くはないと思われます。
もっとも、何をもって財産的価値がないとするかは難しく、走行距離の長い年式の古い車は、買取価格は0円だとしても、おそらく財産的価値がないとまでは言い切れないと思います。
中古の家電製品も難しいところです。
そのため、可能であれば、遺品整理は一切手を付けずにいられるのならそれが安全です。
3 いつまで保管するか
遺品に手を付けないとして、いつまで保管をするかという問題はあります。
例えば、亡くなった人の名義の車を処分しない場合は、今後ずっと駐車場代を払わなければいけないのかということになります。
この点、家庭裁判所において相続放棄が認められたら処分していいと勘違いしている人が多いですが、単純承認にあたるかどうかに時期は関係ないため、相続放棄が認められた後でも処分をしてはいけません。
後々の訴訟で争われて相続放棄が無効となる可能性があります。
というのが、一般的な案内ですが、実際のところ、遺品整理をしても相続放棄が認められなかったり、後日、訴訟で相続放棄が認められなかったりする可能性はそこまで高くありません。
例えば、家庭内の遺品整理であれば、どんな遺品があり何を捨てたのか証拠がほとんど残らないため、おそらく訴訟になっても証拠不十分で、相続放棄が無効になる可能性は低いでしょう。
また、仮に遺品整理をしていた場合でも、それを追求するために、債権者が弁護士を入れて数十万円の経費をかけて訴訟まで起こすかというと、借金の金額次第では、回収できる借金よりもかかる経費の方が多くなってしまうので、訴訟まで行かないことの方が多いです。