個人再生で減額できない債権

1 税金など一部の未払金は減額されない

個人再生は、借金を減額した上で3年や5年といった期間かけて分割払いしていく手続きです。

もっとも、全ての借金や未払金が減額されるわけではなく、税金など一部の債権は個人再生をしても減額されることはなく、そのまま支払い続けなければなりません。

民事再生法122条において「一般の先取特権その他一般の優先権」(一般優先債権)は、個人再生を行っても減額されません。

また、抵当権など担保がついている債権は、個人再生をしても担保権の実行をすることができるため、個人再生で減額をする前に債権回収が行われてしまいます。

個人再生で減額されない債権は、一覧にすると以下のとおりです。

もっとも、細かくみていくと、民事再生法以外の法律も関係してくるため、減額されるのか減額されないのか、弁護士でも判断に困ることもあります。

そこで、以下でいくつかピックアップして細かく説明します。

2 担保権のついている債権

 自宅に抵当権を付けるなどして担保に借入を行った借金は、別除権を有します。(民事再生法53条1項)

 別除権を有する債権は、個人再生の手続中であっても別除権の行使が可能です。(民事再生法53条2項)

 つまり、例えば自宅に抵当権を借りた不動産担保ローンについては、自宅を競売にかけて売却することができ、借金を自宅の売却代金から回収されてしまいます。

 また、リースで購入した自動車については、所有権留保が自動車についているため、自動車は引き揚げられて売却されてしまいます。

 なお、「個人再生において住宅ローンは残せる」とよく言われますが、住宅ローンも別除権付債権にあたり、原則は自宅の競売が可能です。

 しかし、住宅ローンについては特例があり、要件を満たせば例外的に住宅を売却されずに残せることになっています。

3 租税等の請求権

「租税等の請求権」については、「一般優先債権」(民事再生法第122条1項)にあたり、個人再生で減額ができません。

租税というと、いわゆる税金をイメージしますが、税金以外の国民健康保険料や社会保険料なども租税債権に含まれます。

「租税等の請求権」は、「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」とされています。(破産法97条4号)

国税徴収法では通常の民事訴訟等を経ないで差し押さえをすることができますが、市税や保険料などは、国税徴収法と同じ仕組みで差押等の手続きをすることができます。

つまり、このような仕組みで差押ができる請求権は、「租税等の請求権」として、個人再生を行っても減額できません。

具体的には、市県民税、固定資産税などの市税や国民健康保険料や社会保険料などの保険料が減額できません。

4 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求とは、人を殴った場合の慰謝料など、故意に行った違法行為についての損害賠償を指します。

 ここでいう「悪意」とは法律用語で、言い換えるなら「わざと」という言葉が一番しっくりくるかもしれません。

 「悪気があって」という意味とは少々ニュアンスが違います。

 稀にあるケースとして、借金の返済に困って会社のお金に手を付けてしまった場合などはこれにあたり、個人再生をしても減額することができません。

 また、支払うお金がないからと返さないと刑事事件にされるリスクもあるため、扱いは慎重にならなければいけません。

5 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

 典型例としては、交通事故で相手に怪我をさせた場合の治療費などがこれにあたります。

 「故意又は重大な過失」が条件であるため、裏返すと通常の過失や軽過失により発生した事故によりけがを負わせた場合は、個人再生で減額の対象になる可能性があります。

 もっとも、このようなケースでは被害者側からの強い反対が想定され、個人再生の手続きが難航する恐れがあるため、よく弁護士に相談しましょう。

6 まずは弁護士に相談

以上を見ていくとわかるように、どれが減額できてどれが厳格できないかは、個別に見ていくとかなり専門的な内容です。

もっとも、減額できると思っていたものが減額できないとすると将来の返済計画が大きく崩れます。

そのため、不安がある場合は、まずは弁護士に相談しましょう。

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相続放棄にかかる費用

1 費用の種類

相続放棄では、次のような種類の費用がかかります。

・収入印紙:800円

・予納郵券:約500円

・郵便切手代:数百円~数千円

・定額小為替:300円~750円×戸籍等の枚数

・弁護士費用等:2万円~

以下で、詳細を説明します。

2 収入印紙:800円

相続放棄の申立書には、収入印紙800円を貼る必要があります。

申立書は相続人の人数分だけ用意する必要があるため、子供2人が相続放棄する場合は、800円×2人=1600円必要になります。

3 予納郵券:約500円

相続放棄の申立書には、未使用の郵便切手をつける必要があります。

裁判所は、申述人から提出された切手を使って、様々な書類の郵送をします。

切手の金額と枚数は、裁判所ごとに違うことがあり、随時金額も変更されるため、申し立てる前に裁判所のホームページで確認する必要があります。

東海市を管轄する名古屋家庭裁判所半田支部では、現在時点では、84円切手×5枚が必要になります。

予納郵券は、相続人の人数分用意する必要になることがほとんどです。

4 郵便切手代:数百円~数千円

相続放棄の申述書は、裁判所に持参することもできますが、郵送することもできます。

郵送の場合は、その分の切手代がかかります。

紛失してしまうと一大事のため、念のため簡易書留等を利用した方がいいため、500円程度はかかります。

また、相続放棄をする際は、戸籍や住民票が必要になります。

必要な戸籍等については、以下のとおりです。

戸籍や住民票は、窓口で発行ができますが、遠方の市役所で取得しなければいけない場合は郵送で申請書を送り、郵送で戸籍等を送ってもらいます。

往復の切手代がかかるため、1通取得するのに数百円~1000円程度かかります。

5通取寄せると、3000円程度は見ておいた方が良いでしょう。

5 定額小為替:300円~750円×戸籍等の枚数

相続放棄をする際は、戸籍や住民票が必要になり、手数料がかかります。

発行手数料は市役所ごとに違いますが、

住民票:200~400円

戸籍謄本:450円

除籍謄本:750円

の市役所・区役所がほとんどです。

相続放棄で必要になる戸籍は以下のとおりです。

なお、相続関係によって、追加で戸籍謄本等が必要になることがあるので、正確には専門家に相談することをお勧めします。

⑴ 子供が放棄をする場合

・被相続人の除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

⑵ 孫が相続放棄する場合

・被相続人の除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子(相続人の親)の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑶ 親が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑷ 祖父母が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑸ 兄弟姉妹が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑹ 甥姪が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の兄弟姉妹(相続人の親)の死亡の記載のある戸除籍謄本

6 弁護士費用等:2万円~

相続放棄を弁護士等の専門家に依頼する場合は、上記のような経費とは別に専門家の費用が掛かります。

相続放棄を依頼する専門家としては、弁護士と司法書士が挙げられますが、料金はほぼ変わらないことが多いです。

料金は事務所ごとにバラバラであるため、よく比較した方が良いですが、相続人1人あたり2万円~10万円程度のことが多いです。

また、相続放棄の料金は、相続関係の複雑さやサービス内容によって変わってくるため、単に値段で比較するので、なにをどこまでやってくれるかを良く確認した方が良いでしょう。

例えば、司法書士は書類を作ることしかできず、裁判所や借金の取立に対する窓口にはなれないため、裁判所からの質問があった場合や借金の取立てがあった場合の対応は自分でやることになります。

一方で、弁護士は代理人となれるため、裁判所や借金の取立に対する窓口などまで任せることができます。

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自己破産をすると勤務先にバレるか?

1 勤務先にバレないことが多い

自己破産をしても、勤務先に連絡は必須ではないため、バレないことが多いです。

もっとも、以下のパターンでは勤務先に自己破産の手続き中であることが伝わってしまう可能性があります。

以下で、詳しく説明します。

2 ①給料の差押えがされた場合

借金を支払わないまま放置しておくと、訴訟や支払督促などの法的手続きを取られます。

そして、裁判所からの呼出等を放置したり、裁判所において分割払いの合意ができなかったりすると、債務名義を取られてしまいます。

給料の差押えは、自己破産でなくとも任意整理(借金の分割払い交渉)でも発生する可能性のある話ですが、自己破産の場合は、

の2点から、早期に分割払いの和解をして差し押さえを止めることができないため、リスクが高くなりがちです。

3 ②勤務先に借金がある場合

勤務先から給料を前借している場合や、社長から借金をして毎月の給与から天引きをしていることはよくあると思います。

自己破産の場合は、借金の支払いを全て止めなければならず、貸金業者には返済せず勤務先だけに返済を継続するということになると、「偏波弁済(へんぱべんさい)」にあたり免責不許可事由として破産ができなくなる一因となってしまいます。

そのため、勤務先に

を説明しなければいけないため、勤務先に自己破産をしていることがバレることにはなってしまいます。

差押えは、破産の申立てをすれば止められるため、対策としては、できる限り早く破産の申立ての準備を終わらせることになります。

4 ③退職金額の証明書を発行依頼する場合

自己破産の手続きにおいては、現在退職した場合の退職金の金額を裁判所に報告する必要があります。

大企業の場合は、人事システムが整備されており、社員がいつでもアクセスして退職金額を調べることができる場合もあります。

しかし、大半の企業ではそこまでシステムが整備されていることは珍しく、退職金額を確認するには、人事部などに問い合わせをしなければいけないことが多々あります。

具体的には、退職金額の報告方法は以下のとおりです。

a.b.d.の場合は、勤務先に必ずしも破産のことを話す必要がありません。

特に注意が必要なのが、退職金がなくとも「退職金がないことを証明する資料」は提出しなければいけないことです。

ご自身のケースで、会社への問合せが必要かは、弁護士に確認をした方が良いでしょう。

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相続放棄の延期(期間伸長)をすべきか

1 相続放棄の3か月の期限は延長できる。

相続放棄は、原則、死亡を知った時から3か月以内に裁判所に申立てを行う必要がありますが、この3か月の期限は延長することができます。

正式には、相続放棄の承認又は放棄の期間伸長申立てといいます。

延長できる期限は、裁判所ごとに違いがありますが、一般的には、3か月間延長しそれでも足りなかったら再度3か月延長の申請をします。

2 相続放棄の期限を延長するには、調査に時間がかかるなどの理由がいる。

相続放棄の期間伸長は、「相続すべきか、相続放棄をすべきかを決めるのに時間が足りない」という理由があって初めて認められます。

特に理由のない期間伸長の申立ては却下されるため、注意が必要です。

一般的なケースとしては、次のような場合です。

このケースの場合は、借金の調査が3か月で終わらなかったので、延長を求めるということになります。

逆に、特にこれ以上調査をすべきこともないとか、何の調査もしないまま、期限を延長したいと言っても却下されるでしょう。

(相続人には、財産調査をする権利があります。)

3 相続放棄の期限は、無制限に延長できるわけではない。

相続放棄の期限は、何回でもいつまでも延長できるわけではありません。

理由としては、借金を請求する立場の人からすれば、相続放棄の期限が延期されている間はいつまで経っても借金の請求ができないという不安定な状況になってしまうためです。

そこで、期限の延期は裁判所が許可した場合しか認められず、理由がなければ却下されます。

もっとも、1回目の延期(3か月→6か月)は比較的緩やかに認められます。

一方で、2回目以降(6か月以上)に延ばすためには、1回目の期限延長の間(3か月~6か月)にどのような調査を行って、どこまで調査が終わり、これからどのような調査を何か月かけて行うかを詳細に報告しなければいけません。

何も調査をせず6か月が経過してしまった場合は、延長が却下されることもありうるため注意が必要です。

4 「相続放棄が間に合わないから、期限を延期する」という選択肢は存在しない。

相続放棄の申立ては、戸籍を集めたりしなければいけないため、急いでも申立まで1~2か月程度かかることがあります。

そのため、「相続放棄の手続きが間に合わないから、期限の延期をしたい」という相談を良くいただくのですが、それは無理です。

なぜなら、相続放棄の期間伸長に必要な書類は相続放棄と全く同じで、期間伸長の理由説明をしなければいけない分、むしろ期間伸長の申立ての方が手間がかかります。

そのため、「相続放棄の手続きが間に合わない」=「期間伸長の申立ても間に合わない」となってしまいます。

「調査をしないと放棄するか決められない」という状況でなければ、期間伸長はせずに、相続をするか放棄をするかを決めて申立てをしてしまった方が良いケースがほとんどです。

相続放棄をすべきかは、弁護士によく相談しましょう。

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自己破産と個人再生における家計簿の作り方

1 自己破産や個人再生では、家計簿を作る必要がある。

 自己破産と個人再生は、裁判所を利用して借金を減らす手続きですが、お金を貸した人は借金が返ってこなくなるという極めて重大な不利益があるため、審査は厳格に行われます。

 裁判所の審査の一つとして、家計簿を作成して裁判所に提出する必要があります。

 裁判所は家計簿を見ることで

① 浪費などがなくなり、生活が改善されているか

② 自己破産等が終わった後に、借金をせずやっていけるか(経済的に立ち直れるか)

③ 毎月の安定した返済が可能か(個人再生のみ)

等を審査します。

 以下で、家計簿の作り方や注意点を紹介します。

2 家計簿は、同居の家族全員分の物が必要

 家計簿は、自己破産等をする本人だけでなく、夫や妻、子供、親などの同居してる家族全員分の収支をまとめる必要があります。

 また、籍を入れていない、いわゆる内縁関係の配偶者や同棲している交際相手も家計簿の対象になります。

 以下で説明しますが、同居人の通帳・給与明細・領収書などを裁判所に提出する必要があるため、同居人に自己破産をすることを伝えて協力を貰う必要があります。

 なお、成人した子供が、家賃代わりに生活費を親に支払っており、それ以外の自分の給料は全て自身で使用している場合などは、家計が別ということで通帳等の提出が必要ない場合もあり得ます。

 もっとも、そのような場合でも、裁判官次第で提出を求められることもあるため、基本は協力は必要と腹積もりをしておいた方が良いです。

3 家計簿のまとめ方

 家計簿は、1か月の収入や出費を1枚の紙にまとめます。

 用紙をみればわかりますが、収入については

給料(申立人) 35万円

給料(配偶者) 10万円

給料(長男) 20万円

当月収入計 65万円

といったようにまとめます。 

また、出費も、食費、家賃など、項目別に1か月分をまとめて記載します。

収入や家賃、水道光熱費などは1円単位で正確に記入する必要がありますが、食費や日用品などは概算でも大丈夫です。

4 家計簿につける資料

家計簿には、セットで資料をつける必要があります。

必要になる資料は、以下のとおりです。

① 通帳のコピー(該当する月のページ、同居人全員分)

② 給与明細(同居人全員分)

③ 児童手当、年金などの受給金額がわかる資料(ハガキや受給証明など)

④ その他、収入の明細がわかる資料(個人事業主の場合、請求書や領収書など)

⑤ 家賃、水道光熱費、保険料などの領収書

⑥ 1万円を超えるような高額な出費の領収書

⑦ ATMでおろした現金の使用した内訳のメモ等

5 家計簿が必要な期間

 家計簿は、もっとも少なければ1か月分、多いと1年間毎月作成する必要があります。

 手続きの内容によって変わってきます。

 具体的には、以下のとおりです。

① 自己破産の同時廃止事件

 申立ての前月、もしくは前々月の家計簿1か月が必要になります。

(7月申立てなら、5月分か6月分の家計簿を提出)

 申立て後は、家計簿の提出は必要ありません。

② 自己破産の管財事件の場合

 申立ての前月、もしくは前々月の家計簿1か月が必要になります。

 また、申立て後、開始決定もしくは初回の管財人面談までの家計簿(追加で1~3か月分くらい)は提出が必要になります。

 また、裁判所などの指示により、さらに追加で必要な場合もあります。

③ 個人再生の場合

 申立て前3か月分の家計簿1か月が必要になります。

(7月申立てなら、4~6月分)

 また、申立て後、返済の練習(履行テスト)を3か月行う必要があり、その期間は家計簿の提出が必要になります。

6 とりあえず弁護士に相談

 裁判所の求める家計簿は少々特殊で、慣れないと作成に戸惑うことがほとんどです。

 また、家計簿の内容も家族ごとに注意点が様々です。

 何はともあれ、弁護士に相談して、自分の場合はどのようなところに注意すればいいかを質問するのがいいでしょう。 

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会社の破産と代表者(社長)の破産

1 会社だけの破産はできるか?

会社を作って事業をやる場合、例えば飲食店であれば店舗の内装や調理器具などの初期投資のために借金をすることが多いです。

運送業であれば初期投資としてトラックを購入したり、仲介業であれば外注への支払いや資金繰りのために借り入れをします。

その場合、法人を作り、法人名義で借金をして会社代表者が連帯保証人になっていることがほとんどです。

そのため、会社を破産すると、会社代表者に一括で借金の請求がされるため、結局は会社代表者も破産や個人再生をしなければいけなくなってしまいます。

2  代表者が連帯保証人になっていない場合

たまに、事業資金を銀行から借り入れている場合でも、会社代表者が連帯保証人になっていない場合があります。

また、法人名義のクレジットカードの滞納分や、取引先からの材料の仕入れ費や外注業者への支払いの未払いであれば、連帯保証人がついていないことが多いです。

このような場合、会社だけ破産させて、会社代表者はそのままにできないかという相談はかなり多くいただきます。

理由としては、会社と会社代表者の財産がしっかり区別されていることがまずないため、財産隠しができてしまうためです。

会社の破産だけ認めると、例えば会社に1000万円の預金と1億の借金がある場合に、1000万円を役員報酬として支払ってしまえば、1000万円を手放さずに1億円の借金だけ破産できてしまうからです。

3 会社のみの破産申立をするとどうなる?

破産申立をすると、裁判所が開始決定を出すと初めて手続が始まります。

会社の破産のみを申し立てても、会社代表者の破産申立がされない限り、開始決定を裁判所が出さない運用にしています。

そのため、いつまでも破産ができないことになり、最終的には申立を取り下げなければいけなくなります。

なお、個人に借金が一切ない場合は、「支払不能」という破産の要件を満たさないため、その場合は個人の財産状況を、破産申立と同レベルで正確に報告することになります。

(ただし、おそらくは会社からの貸付金などで、会社代表者が会社から借金を負っていると判定されて、自己破産せざるを得なくなるケースが多いです。)

4 まずは弁護士に相談

会社の破産はかなり複雑で、インターネットで少し調べたくらいでは気付けないような注意点などが多くあります。

個人の自己破産をやっている弁護士でも、会社の破産の経験がないと見落としがあることが多々あります。

そのため、会社を経営していて、支払いが苦しくなってきたと感じた場合は、まずは会社の破産に詳しい弁護士に相談してみてください。

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相続放棄と遺品整理

1 単純承認になる可能性

相続放棄の相談で、最も多くの相談をもらうのが遺品整理です。

これは、遺品整理が、財産処分にあたるとされると単純承認になる可能性があるためです。

単純承認をしてしまうと問題になる場面は以下の2点です。

・家庭裁判所に相続放棄の申立てをした際に、相続放棄が認められない可能性がある。

・相続放棄が認められた後、債権者が相続放棄が無効だとして、相続放棄した人を訴えてくる可能性がある。

どちらの場合でも、相続放棄ができなくなってはしまうため、亡くなった人の借金を全額支払わなければいけなくなってしまいます。

2 どこまでなら遺品整理してよいか

遺品には一切手を付けないのが安全ではありますが、一切の遺品整理がいけないかというとそういうわけではありません。

過去の裁判例では、亡くなった人の家に残されたごみを処分した場合でも相続放棄は有効と認められたケースがあります。

また、相続の単純承認になるには、相続を認めたといえるだけの行為である必要があるとされているため、あらゆる行為が単純承認になるわけではありません。

そのため、衣類やごみなどおよそ財産的価値のないものを捨てるなどして処分したとしても相続放棄ができなくなる可能性はそこまで高くはないと思われます。

もっとも、何をもって財産的価値がないとするかは難しく、走行距離の長い年式の古い車は、買取価格は0円だとしても、おそらく財産的価値がないとまでは言い切れないと思います。

中古の家電製品も難しいところです。

そのため、可能であれば、遺品整理は一切手を付けずにいられるのならそれが安全です。

3 いつまで保管するか

遺品に手を付けないとして、いつまで保管をするかという問題はあります。

例えば、亡くなった人の名義の車を処分しない場合は、今後ずっと駐車場代を払わなければいけないのかということになります。

この点、家庭裁判所において相続放棄が認められたら処分していいと勘違いしている人が多いですが、単純承認にあたるかどうかに時期は関係ないため、相続放棄が認められた後でも処分をしてはいけません。

後々の訴訟で争われて相続放棄が無効となる可能性があります。

というのが、一般的な案内ですが、実際のところ、遺品整理をしても相続放棄が認められなかったり、後日、訴訟で相続放棄が認められなかったりする可能性はそこまで高くありません。

例えば、家庭内の遺品整理であれば、どんな遺品があり何を捨てたのか証拠がほとんど残らないため、おそらく訴訟になっても証拠不十分で、相続放棄が無効になる可能性は低いでしょう。

また、仮に遺品整理をしていた場合でも、それを追求するために、債権者が弁護士を入れて数十万円の経費をかけて訴訟まで起こすかというと、借金の金額次第では、回収できる借金よりもかかる経費の方が多くなってしまうので、訴訟まで行かないことの方が多いです。

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3か月を経過した相続放棄の解決事例

1 事案の概要

実家には、両親と兄が住んでいましたが、10年以上前に両親が亡くなり、昨年、兄が亡くなったため、実家の土地と建物が残りました。

実家の建物は古く、このまま放っておくと倒壊する恐れもあるため、取り壊しをする必要がありました。

建物を解体するとなると数百万円単位の費用がかかってしまうため、兄が亡くなったタイミングで相続放棄をしようと考えました。

しかし、法務局で土地と建物の名義を調べたところ、父と母と兄の名義がそれぞれ入っていました。

そこで、どうにか管理責任を免れるために、弁護士に相談をしました。

2 相続放棄をする場合の問題点

このケースの問題点は、兄の相続放棄をしても、実家に父と母の名義が残っているため、不動産の管理責任が残ってしまうことです。

不動産の管理責任があると、万が一、実家が倒壊して周りの住民に損害を負わせたら、それを賠償する必要があります。

しかし、父と母の相続放棄をしようにも、両親は10年以上前に亡くなっているため、相続放棄の期限である3か月を大幅に過ぎてしまっています。

そこで、10年以上前に亡くなった父と母の相続放棄をする必要があります。

3 解決方法

亡くなったことを知った時から3か月を過ぎた場合は、財産や借金の存在を知らなくても、原則として相続放棄はできません。

しかし、過去の裁判例で、いくつかの条件を満たせば、例外的に相続放棄ができる場合があります。

その条件は、次の2つです。

① 被相続人に、相続財産又は相続債務が一切ないと信じていたこと

② 相続財産や相続債務が一切ないと信じたことに相当な理由があること

つまり、今回の場合は、実家が兄の名義で両親の名義ではないと信じていたこと(①)、実家の名義が兄の名義であると信じたことに理由があること(②)が必要になります。

もっとも、相続人は、被相続人が死亡したときに財産を調査する義務があるため、単に「知りませんでした。」というだけでは「調べたらわかることなのに、調べなかった方が悪い。」ということで、相当な理由がないと裁判所が認定し相続放棄が却下されてしまいます。

そこで、実家の名義が両親のものだと知らなかったことがどれだけ仕方ないことか、説得的に説明できるかが重要になります。

今回のケースでは、

両親が亡くなったあとに、10年以上も兄が実家に暮らしていたこと

昔、実家の名義を兄の名義に変更する手続きをしたことがあること

(司法書士に任せていたため、実際には、一部の名義しか変わっていなかった)

から、実家が兄の名義であると信じたことに相当な理由があるとして相続放棄が認められました。

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3か月を経過した相続放棄の解決事例2

 今回ご紹介する件は、相続放棄の期限は 年前に過ぎていましたが、かなり複雑な法律構成をしたところ、どうにか相続放棄が認められた事案です。

1 事案の概要

 父親は個人事業をしていましたが上手くいかず、銀行から2000万円以上の借金をしていました。

 7年前、父親が亡くなりましたが、その時、依頼者の方はまだ高校生でした。

 そのため、葬式や死亡手続などは母親が全て行い、依頼者の方は借金があることを教えられていませんでした。

 その後、7年経ち、母親宛で自宅に届いていた封筒を開けたところ、父の借金が2000万円以上残っており、長男である依頼者の方がその半分の1000万円を相続していることを知りました。

2 相続放棄をする場合の問題点

 この事案の問題点は、相続放棄の期限が、父親が亡くなった日から3ヶ月であることです。

 つまり、相続放棄の期限は7年前に過ぎているのです。

 その理由は以下の2つです。

① 借金を知らなくても、死亡したことを知っていれば、相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

② 未成年者の場合、子供が知らなくても、親(=法定代理人)が知ったときから相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

 ①については、民法で「自己のために相続の開始を知ったときから3ヶ月」と定められており、この「自己のために相続の開始を知ったとき」というのは、原則は借金の存在は知らなくても良いとされています。 

民法 915条

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 ②については、民法で次のように定められています。

民法 第917条

 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間(相続放棄の期限)は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

 そのため今回は、母親が、父親の死亡を知った7年前に相続放棄の3ヶ月の期限がスタートしてしまうのです。

3 解決方法

 今回は、相続放棄の3ヶ月の期限のスタート地点を、子供である依頼者の方が借金を知ったときにする必要があります。

 この点については、有名な裁判例があり、いくつか条件を満たせば、亡くなった人の借金を知ったときから3ヶ月以内の相続放棄を認めた先例があります。

最高裁 昭和59年4月27日判決(判例タイムズ528号81頁、判例時報1116号29頁 )
 熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識うべかりし時から起算するのが相当である。

 しかし、これだけでは②の問題点をクリアできません。

 母親が、亡くなった父親の借金を知っていたため、いずれにしろ7年前に相続放棄の期限は過ぎてしまいます。

 そこで、母親が相続放棄をしなかったこと(相続の単純承認)が利益相反に当たるとして、取消しを主張したところ、無事に相続放棄が認められました。

(本当は、不作為である単純承認が取り消せるのかといった問題など、様々な問題がありましたが、そこもどうにかなりました。)

4 3ヶ月を過ぎた相続放棄は弁護士に

 3ヶ月を過ぎたケースでも、相続放棄を認められるケースはあります。

 司法書士の先生などは、3ヶ月を過ぎた時点で「無理だから諦めた方が良い」と案内をすることも多いようですが、弁護士がちゃんと意見書を書けばそのような場合でも相続放棄できることがあります。

 3ヶ月を過ぎてしまった場合でも、まずは弁護士に相談してみてください。

 なお、このケースは、弊社の相続が詳しい弁護士にも「難しいかもしれない」と言われてはいました笑

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3か月を経過した相続放棄の解決事例1

 昨年の私が行った相続放棄の件数を数えたところ、約320件でした。

 もちろん、320件の中には、死亡したことを知ってから3か月を経過した案件もかなりの数ありました。

 依頼をいただいた案件は、100%相続放棄は成功しているのですが、その中でも特に難しかった案件をいくつか紹介したいと思います。

1 3年前に死亡した父の借金の手紙を、開けずに放置していたケース

概要)

 父が、40年前に自宅を買い住宅ローンを組んだが、支払ができず自宅は競売になってしまい、借金も残ってしまった。

 そのとき、まだ息子である相談者は高校生で、住宅ローンがあることすら知らず、なぜか引っ越しになったくらいにしか考えていなかった。

 3年前に父が死亡したときにも、父宛に未払の住宅ローンの請求は届いていたが、封筒を開けなかったため借金の存在に気づけなかった。

 父死亡の3年後に、相談者宛に約8000万円の住宅ローンの支払を求める手紙が届き、相続放棄ができないか、急いで弁護士に相談した。

問題点)

 相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始を知った時から3か月」とされています。

 3か月の期限のスタートになる「自己のために相続の開始を知った」とは、このケースでは、父親が死亡したことを知った時から3か月になります。

 問題は、借金を知った時から3か月ではないため、原則は、相続放棄の期限自体は3年前に過ぎてしまっていることです。

 このケースは、借金を知った時から3か月で相続放棄を認めた最高裁判所の裁判例に紐づけて意見書を書いたことで、借金を知った時から3か月以内の相続放棄が認められました。

2 30年以上前に死亡した祖父母の実家の固定資産税の支払を求められたケース

概要)

 30年以上前に祖父母が亡くなり、実家は祖父母名義のままだった。

 実家には、祖父母の長男(相談者から見て叔父)の夫婦が住んでいた。

 1年前に、相談者の叔父家族が亡くなったため、今頃になって相談者に固定資産税の支払の請求が来た。

問題点)

 この件は、

祖父母 死亡

     ↓ 25年後

相談者の母(長女) 死亡

    ↓ 5年後

相談者(孫) 相続放棄

と相続をしています。

 そのため、相続放棄をするのであれば、5年前に相談者の母(祖父母の長女)が相続放棄をしていなければなりませんでした。

 再転相続放棄という制度もあるのですが、その場合も、祖父母が死亡してから3か月以内に母親が死亡している必要があります。

 つまり、本来は、以下のようなスケジュールで放棄をする必要があります。

祖父母 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者の母(長女) 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者(孫) 相続放棄

 2か所で3か月の期限を、25年、5年と大幅に過ぎてしまっています

 このケースも、実家については居住している長男の所有物だと思っていたことを理由に、相続放棄が認められました。

 このケースは、退職した裁判官にも「無理だから諦めた方がいい」と言われていましたが、何とか解決できました。

 司法書士や専門でない弁護士はまず断る案件でしょうが、弁護士が意見書を書くことでどうにかなることもある、いい例かなとは思います。

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