3か月を経過した相続放棄の解決事例2

 今回ご紹介する件は、相続放棄の期限は 年前に過ぎていましたが、かなり複雑な法律構成をしたところ、どうにか相続放棄が認められた事案です。

1 事案の概要

 父親は個人事業をしていましたが上手くいかず、銀行から2000万円以上の借金をしていました。

 7年前、父親が亡くなりましたが、その時、依頼者の方はまだ高校生でした。

 そのため、葬式や死亡手続などは母親が全て行い、依頼者の方は借金があることを教えられていませんでした。

 その後、7年経ち、母親宛で自宅に届いていた封筒を開けたところ、父の借金が2000万円以上残っており、長男である依頼者の方がその半分の1000万円を相続していることを知りました。

2 相続放棄をする場合の問題点

 この事案の問題点は、相続放棄の期限が、父親が亡くなった日から3ヶ月であることです。

 つまり、相続放棄の期限は7年前に過ぎているのです。

 その理由は以下の2つです。

① 借金を知らなくても、死亡したことを知っていれば、相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

② 未成年者の場合、子供が知らなくても、親(=法定代理人)が知ったときから相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

 ①については、民法で「自己のために相続の開始を知ったときから3ヶ月」と定められており、この「自己のために相続の開始を知ったとき」というのは、原則は借金の存在は知らなくても良いとされています。 

民法 915条

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 ②については、民法で次のように定められています。

民法 第917条

 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間(相続放棄の期限)は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

 そのため今回は、母親が、父親の死亡を知った7年前に相続放棄の3ヶ月の期限がスタートしてしまうのです。

3 解決方法

 今回は、相続放棄の3ヶ月の期限のスタート地点を、子供である依頼者の方が借金を知ったときにする必要があります。

 この点については、有名な裁判例があり、いくつか条件を満たせば、亡くなった人の借金を知ったときから3ヶ月以内の相続放棄を認めた先例があります。

最高裁 昭和59年4月27日判決(判例タイムズ528号81頁、判例時報1116号29頁 )
 熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識うべかりし時から起算するのが相当である。

 しかし、これだけでは②の問題点をクリアできません。

 母親が、亡くなった父親の借金を知っていたため、いずれにしろ7年前に相続放棄の期限は過ぎてしまいます。

 そこで、母親が相続放棄をしなかったこと(相続の単純承認)が利益相反に当たるとして、取消しを主張したところ、無事に相続放棄が認められました。

(本当は、不作為である単純承認が取り消せるのかといった問題など、様々な問題がありましたが、そこもどうにかなりました。)

4 3ヶ月を過ぎた相続放棄は弁護士に

 3ヶ月を過ぎたケースでも、相続放棄を認められるケースはあります。

 司法書士の先生などは、3ヶ月を過ぎた時点で「無理だから諦めた方が良い」と案内をすることも多いようですが、弁護士がちゃんと意見書を書けばそのような場合でも相続放棄できることがあります。

 3ヶ月を過ぎてしまった場合でも、まずは弁護士に相談してみてください。

 なお、このケースは、弊社の相続が詳しい弁護士にも「難しいかもしれない」と言われてはいました笑

3か月を経過した相続放棄の解決事例1

 昨年の私が行った相続放棄の件数を数えたところ、約320件でした。

 もちろん、320件の中には、死亡したことを知ってから3か月を経過した案件もかなりの数ありました。

 依頼をいただいた案件は、100%相続放棄は成功しているのですが、その中でも特に難しかった案件をいくつか紹介したいと思います。

1 3年前に死亡した父の借金の手紙を、開けずに放置していたケース

概要)

 父が、40年前に自宅を買い住宅ローンを組んだが、支払ができず自宅は競売になってしまい、借金も残ってしまった。

 そのとき、まだ息子である相談者は高校生で、住宅ローンがあることすら知らず、なぜか引っ越しになったくらいにしか考えていなかった。

 3年前に父が死亡したときにも、父宛に未払の住宅ローンの請求は届いていたが、封筒を開けなかったため借金の存在に気づけなかった。

 父死亡の3年後に、相談者宛に約8000万円の住宅ローンの支払を求める手紙が届き、相続放棄ができないか、急いで弁護士に相談した。

問題点)

 相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始を知った時から3か月」とされています。

 3か月の期限のスタートになる「自己のために相続の開始を知った」とは、このケースでは、父親が死亡したことを知った時から3か月になります。

 問題は、借金を知った時から3か月ではないため、原則は、相続放棄の期限自体は3年前に過ぎてしまっていることです。

 このケースは、借金を知った時から3か月で相続放棄を認めた最高裁判所の裁判例に紐づけて意見書を書いたことで、借金を知った時から3か月以内の相続放棄が認められました。

2 30年以上前に死亡した祖父母の実家の固定資産税の支払を求められたケース

概要)

 30年以上前に祖父母が亡くなり、実家は祖父母名義のままだった。

 実家には、祖父母の長男(相談者から見て叔父)の夫婦が住んでいた。

 1年前に、相談者の叔父家族が亡くなったため、今頃になって相談者に固定資産税の支払の請求が来た。

問題点)

 この件は、

祖父母 死亡

     ↓ 25年後

相談者の母(長女) 死亡

    ↓ 5年後

相談者(孫) 相続放棄

と相続をしています。

 そのため、相続放棄をするのであれば、5年前に相談者の母(祖父母の長女)が相続放棄をしていなければなりませんでした。

 再転相続放棄という制度もあるのですが、その場合も、祖父母が死亡してから3か月以内に母親が死亡している必要があります。

 つまり、本来は、以下のようなスケジュールで放棄をする必要があります。

祖父母 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者の母(長女) 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者(孫) 相続放棄

 2か所で3か月の期限を、25年、5年と大幅に過ぎてしまっています

 このケースも、実家については居住している長男の所有物だと思っていたことを理由に、相続放棄が認められました。

 このケースは、退職した裁判官にも「無理だから諦めた方がいい」と言われていましたが、何とか解決できました。

 司法書士や専門でない弁護士はまず断る案件でしょうが、弁護士が意見書を書くことでどうにかなることもある、いい例かなとは思います。

相続登記の義務化について

1 令和6年4月1日からは、不動産の名義変更をしないと罰金の可能性

不動産登記法が改正され、来年の4月から施行されます。

今回の改正の目玉は、相続登記の3年以内の申請の義務化で、違反すると、10万円以下の過料(罰金のようなものです。)が発生する可能性もあります。

今までは、全く問題なかったところが、義務化され罰金もあるということで衝撃は大きいかとは思います。

制度の概要について、紹介します。

2 何が変わった?何をすればいい?

今までは、死亡した人の名義の不動産は、名義を書き換えなくとも、何も罰則はありませんでした。

そのため、先代、先々代の名義のまま放置されていることは珍しくありませんでした。

それが、これからは、名義変更をしておかないと罰則が科されるようになりました。

具体的には、死亡してから3年以内に

①相続登記

②相続人申告登記

のどちらかを行わなければいけません。

3 相続登記と相続人申告登記の違い

①相続登記

相続登記は、不動産の所有者が死亡し、相続する人が所有者が決まったら、その新所有者に名義変更をすることです。

「相続登記」という単語は法律には書いておらず、手続的には「所有権移転登記手続」という名前にはなります。

相続登記をするためには、次のような書類が必要です。

遺言がある場合

・遺言書

・死亡した人の戸籍謄本、住民票

・相続する人の戸籍謄本、住民票

・固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書

・申請者の印鑑登録証明書

遺言がない場合

・遺産分割協議書

・死亡した人の出生~死亡までの全ての戸籍謄本

・死亡した人の住民票

・相続人全員の戸籍謄本・住民票

・固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書

・相続人全員の印鑑登録証明書

②相続人申告登記

相続人申告登記は、今回の法律改正で新たに作られた制度です。

相続登記は、遺言書があるか、相続人全員が話し合って1枚の遺産分割協議に実印を押すかしないといけないので、3年以内にできない可能性があります。

そういった場合に、暫定的に行う登記が相続人申告登記です。

法務局の登記簿には、所有者が死亡したこと、相続人申告登記をした人の氏名・住所が記載されます。

必要な書類は、次のとおりです。

・申出をする相続人が、死亡した人(登記名義人)の相続人であることがわかる戸籍謄本等

4 いつまでに申請が必要か

相続登記もしくは相続人申告登記の期限は、相続の開始があったことを知った時から3年です。

つまり、原則は、死亡したことを知った時から3年以内に申告をする必要があります。

遺言があるか、3年以内に遺産分割協議が終わる場合には、相続登記を行います。

また、3年以内に遺産分割協議が終わらない場合には、とりあえずは相続人申告登記をしておけば罰金の心配はありません。

なお、令和6年4月1日より前に死亡している場合は、令和6年4月1日から3年後、すなわち令和9年(2027年)4月1日までが期限となります。

今まで名義変更を放っておいた人も、令和9年(2027年)4月1日までに全ての不動産について行う必要があり、一斉に期限が来てしまうので注意が必要です。

両親、祖父母が土地を持っていたけれど、サインや相続の手続きなどをした覚えがないという人は、まずは弁護士に相談した方が良いでしょう。

相続放棄を弁護士に依頼するメリット

1 そもそも相続放棄は弁護士に依頼すべき?

インターネットで何でも調べられるご時世、相続放棄も、弁護士に依頼しなくても、調べれば自身でできてしまうようにも思えます。

もっとも、インターネットで調べてわかることは法律の一部だけで、本当に注意すべき点はホームページに書いていないことだったりします。

そこで、弁護士に依頼するメリットをいくつか紹介したいと思います。

2 1度きりの相続放棄は失敗できない

相続放棄の手続は、一度申立をして却下されてしまうと、それを覆すのは至難の業です。

「3ヶ月の期限を過ぎてしまう」「裁判所からの問合せの対応を間違えてしまう」など、ご本人で手続きをして失敗してしまうケースは多々あります。

私も、ご本人が申立されて相続放棄が却下されてしまった後に相談を受けたこともありますが、その時点ではもう却下を覆すことはできない状況でした。

裁判所に申し立てる前に相談をいただいていればどうにかできたケースだったので残念でした。

弁護士に依頼すれば、本当なら認められるはずの相続放棄をミスで失敗してしまうということはないのは、メリットの一つでしょう。

3 弁護士に任せっきりにできる

相続放棄を自身で行うと、申立の準備・資料集め・裁判所からの問合せへの対応など、全て自身で対応しなければなりません。

(ご家族の方が代わりに対応することもできません。)

戸籍謄本などの資料を、市役所・区役所が開いている平日の午後5時までに集めるのは、お仕事をされている方ですと中々大変です。

また、本籍地が住んでる場所から遠くにある場合ですと、取り寄せることになり一苦労です。

また、申立書の書き方や裁判所からの問合せの回答を間違えてしまうと相続放棄できなくなってしまうこともあります。

相続放棄が終わるまで、本当に認められるか不安ばかりというのも精神的に辛いものがあります。

この点、弁護士に依頼すれば、これらの面倒事を任せられるので、あとは終わるまで待つだけで精神的にも楽です。

4 まずは弁護士に相談を

相続放棄の相談をしていると、本人は問題だと思っていなかったことが、弁護士からすると大問題で、相談していただいて良かったなんてこともよくあります。

手続も裁判所の手続きとなり大変ですので、まずは弁護士に無料相談をしてみるのが良いかとは思います。

横浜で相続放棄をお考えの方は、こちらをご覧ください。

生活保護を受けていた場合の相続放棄

1 財産が残っていないことが多い

 生活保護を受けるには、収入が最低生活費以下であること、保有資産が一定以下であることなどの条件があります。

 そのため、亡くなった時点でプラスの財産が残っている可能性は低いです。

 相続をしても、マイナスになってしまうことが多いため、相続放棄をした方がいいケースが多いです。

2 数か月経ってから請求が来ることがある

 「借金がないから相続放棄しなくても大丈夫だろう」と放っておくと、数か月してから市役所などから税金や保険料の請求が来てしまうこともあります。

 未払の住民税や水道料金などは、亡くなってすぐ相続人に請求は来ないです。

 独り暮らしで亡くなった場合は、発見後、市役所等が相続人の住所を調査してから、その後に請求書を送ってきます。

 請求書が死亡してから半年、1年経ってに届くことは珍しくありません。

 相続放棄は、亡くなったことを知った日から3か月以内に行うことが原則であるため、請求書が届いてから相続放棄をしても認められないことが多いです。

 そのため、相続人に請求が来ていなくとも、相続放棄をしておくことをお勧めします。

3 生活保護費の返還を求められることも

 生活保護を受けていた方の場合、相続人が、数百万円の生活保護費の返還を求められることがあります。

 生活保護を受けるには、資産が一定以下でなければならず、持ち家がある場合など資産がある場合は、原則として生活保護を受けられません。

 しかし、持ち家を売却して引っ越しをするとかえって費用が掛かってしまう場合や、賃貸物件が借りられない場合は、例外的に持ち家を売却せずに生活保護を受けられることがあります。

 この場合は、生活保護を受けている方が亡くなった後に、受け取った生活保護費を返還しなければいけなくなることがあります。

 生活保護費の返還額は、持ち家の売却金額になるため、多くは数百万円になってきます。

4 生活保護を受けている方の相続は放棄するべき?

 そもそも、相続は、

① 既にわかっているプラスの財産があるとき

② 借金がないことが確実な場合

のどちらかの場合に行うべきで、それ以外の場合は、相続放棄をした方が良いケースがほとんどです。

 しかし、

「生活保護を受けている」

=プラスの財産はまずなく(≠①)、親戚の支援を受けられなかった結果として生活保護になっているため財産状況を知っている人がほとんどいません(=②)。

 そのため、生活保護を受けている方の相続は、プラスの財産よりマイナスの財産の方が多く、相続をすると赤字になってしまうケースが多いです。

 そのため、費用をかけてでも速やかに相続放棄をした方が良いケースが多いです。

 

相続土地国庫帰属制度はあまり役に立たない?

 令和5年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度ですが、近年ニュースでもよく取り上げられる「相続空き家問題」などを法律で解決してくれる画期的な制度に聞こえます。

 しかし、制度の中身を見ていくと、おそらくあまり役には立ちそうもありません・・・

1 相続土地国庫帰属制度とは?

 相続土地国庫帰属制度とは、その名のとおり、相続で取得した土地を国庫に帰属、すなわち国の物にしてしまう制度です。

 国のものにしてしまうということは、今後、草刈りなどの管理や固定資産税の支払いなどをしなくてよくなるということです。

 法務省のHPでも、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由が挙げられています。

 こういった土地が放置されると、一応は他人の土地ということで国すらも手が付けられなくなってしまうので、それを解消しようという制度です。

 これだけ聞くと確かに便利そうな制度です。

2 そもそも、なぜ土地を手放したい?

 管理が大変であれば、売ってお金に換えてしまえば終わりです。

 それができないのは、次のような理由があるからです。

⑴ 価値のない土地で費用の方が高く赤字になる。

 東京の都心の土地であれば、一戸建てで1億円を超えることも珍しくありません。

 しかし、地方の土地は、土地の価値が100万円に対し、空き家の解体費用が400万円なんてことは珍しくありません。

 また、土地に値段がつけばいい方で、いわゆる田畑や山林などは、そもそも価値がなく買い手すら見つかりません。

 そのため、売ろうにも、赤字になってしまうため売れないのです。

⑵ 相続放棄をしたくても、管理責任が残ってしまう。

 手放すだけであれば、既に相続放棄という便利な制度があります。

 しかし、相続放棄は、放棄した後も管理責任が残ってしまいます。

 空き家を相続放棄して放置してしまうと、倒壊したときの賠償責任が、ということもありえます。

 相続して空き家を解体しようにも、名前も連絡先も知らない相続人がいて解体ができない。

 一方で、相続放棄をして相続財産管理人を立てようにも、弁護士費用や裁判所への予納金で100万円単位でお金が必要とジレンマに陥ってしまうのです。

3 相続国庫土地帰属制度は役に立つ?

 では、今回の制度は、今までの「赤字になる」「空き家の解体ができない」といった問題点を解決できるのかというと、できません。

⑴ 10年分の管理費を支払う必要

 まず、この制度は、申請の際に10年分の管理費を納めなければなりません。

 しかし、「お金がかかるから」「赤字になるから」という理由で手放せない人のために作られた制度なのに、結局お金がかかるので本末転倒です。

 お金がかかるなら、国に寄付せずとも、二束三文でも売った方がまだマシというものです。

⑵ 面倒な土地は引き取ってもらえない。

 この制度は、なんでも引き取ってくれるわけではありません。

 引き取れない土地としては、次のようなものがあります。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

・ 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地
 C 他人の利用が予定されている土地
 D 土壌汚染されている土地
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
 

・ 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 こちらを見てわかるとおり、建物が立っていると引き取ってもらえません。

 また、山林などの価値のない土地も引き取ってもらえません。

 「空き家を解体できない」「山林などは買い手が見つからない」という理由で土地が放置されるのに、この制度は、そういった土地を対象外にしているのです。

4 新たに法律ができるのを待つしかない。

 今回の制度で対象になる土地は、すぐにでも建物を建てて有効利用できるような価値のある土地に限られており、そのような土地であればそもそも売ってお金にしてしまいます。

 売ればお金になる土地を、10年分の管理費を払って国に寄付する人はいないため、今回の制度はおそらく利用が進まなさそうです。

 費用面を税金でカバーするような制度や、所有者の同意がなくても価値のない空き家は取り壊しができるような制度など、今の日本の法律ではできないことを可能にする制度ができないと抜本的な解決はまだ先になりそうです。

相続土地国庫帰属制度について

1 概要

 相続等で土地を取得した人が、法務大臣に対して申請をすることで、土地を国の物にしてもらうことができます。

 要は、いらない土地を国に寄付することができます。

 令和5年4月27日に始まった制度で、相続した空き家が放置される社会門題が解決するのではないかとニュースでもよく取り上げられていました。

 空き家問題については、現行の日本の法律では制度上解決できないものでしたが、今回新たに法律が作られたことにより少しは前に進むかもしれません。

2 手続きの流れ

 手続きの流れは次のとおりです。

⑴ 法務大臣に対する申請

⑵ 法務大臣による審査

⑶ 負担金の納付

⑷ 国庫帰属(手続完了)

 どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではなく、法務局の審査を通過して、初めて国に寄付することができます。

3 申請できる人

 申請できるのは、「相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人」です。

 相続以外で土地を取得した場合は、この制度は使えません。

 また、相続人以外の人が受け取った場合もこの制度は利用できません。

 子がいる場合に、遺言で全財産を受け取った兄弟が要らない土地だけを寄付するといったことはできません。

 なお、土地を一人で全部所有していなくても、共有者の一人だけが寄付するといったことも可能です。

4 申請先

 申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。

 法務局には、本局と支局・出張所がありますが、取り扱いがあるのは本局のみです。

5 引き取ることができない土地

 対象となる土地については、どんな土地でもいいわけではなく、要件があります。

 細かく見ていくとややこしいですが、要は「建物のない綺麗な更地」です。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地

   空き家は取り壊してからでないと引き取ってもらえません。
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地

   購入したときの抵当権がついていると、利用できません。
 C 他人の利用が予定されている土地

   私道など、他人が利用している土地は対象外となります。
 D 土壌汚染されている土地

   工場跡地などは、調査の結果土壌汚染がされていることがあります。
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

   土地の境界が、過去の測量などで、隣地所有者との間で同意されている必要があります。

   境界がはっきりしていない場合、所有者と隣地の人全員で境界を確定してから申請します。
 

 (2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

   崖の上にある土地などは、崖崩れの危険があるため、対象外です。

   また、土地が傾いている場合は、建築の際に大規模な工事が必要になるため対象外です。
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

   建物とまでは言えなくとも、倉庫やカーポートなどがある場合は、撤去をする必要があります。

   また、山林だと木が生えている場合も対象外です。

 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
   地下には、過去に建物を解体したときの廃棄物が埋められていることがあります。

   また、地下に井戸がある場合も撤去の必要があります。

 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

   建物や木の枝などが他人の土地に越境している場合、枝を切る切らないで揉めている場合などは対象外です。

 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

6 審査手数料

14,000円

 

お墓と相続

1 法律における「お墓」

相続の相談において、お墓をどうするべきか聞かれることは少なくありません。

お墓の引継ぎ先も法律で定められていますが、ここで言う「お墓」は法的には「祭祀財産」の一つとされ、次のようなものを指します。

①系譜:家系図などのこと

②祭具:位牌、仏壇などの祭祀、礼拝に用いられるもの

③墳墓:墓石、墓牌など、遺骨や遺体を葬っている設備

2 お墓は遺産分割できない

お墓を始めとする「祭祀財産」は,民法897条により祖先の「祭祀の主宰者」に帰属すると定められているため,遺産分割協議で誰が引継ぐかを決めるものではありません。

そのため,遺産分割前であっても,お墓の名義変更を行うことは可能となります。

名義変更の方法につきましては,お墓ごとに異なるため,お墓の管理者の方へお問い合わせいただくのが良いでしょう。

また,「祭祀財産」は遺産とはならないため,これを引き継いだ人が他の相続人より相続の取り分が少なくなることはありません。

3 お墓を引継ぐ人の決め方

お墓を引き継ぐこととなる「祭祀の主宰者」は次の順番で決まります。

① 被相続人の指定

② 慣習

③ 家庭裁判所の審判

したがって,亡くなった方が遺言などによりお墓の引き継ぐ人を決めていた場合は,その人がお墓を引き継いでいくこととなります。

そして,遺言等がない場合は,慣習により引き継ぐ人が決まることとなります。

この慣習が明らかでないときは,裁判所に申し立てることにより審判で決定されることとなります。

4 遺骨の引継先

遺骨については最高裁判所の判例において「慣習上の祭祀主宰者に遺骨が帰属する。」とされているため,先ほど述べたお墓を引き継ぐ「祭祀承継者」が一緒に引き継ぐこととなります。

5 お墓・遺骨と相続放棄

お墓や遺骨についても,相続財産とはなりません。

そのため,遺骨を引き取ってしまったとしても,相続放棄できなくなることはありません。

また,お墓の名義変更も相続放棄と関係なく行うことはできます。

6 困ったら弁護士へ

お墓の問題のみが問題となるケースは少なく、大抵は相続問題とセットです。

そのため、お墓の件でお悩みの場合、まずは、弁護士に相談をしてみるのが良いでしょう。

空家問題

 近年ニュースで問題となっているものとして、空き家問題があります。

 この問題の根本的な原因は、日本の法律制度にあります。

 相続した空き家を売却や解体するためには、日本の法律上、空き家をどうするのかについて、相続人全員で合意する必要があります。

 しかし、今までは名義変更が義務化されていなかったため、家の名義が祖父や曾祖父といったことは珍しくありません。

 そのため、名義変更しようにも、誰が相続人かわからないといった事態が発生しています。

 また、連絡が取れても、一人でも反対をする人がいると、空き家の解体や売却は不可能です。

 そのため、そのまま空き家が放置されてしまうのです。

 また、相続放棄をしても、空き家の管理責任は残ります。

 相続放棄をすると、遺産の所有権自体は失いますが、遺産を管理する責任は残ります。

 空き家は、そのまま放置すると、動物が住み着いたり、建物が倒壊するといった可能性が出てくるため、非常に危険です。もし、空き家が原因で、誰かに損害が発生した場合は、損害賠償請求をされる可能性があります。

 相続放棄をして空き家の管理責任から免れるためには、最終的には、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる必要があります。

 しかし、この相続財産管理人の選任が大変なうえ、申立のための弁護士費用や裁判所への予納金などで数十万円単位のお金がかかってしまいます。

 この手続きの煩雑さや費用の面も、空き家が放置されてしまう理由の一つです。

 

 空き家になった不動産を相続して、しかも特に活用方法がない場合は、税金だけが発生する「負の財産」になってしまいます。

 税金を支払うだけになるくらいであれば、すぐに売った方がメリットがあります。

 一定の条件を満たせば、売却時の税金を安くできる可能性があるため、税理士に相談することをお勧めします。

 ただし、相続した空き家の建築時期や、売却価格などについて条件があります。

 また、この特例が使えるのは、相続開始から3年以内であるため、相続した空き家を売却するのであれば、できる限り早くに売却手続きを行う必要があります。

法律的な縁切り

よくご相談をいただくこととして、親族と「縁を切りたい」と言われます。

家を出て行った子供に財産をあげたくない、離婚した父親と連絡を取りたくないなど、理由は様々ですが、色々と需要はあるみたいです。

しかしながら、民法に「縁を切る」という制度はありません。

・特別養子縁組をした場合

・遺言書を偽造した場合(相続人の欠格)

・被相続人に対して虐待などをした場合(相続人の廃除)

など、相続人としての資格を失うという、縁切りのような制度はありますが、いわゆる「縁を切る」という制度はありません。

なお、親を虐待した場合の相続人の廃除なども、相続人間の話合いでまとまればよいですが、それでも権利を主張する相続人がいる場合は裁判所での手続きが必要となりハードルは高いです。

具体的には、「欠格事由」がある場合、もしくは相続人から「廃除」された場合には相続人としての資格を失います。

「相続人の欠格事由」とは、相続人が被相続人に対して、ある一定の行為を行った場合(欠格事由がある場合)に、相続人としての資格を失う制度です。

具体例としては、

・遺言書を偽造したり、隠したりした場合

・詐欺・脅迫により遺言書を書かせた場合

などがあります。

(民法891条参照)

「相続人の廃除」は、家庭裁判所に申立てをし、申立てが認められることで、相続人としての資格を失わせます。

具体的には、被相続人を虐待したり、重大な侮辱をしたりした場合に認められます。

(民法892条参照)

また、養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の二つの方法があります。

その違いは、産みの親との親族関係が残るかどうかです。

普通養子縁組は、産みの親との親族関係はそのまま残るため、産みの親と養親(=養子先の親)の両方から相続をすることになります。

一方で、特別養子縁組は、産みの親との親族関係がなくなるため、産みの親が亡くなっても、そちらから相続することはできません。

このように、一般にイメージされるような「縁を切る」という制度は存在しません。

財産を渡したくないのであれば遺言書などの生前対策を、相続したくないのであれば相続放棄などを行っていくのが現実的でしょう。

相続放棄と遺族年金

 相続放棄をした場合、財産の相続ができなくなるため、入院給付金や介護保険料の還付などの相続に伴う金銭の受け取りはできなくなります。

 しかし、未支給年金や遺族年金など一部の金銭は、相続放棄をしても受け取ることができます。

 これは、遺族年金が、遺産ではないと考えられているからです。

 相続放棄は、一切の遺産を受け継がないという制度であるため、その言葉のイメージから「亡くなった方に関するお金は、一切受け取ることができない」と思われがちです。

 確かに、相続放棄をすると、亡くなった方の遺産については、取得ができません。

 しかし、遺族年金は、亡くなった方に支給されるお金を相続しているわけではありません。収入を支えていた方が亡くなった後に、遺された遺族に対して支給される財産です。

 そのため、相続放棄をしても、遺族年金の受給資格を失うことはありません。

 これは、そもそも、遺族年金がどういうものかという性質とも関連しています。

 たとえば妻が専業主婦で、夫の収入によって生計がなりたっているような世帯がある場合、突然夫が亡くなると、その世帯は一気に収入を失うことになります。

 そうなれば、残された妻や子は、生活ができなくなる可能性があります。

 そういった事態を防ぐために、残された遺族に支給されるものが、遺族年金です。

もちろん、夫が専業主夫で、妻の収入によって生計が成り立っている場合も同じです。

 支給対象は、亡くなった方の収入で生計を維持していた子か、子がいる妻(夫)です。

 遺族厚生年金は、亡くなった方が厚生年金に加入していた場合に、遺された遺族に支給されます。

 遺族厚生年金の受給資格には、順番が定められています。

 優先順位で言うと、1番が亡くなった方の妻(夫)と、亡くなった方の子どもです。2番目の優先権を持つのは、亡くなった方の両親で、3番目が孫、4番目が祖父母です。

 相続の権利は、法律上、妻と両親などが同時に権利を取得します。

 この点、妻が受け取る場合は両親が受け取れなくなる遺族年金は、民法上の相続の考え方とは異なってきているわけです。

相続放棄の前の財産調査の必要性

相続放棄の前に財産調査をする必要はありますか?

1 相続放棄の前に財産を調査する必要性

相続放棄をした後に,予想だにしなかった財産が見つかった場合は,相続をしておけばよかったと思うかもしれません。

また,相続放棄をしたら,自宅が亡くなった人の名義で出ていかなければならなくなったという事例もあります。

そのため,相続放棄をする前には,専門家に依頼して財産調査を行っておいた方がいい場合が多いです。

2 財産調査を行うケース

⑴ 財産がどれだけあるのか不明な場合

財産がどれだけあるのか不明な場合は,区役所や市役所、法務局、銀行など様々な機関に調査を行い,土地や預金口座がないかを調査します。

相続財産調査の経験が豊富で,様々な調査方法を熟知した専門家であれば,調査漏れがないよう網羅的に財産を調査することができます。

⑵ 借金がいくらあるのかが不明な場合

借金がどれだけあるのかわからないと,相続放棄をするか相続するかは決められません。

借金がないからと相続をした後に借金が見つかってしまった場合、借金の支払に負われることになってしまいます。

そこで,専門家に依頼して,網羅的に借金の全容を調査することをお勧めします。

どこから借りたのか,何社からの借金があるのかがわからなくても借金の有無を調査することができます。

3 財産調査が不要な場合

財産調査は可能であれば行う方が良いですが,これをしないと相続放棄ができないというわけではありません。

全く連絡を取っていない遠縁の親戚が亡くなり相続してしまった場合には,財産調査をせず相続手続に関与しないために相続放棄をする方もいます。

この場合は,放棄によりプラスの財産があっても引き継げなくはなりますが,それよりも相続手続に関与したくないとお考えの方が多いようです。

4 財産調査でお悩みの方はまずは弁護士に相談を

財産や借金の調査は様々な機関で調査をしなければならず,調査方法や必要な提出書類は市役所ごと、銀行ごとにバラバラです。

そのため,調査を網羅的に行おうとすると,相当な手間と時間がかかります。

また,平日の日中に窓口に行かなければならないことも多く,調査のために仕事を何度も休む必要があります。

そこで,手間と時間のかかる手続は専門家に一任することをお勧めします。

また,財産調査をしない場合のリスクについてもわかるため,まずは弁護士に相談するのが良いでしょう。

相続放棄ができなかった場合の対処法

1 相続放棄ができない場合は、借金を支払う必要がある。

3か月の期限を過ぎてしまったり、故人名義の預金を引き出してしまったりした結果、相続放棄できないというケースは多くあります。

相続放棄ができないと、借金なども相続してしまい、どうにかしてこれを支払わなければいけません。

借金を支払わないでいると、裁判を起こされたり、故人とは関係のない相続人自身の預金、自宅や給料が差し押さえられるケースもあるため、何かしらの対応が必要です。

プラスの財産があれば、現金化して支払いに充てることもできますが、そのようなケースは稀です。

このようなケースでは、債権者と任意の交渉や、場合によっては、破産などの法的手続きも視野に入れる必要があります。

2 債権者との交渉で分割払い

借金を相続すると一括払いを要求されることが多いです。

もっとも、一括での支払いが難しい場合、各社と交渉をして借金を分割払いにしてもらえる場合があります。

たとえば、総額で240万円の借金がある場合、5年間で60回払にする交渉が成立すれば、240万円÷60回=4万円/月となり、毎月4万円を支払っていけばよくなります。また、交渉次第では、将来の利息をカットできることもあります。

3  自己破産で借金を0に

自己破産は、裁判所の認可により、借金を0円にする手続きです。

手持ちの財産と比較して、借金の方が多い場合は自己破産により借金をなくせる場合があります。

ギャンブルや浪費で作った借金の場合は破産できないケースがありますが、相続で借金を引き継いでしまった場合はそのような問題点も少ないため、比較的に破産手続きはしやすいです。

ただし、自己破産は、手持ちの財産を売却して返済に充ててしまうため、自宅や車など手放したくない財産がある場合は、注意が必要です。

4  個人再生で借金を圧縮して分割払い

個人再生は、裁判所で認可を受け、借金を圧縮して、3年〜5年かけて分割払いをしていく手続きです。

自己破産との違いは、自宅や車など、売却されてしまうと困る財産があるときにも手放さなくて済む点です。

実際に圧縮できる金額は、次の①〜③から一番高い額となります。

①法律で定められた最低弁済額

②借金の総額の1/5

③清算価値(手持ちの財産総額)

例えば、借金の総額が720万円で、手持ちの財産が預金20万円のときは、

①法律で定められた最低弁済額

→100万円

②借金の総額の1/5

→144万円

③清算価値(手持ちの財産総額)

→20万円

となり、一番高い②144万円を毎月4万円を3年間かけて返済していくことになります。

5  まずは弁護士に相談を

借金が返済できない場合の対応方法は色々ありますが、何が最適な方法かはケースバイケースで難しいです。

まずは、弁護士に相談し、現在の状況を踏まえて、一緒に方針を決めていくのが良いでしょう。

3ヶ月を過ぎたあとの相続放棄

1 相続放棄の期限は3ヶ月!

相続放棄は、死亡したことを知った日から3ヶ月です。

3ヶ月以内に裁判所に申立てをしなければいけません。

もっとも、この話は誰もが知ってるわけではないので、「3ヶ月を過ぎてしまったが、相続放棄ができるか」というご相談をよくいただきます。

結論から言えば、3ヶ月を過ぎても相続放棄ができることはあります。

今回はこのケースについて紹介します。

2 知らない借金が出てきたときは、3ヶ月過ぎても相続放棄ができることがある。

死亡を知ってから3ヶ月過ぎて例外的に相続放棄が認められた裁判例があります。

死亡の事実及びこれにより自己が相続人となつた事実を知つた当時、亡増治郎の相続財産が全く存在しないと信じ、そのために右各事実を知つた時から起算して三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたものであり、しかも被上告人らが本件第一審判決正本の送達を受けて本件連帯保証債務の存在を知るまでの間、これを認識することが著しく困難であつて、相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるから、民法915条1項本文の熟慮期間は、被上告人らが本件連帯保証債務の存在を認識した昭和56年2月12日ないし同月14日から起算されるものと解すべき

(最判昭和59年4月27日民集38-6-698)

この裁判例は、昭和55年3月5日に死亡した被相続人について、約1年後の昭和56年2月26日に相続放棄の申立てをしたケースで、借金を知った時から3か月を相続放棄の期限としました。

この裁判例のポイントは、

・相続財産が全く存在しないと信じていた

・相続財産が全く存在しないと信じたことに相当な理由がある

・借金があることを知ることが著しく困難であった

の3点を理由として、死亡を知った時から3か月を過ぎた後に相続放棄を認めています。

3 放棄ができる具体例

① 離婚した父親の生活保護費の返還が来た…

両親が5歳のときに離婚してから母親と暮らしており、父親とは20年会っていなかった。市役所から父親が死んだ連絡を受けたが自分には関係ないと思って気にしていなかった。ところが、1年後に突然、100万円の生活保護費の返還を求められた。

→父親とは20年間全く会っていないため、財産が存在するなんて思っていないのは仕方がないと言えるでしょう。

そして、離婚してどこにいるかもわからない父親なので、そのように信じたことにも相当な理由があります。

そして、借金があることを予想することも難しいです。

このケースは、市役所から100万円の支払いを求められてから3か月以内であれば、相続放棄できる可能性が高いです。

② 父の友人が借用書を持ってきた!

同居していた父親が亡くなったので、預金を確認したところほとんど残っていなかった。家も借家で大した財産もないが、借金の督促が家に来たこともないので放っておいた。ところが、3年後に突然、父親の友人を名乗る人が借用書をもってきて、父に貸した300万円を返してほしいと言ってきた。借用書には父の実印が押してあり、筆跡も父のものだった。

→同居していて、預金通帳も全て手元にあるため、預金を見て財産がないと思うのは当然で、相当な理由があります。

また、銀行やクレジットカード会社から借金があると、通常は自宅に督促が届きます。

しかし、一緒に住んでいて、そのような手紙が一度も届いたことがないのであれば、借金がないと思うのも仕方がないです。

特に友人などから借りたお金は、日記にでも書いてなければ、手掛かりが全くないことも多いです。

そのため、このようなケースは相続放棄が認められる可能性があります。

4 3か月を過ぎていても、諦めずに弁護士に相談を

紹介したケース以外にも、3か月を過ぎて相続放棄ができるケースはあります。

もっとも、3か月を過ぎたケースは、裁判所のホームページにある申立書を埋めるだけでは不十分で、過去の裁判例を踏まえて事情説明書を作成したり、証拠を用意しないと難しいです。

3か月を過ぎた場合でも、早ければ早い方がいいので、まずは弁護士に相談をしてみましょう。

生命保険を活用した生前対策

1  生命保険の非課税枠で相続税対策

相続で財産を受け取ると、受け取った財産の金額が多いほど相続税がかかります。

この点、生命保険には、非課税枠があるため、何もせずに現金のまま相続するよりも、生命保険として相続をした方が相続税を減らすことができます。

生命保険金の非課税枠は「法定相続人の人数×500万円」あり、子供2人であれば1000万円までは税金がかからずに相続できます。

例えば、6000万円の財産を子ども2人にそのまま相続すると180万円の相続税がかかります。

しかし、生命保険金として1000万円を相続すれば、相続税は80万円にまで抑えられます。

生命保険金の非課税枠は使っておくに越したことはないので、まだの方は一度検討されたほうがよいでしょう。

2  生命保険を使うことで、相続人の間での揉め事を防止

生前贈与や遺言で、財産を受け取ると、遺産分割で財産を分ける段階でその分だけ相続の取り分が少なくなります。

この制度を、特別受益といいますが、遺産の分け方を決める際に一番揉める部分といっても過言ではないです。

「30歳の時に1000万円もらっているはずだ」

「もらったお金は、生活費としてもらったもので、相続とは関係ない」

など、言い争いになり、そこがきっかけで裁判所での調停にもつれ込むケースが多くあります。

この点、生命保険で受け取ると、特別受益にならない場合があり、遺産を分ける際に考慮しなくてよくなります。

つまり、生命保険にするだけで、相続人の間での揉め事を防止することができるのです。

ただし、生命保険が特別受益になるかどうかは、過去の裁判例で、生命保険契約の内容や金額で変わることになっているので、実際に生命保険に加入するときは、弁護士に相談をしてからの方が良いです。

3 生命保険を使って、遺留分対策を

遺言で、全ての財産を誰か一人に相続させると、財産を受け取れなかった子供などから、遺留分として財産の1/2や1/3といった金銭を請求されます。

ご相談をいただく中で、一番多いのが、前の奥さんとの間の子供から金銭を請求をされるケースですが、それがこの遺留分です。

この遺留分については、法律上強く保護されているため、請求に対して支払いを免れたり金額を減らすことは難しいケースが多いです。

この点、生命保険で渡した金銭については、特別受益とならないため、遺留分として相続した全財産の50%といった計算する際に考慮しなくてよくなります。

これを生前贈与や遺言といった形で渡してしまうと、渡した金銭の半分は支払わなくてはいけなくなります。

そのため、遺留分を減らせる数少ない手段として有効に活用していくのが良いでしょう。

死亡後のATMからの引き出し

1 死亡後のATMからの引き出しは要注意

人が亡くなると、葬儀や法要、専門家への相続手続きの依頼、相続税の支払いなど、何かとお金がかかります。

しかし、死亡した人の預金からお金を引き出して使うには注意が必要です。

死亡した人の預金は、遺産の分割方法が決まるまで相続人全員の共有となります。

つまり、死亡した人の預金からお金を引き出すことは、他人の預金を引き出すことになるため、相続人全員の同意があるなど、よほどのことがない限り、違法である可能性が高いです。

 

2 裁判を起こされることも

引き出したお金については、その引き出しが違法ということなれば、不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求として、後々に、他の相続人から引き出したお金を返還するよう請求されることもあります。

また、引き出したお金について速やかに返還をしたとしても、そこがきっかけで揉めてしまい、ほかの相続人が弁護士をつけてしまうと、もめなくてよかったはずの遺産分割が揉めてしまうということも珍しくありません。

 

3 引き出したお金については、いずれ返すことになる

民法改正で、死後に預金を引き出した場合、その相続人は、後々の遺産分割で引き出した分だけ相続の取分が減らされることが定められました。

そのため、例えば、葬儀費用に使ってしまった後に返還することになると、あとで葬儀費用を請求することは難しいため、結局は、葬儀費用を全額負担することになってしまいます。

葬儀費用を支払うために死亡した人の預金を引き出すのであれば、他の相続人から葬儀費用に使うことなどの確認を取ってから引き出すなどして、葬儀費用を全員で分担できるように取り決めをしておくなどした方が良いです。

取り決めは、書類を作り、全員がサインと判子をしていると理想的です。

 

4 預金を引き出す必要があるときは

それでも、遺産分割協議の前にどうしてもお金が必要な場合はあります。

そのような場合は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度や家庭裁判所での一部分割など、法律上認められている制度で預金を払い戻すのが安全です。

 

家庭裁判所における預金の一部分割

1 10か月以内の相続税の支払いには、裁判所への申立ても検討

誰がどの預金を貰うか、相続人全員で話し合いがまとまらないと、死亡後に凍結された預金を引き出すことはできません。

しかし、話し合いがまとまらなくとも、財産が一定以上あると、死亡後10か月以内には、相続税の未分割申告を行い、仮の相続税を納めなければいけません。

この相続税の未分割申告は、相続税が少なくなる様々な特例(※)が使えないため、高額になりがちで、10か月以内に1000万円以上を用意しなければならないことも珍しくありません。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度は、1銀行あたり150万円が限度となるため、相続税の支払には足りない可能性もあります。

そのような場合は、家庭裁判所に申立てを行い、預金の一部分割をする必要があります。

(※)土地の評価額が最大80%減額できる小規模宅地等の特例、夫や妻が相続する場合は1億6000万円までは非課税となる配偶者控除などがあります。

2 家庭裁判所での一部分割は限度額はないけれども・・・

家庭裁判所に申し立てて、相続人間で話し合いがまとまる前に預金を取得する場合は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度と異なり、限度額がありません。

そのため、裁判所の許可があれば、相続税の支払いのために1000万円以上を引き出すこともできます。

しかし、あくまで、裁判所の審査の結果、

・預金を引き出す必要があること

・他の相続人を害さないこと

などの条件を満たすと認められた場合に、初めて引き出しができます。

そのため、希望金額が必ず引き出せるわけではなく、裁判所が認めた金額しか引き出すことができません。

また、他の相続人の取分を残しておかないと、遺産分割が終わった時に他の相続人が不利益を被ることになるため、そもそも、引き出しが認められない可能性もあります。

そのため、使い勝手がそこまでよいかといわれると難しい制度です。

3 相続税の延滞をしないためにも、弁護士に相談を

使い勝手の悪い制度ではありますが、だからと言って、相続税の支払いができないと、税金が滞納となり、延滞税などがかかり、最悪の場合、財産の差し押さえなどがされます。

そのため、この制度を使わなければいけない場面というのは、必ず存在します。

もっとも、裁判所による審査は厳格で、通常の裁判手続きと同じように、証拠を提出して証明し、他の相続人からの主張に対して法的な反論をしていかなければいけません。

そこで、相続税の心配があるときは、まずは、弁護士に相談をして、綿密な計画を立てていく必要があります。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度

1 令和の民法改正で新設された制度

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」とは、民法改正で新たに始まった制度で令和2年から利用できます。

通常、死亡した人の預金は凍結されてしまい、相続人全員で話し合って預金の分け方を決めないと、預金を引き出すことができなくなってしまいます。

しかし、この制度を使うと、相続人同士が揉めてしまい話し合いがつかなくとも、1銀行あたり最大150万円まで預金を引き出すことができるため、葬儀費用や相続税の支払いに充てることができます。

2 銀行1つにつき、最大150万円引き出せる。

引き出しに限度額が設定されています。

限度額は、銀行ごとに設定されていて、次の①②のうち低い方の金額を引き出すことができます。

  預金額(※)×法定相続分×1/3

  150万円

(※)預金額は、その銀行の全ての預金口座を足した金額になります。

 

実際に、相続人の人数や持っている口座の数・金額によって引き出し可能額が変わるので、具体例で説明します。

 

例1)

相続人:子供2人(法定相続分1/2)

持っている口座

①横浜銀行 普通預金 200万円

②横浜銀行 定期預金 400万円

③みずほ銀行 普通預金 1200万円

①②横浜銀行から合計100万円

【200万円+400万円(預金額)×1/2(法定相続分)×1/3】

③みずほ銀行から150万円

【1200万円(預金額)×1/2(法定相続分)×1/3>150万円】

合計 250万円

【解説】

①②の横浜銀行は、預金額が横浜銀行全体の預金額が合計600万円なので、これに法定相続分の1/2と法律で決められた割合である1/3をかけると100万円となります。

100万円は、もう一つの限度額の150万円以下なので、低い方である100万円を引き出すことができます。

③のみずほ銀行は、

預金額が横浜銀行全体の預金額が1200万円なので、これに法定相続分の1/2と法律で決められた割合である1/3をかけると200万円となります。

しかし、200万円は、もう一つの限度額の150万円以上になってしまうので、低い方である150万円を引き出すことができます。

 

 

例2)

相続人:兄弟5人(法定相続分1/5)

持っている口座

①三菱UFJ銀行 普通預金 6000万円

①三菱UFJ銀行から150万円

【6000万円(預金額)×1/5(法定相続分)×1/3>150万円】

合計 150万円

【解説】

①の三菱UFJ銀行は、預金額が6000万円なので、これに法定相続分の1/5と法律で決められた割合である1/3をかけると400万円となります。

400万円は、もう一つの限度額の150万円以上になってしまうので、低い方である150万円を引き出すことができます。

例2は、預金額だけで言えば例1(1800万円)より多いですが、引き出しが銀行1つあたり150万円となってしまうため、三菱UFJ銀行1つしかないと、横浜銀行とみずほ銀行の2つの銀行から引き出せる例1より少なくなってしまいます。

 

3 相続預金の払戻し制度の手続き方法と必要書類

手続方法は、銀行ごとに異なりますが、大きな流れはどこも同じです。

① 死亡したことの銀行への連絡

② 銀行からの必要書類の案内

③ 必要書類の提出

④ 預金の払戻し

そして、必要書類としては、概ね次のような書類が必要になります。

・被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍

・相続人全員の戸籍

・銀行所定の書類(ex.相続手続依頼書)

・手続をする人の印鑑登録証明書(有効期限あり)

・手続きをする人の身分証明書

 

まずは、銀行の支店の窓口に連絡するか、銀行のホームページにある相続相談窓口に死亡した旨を伝えると、手続きがスタートになります。

また、手続きそのものを専門家に依頼してしまうのも一つの手でしょう。

遺産分割協議の前にお金が必要になった場合の3つの対処法

1 死亡後に凍結される預金を引き出すには、相続人全員のサインと判子が必要

人が死亡すると、死亡した人の預金口座は凍結されます。

預金口座が凍結されると、一切の引き出しや入金ができなくなってしまいます。

凍結を解除して預金口座からお金を引き出すためには、各銀行所定の相続手続を行います。

この相続手続には、遺言書がないと、相続人全員がサインと判子をした遺産分割協議書が必要になります。

そのため、相続人の間でもめてしまうと、預金が引き出せなくなってしまいます。

そこで、葬儀費用の支払いや相続税の支払いなどで遺産分割協議前に預金を引き出す必要がある場合の3つの対処方法をメリットとデメリットを簡単にご紹介します。

詳しくは、それぞれ別の記事で紹介するので、そちらをご覧ください。

2 遺産分割前の預金の払戻し

令和2年の民法改正で新設された制度で、遺産分割協議を行わずに預金の一部を払い戻すことができます。

この制度の特徴は、次のとおりです。

メリット

・家庭裁判所での特別な手続きなどが必要ない

・1か月程度で引き出しができること

デメリット

・引き出しに限度額があること

3 家庭裁判所での遺産の一部分割

家庭裁判所に、遺産の一部分割の審判を申し立てて、裁判所の許可を得て預金を引き出すことができます。

令和2年の民法改正で、明文化されました。

(以前も可能とは解釈されてはいましたが、法律に明記されていなかったため、可能かどうかに争いがありました。)

この制度の特徴は、次のとおりです。

メリット

・裁判所の許可があれば限度額がない。

デメリット

・手続が複雑

・払戻ができるかどうかが裁判所の審査で決まる。

・時間がかかる(早くとも3~6か月程度)

4 ATMを使って引き出す

預金口座は自動的に凍結されるのではなく、口座名義人が死亡したことを銀行に連絡をして初めて凍結されます。

つまり、カードと暗証番号を用いてATMで引き出す分には、死亡後も預金を引き出すことはできてしまいます。

こちらは、便利な反面、様々な問題点があります。

メリット

・その日に引き出すことができる。

・特別な手続きが一切必要なく、カードと暗証番号があればよい

デメリット

・違法である可能性が高い。

・後々、責任追及をされるおそれがある。

・定期預金は引き出せない。

5 まずは弁護士に相談を

人が亡くなったあとは、色々とお金が入用です。

3つほど方法を紹介しましたが、一時的に預金を引き出すのにどの方法が適切かは慎重に判断しなければなりません。

そのため、迷ったら、まずは弁護士に相談をしてみるのがよいでしょう。

死後にやるべき相続の手続ー期限のないものー

死亡後にやるべき相続の手続の一覧については、以下の記事をご覧ください。

⑾ 明確な期限はないが必要な手続

㉒ 遺言書の検認

 死亡した人が手書きの遺言(自筆証書遺言)を作成していた場合、原則は、裁判所での検認手続が必要です。

 これは、遺言書の保管者か遺言書を最初に発見した相続人が行わなければなりません。

 検認手続には、「〇か月以内」といった期限はありませんが、いつやってもいいわけではなく、基本的には、死亡後に速やかに行わなければいけません。

 検認手続を遅らせた場合は、5万円の科料(罰金のようなものです。)が科せられる可能性もあるため、注意して下さい。

 検認を行う裁判所は、死亡した人の住所地の家庭裁判所になります。

 申立には、

・申立書(家庭裁判所のHPからダウンロードすることはできます。)

・遺言者の出生から死亡までの全ての戸籍謄本

・相続人全員の戸籍謄本

・既に亡くなっている子や親がいる場合の,その人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本

などが必要となります。

 全ての戸籍の収集を漏れなく行うことは難しいため、弁護士に手続を依頼してしまうのが楽です。

 なお、法務局の保管制度を利用して、遺言を法務局で保管していた場合は、検認手続が不要になります。

㉓ 遺産分割協議

 相続が発生したら遺産分割協議を行う必要があります。

 遺言などがない限り、遺産分割協議を行わないと、不動産の名義変更や、凍結された預貯金の解約などができません。

 この手続は相続人同士で話し合うというもので、何か書類を作成したり市役所などの公的機関に何かを提出することが必須ではありません。

 もっとも、実際には、話合いの結果を、遺産分割協議書という形で残すのが一般的です。

 この遺産分割協議書を提出して、不動産の名義変更や凍結された預貯金の解約を行います。

 なお、期限はなく、十年以上前に死んだ人のの遺産分割協議を行うこともあります。

 しかし、実際には、遺産分割が終わっていないと相続税の申告に影響があるため、相続税進行の期限である10か月以内に終わらせてしまうのが良いでしょう。