今回ご紹介する件は、相続放棄の期限は 年前に過ぎていましたが、かなり複雑な法律構成をしたところ、どうにか相続放棄が認められた事案です。
1 事案の概要
父親は個人事業をしていましたが上手くいかず、銀行から2000万円以上の借金をしていました。
7年前、父親が亡くなりましたが、その時、依頼者の方はまだ高校生でした。
そのため、葬式や死亡手続などは母親が全て行い、依頼者の方は借金があることを教えられていませんでした。
その後、7年経ち、母親宛で自宅に届いていた封筒を開けたところ、父の借金が2000万円以上残っており、長男である依頼者の方がその半分の1000万円を相続していることを知りました。
2 相続放棄をする場合の問題点
この事案の問題点は、相続放棄の期限が、父親が亡くなった日から3ヶ月であることです。
つまり、相続放棄の期限は7年前に過ぎているのです。
その理由は以下の2つです。
① 借金を知らなくても、死亡したことを知っていれば、相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。
② 未成年者の場合、子供が知らなくても、親(=法定代理人)が知ったときから相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。
①については、民法で「自己のために相続の開始を知ったときから3ヶ月」と定められており、この「自己のために相続の開始を知ったとき」というのは、原則は借金の存在は知らなくても良いとされています。
民法 915条
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
②については、民法で次のように定められています。
民法 第917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間(相続放棄の期限)は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
そのため今回は、母親が、父親の死亡を知った7年前に相続放棄の3ヶ月の期限がスタートしてしまうのです。
3 解決方法
今回は、相続放棄の3ヶ月の期限のスタート地点を、子供である依頼者の方が借金を知ったときにする必要があります。
この点については、有名な裁判例があり、いくつか条件を満たせば、亡くなった人の借金を知ったときから3ヶ月以内の相続放棄を認めた先例があります。
最高裁 昭和59年4月27日判決(判例タイムズ528号81頁、判例時報1116号29頁 )
熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識うべかりし時から起算するのが相当である。
しかし、これだけでは②の問題点をクリアできません。
母親が、亡くなった父親の借金を知っていたため、いずれにしろ7年前に相続放棄の期限は過ぎてしまいます。
そこで、母親が相続放棄をしなかったこと(相続の単純承認)が利益相反に当たるとして、取消しを主張したところ、無事に相続放棄が認められました。
(本当は、不作為である単純承認が取り消せるのかといった問題など、様々な問題がありましたが、そこもどうにかなりました。)
4 3ヶ月を過ぎた相続放棄は弁護士に
3ヶ月を過ぎたケースでも、相続放棄を認められるケースはあります。
司法書士の先生などは、3ヶ月を過ぎた時点で「無理だから諦めた方が良い」と案内をすることも多いようですが、弁護士がちゃんと意見書を書けばそのような場合でも相続放棄できることがあります。
3ヶ月を過ぎてしまった場合でも、まずは弁護士に相談してみてください。
なお、このケースは、弊社の相続が詳しい弁護士にも「難しいかもしれない」と言われてはいました笑