1 事案の概要
実家には、両親と兄が住んでいましたが、10年以上前に両親が亡くなり、昨年、兄が亡くなったため、実家の土地と建物が残りました。
実家の建物は古く、このまま放っておくと倒壊する恐れもあるため、取り壊しをする必要がありました。
建物を解体するとなると数百万円単位の費用がかかってしまうため、兄が亡くなったタイミングで相続放棄をしようと考えました。
しかし、法務局で土地と建物の名義を調べたところ、父と母と兄の名義がそれぞれ入っていました。
そこで、どうにか管理責任を免れるために、弁護士に相談をしました。
2 相続放棄をする場合の問題点
このケースの問題点は、兄の相続放棄をしても、実家に父と母の名義が残っているため、不動産の管理責任が残ってしまうことです。
不動産の管理責任があると、万が一、実家が倒壊して周りの住民に損害を負わせたら、それを賠償する必要があります。
しかし、父と母の相続放棄をしようにも、両親は10年以上前に亡くなっているため、相続放棄の期限である3か月を大幅に過ぎてしまっています。
そこで、10年以上前に亡くなった父と母の相続放棄をする必要があります。
3 解決方法
亡くなったことを知った時から3か月を過ぎた場合は、財産や借金の存在を知らなくても、原則として相続放棄はできません。
しかし、過去の裁判例で、いくつかの条件を満たせば、例外的に相続放棄ができる場合があります。
その条件は、次の2つです。
① 被相続人に、相続財産又は相続債務が一切ないと信じていたこと
② 相続財産や相続債務が一切ないと信じたことに相当な理由があること
つまり、今回の場合は、実家が兄の名義で両親の名義ではないと信じていたこと(①)、実家の名義が兄の名義であると信じたことに理由があること(②)が必要になります。
もっとも、相続人は、被相続人が死亡したときに財産を調査する義務があるため、単に「知りませんでした。」というだけでは、「調べたらわかることなのに、調べなかった方が悪い。」ということで、相当な理由がないと裁判所が認定し相続放棄が却下されてしまいます。
そこで、実家の名義が両親のものだと知らなかったことがどれだけ仕方ないことか、説得的に説明できるかが重要になります。
今回のケースでは、
・両親が亡くなったあとに、10年以上も兄が実家に暮らしていたこと
・昔、実家の名義を兄の名義に変更する手続きをしたことがあること
(司法書士に任せていたため、実際には、一部の名義しか変わっていなかった)
から、実家が兄の名義であると信じたことに相当な理由があるとして相続放棄が認められました。