自己破産、個人再生に領収書は必要?

1 自己破産、個人再生ではお金の使い途を審査される。

 自己破産や個人再生は、「お金を借りてしまったけれど、どうしても返済ができないので、裁判所の審査のもとで借金を減らす」という手続です。

 そのため、過去に浪費やギャンブルをしていないかなどお金の使い途は、裁判所の審査の対象となります。

 また、自己破産は、いま手元にある財産は(自由財産を残して)返済に充てて、残った借金をゼロにします。

 個人再生は、手持ちの財産の総額まで借金を減らす手続です。

 したがって、自分の財産を減らす行為は、債権者への返済金額を減らすことに繋がるので、厳しく審査されます。

2 領収書が必要な理由

 自己破産や個人再生では、過去から申立前まで、無駄遣いしていないかをチェックされます。

 そのため、領収書で無駄遣いをしていないことを証明する必要があるのです。

 仮に、使い途を説明できないと、使途不明金ということで無駄遣いと同視されてしまう可能性もあります。

 使途不明金となってしまうと、自己破産の場合は使途不明金の金額だけ裁判所に納めたり(財団組入れ)、個人再生の場合は将来の返済額を増やされたり(清算価値の上乗せ)してしまう可能性があります。

 このため、領収書が必要になってきます。

3 領収書が必須の場面

① ライフラインの領収書

 自己破産、個人再生の必要書類に家計簿があります。

 毎月の収入と出費を記録して家計簿を作り、裁判所への申立書と一緒に提出します。

 この家計簿に書く、家賃、水道光熱費、駐車場代、保険料などは1円単位で正確に記入し、領収書を添付します。

 領収書がないと、必要書類が足りないということで、そもそも自己破産や個人再生の審査をしてもらえません。

 そのため、家賃、水道光熱費、駐車場代、保険料などの領収書は必須のため、捨てないようにしてください。

② 高額な出費をした場合

 自己破産や個人再生では、無駄遣いを厳しく審査されます。

 領収書がないと、無駄遣いではない場合でも、使途不明金ということでその分だけ弁償しなければならない場合まであります。

 また、浪費は免責不許可事由として、破産が認められなくなる理由の一つです。

 そのため、高額な出費をした場合は、必ず領収書を残しておくようにしましょう。

4 領収書がいらない場合

① ライフラインの支払を口座引落などで支払っている場合

 口座引落や決済サービスで家賃や水道光熱費を支払っている場合は、領収書は不要です。

 口座引落の場合は通帳のコピー、決済サービスの場合は利用明細やWEBページのスクリーンショットなどが代わりに必要になります。

 ただし、携帯料金などが金額が高額になる場合は、領収書や支払明細の提出を求められることもあるので注意が必要です。

② 食費、日用品などの生活費

 毎月作成する家計簿には、食費や日用品の購入費を記入する欄があります。

 この欄は月ごとの合計額を記入しますが、1円単位に正確である必要はなく、ある程度は丸めて書いても大丈夫です。

 食費のレシートを何十枚も集める必要などはないです。

 ただし、通帳の出金額とズレがある場合や毎月の合計額が高額になる場合は、領収書などで説明が必要になります。

5 まずは弁護士に相談を

 領収書が必要かどうかは、ケースバイケースです。

 「領収書がないから破産できない」といったことはなく、弁護士と相談しながら集めていけばいい場合も多いです。

 まずは一人で悩まず相談をしてみましょう。

自己破産・個人再生の必要資料

 自己破産・個人再生など、裁判所を使った手続きを行う場合は、資料集めが一つのハードルになります。

 実際には、弁護士と相談しながら資料を集めていくため、最初から全てを完璧に揃えておく必要はなく、まずは気軽に相談をしてみることをお勧めします。

1 直近2年分の通帳

 持っている全ての通帳のコピーが必要になります。

 WEB通帳やアプリの場合は、印刷をしたもので大丈夫です。

 また、通帳をなくしてしまっている場合は、銀行の窓口で過去の履歴を発行することができます。

 何年間も一切使っていない0円の口座でも、口座を解約していない場合は提出対象になる点は、注意が必要です。

 また、長期間記帳をしていない通帳は「おまとめ記帳」といって、何件かの取引が合算した金額になっています。

 「おまとめ記帳」になっている期間は、銀行の窓口で履歴を別で取寄せる必要があります。

2 家計簿

 直近1~3か月の家計簿を作成して提出する必要があります。

 書式は、裁判所の書式があります。

 弁護士に依頼してから申立までに数か月程度の準備期間があるため、その間に作ることになります。

 そのため、弁護士に相談する前に家計簿はなくて大丈夫です。

3 毎月固定の生活費(ライフライン)の領収書のコピー

 家賃・ガス・水道・電気・通信(電話代)費・保険料等の直近1~3か月の領収書のコピーが必要になります。

 口座引き落としの場合は、通帳のコピーで大丈夫です。

 また、WEBやアプリで利用明細が出る場合は、画面を印刷したものやスクリーンショットでも大丈夫です。

 これらの領収書も、弁護士に依頼してから申立てまでの準備期間に用意するため、今までの分を捨ててしまっていても心配はありません。

4 給与明細のコピー

 自己破産・個人再生をする人の給与明細はもちろん、同居している人の給与明細も必要となります。

 生計を別にしている場合、不要でない場合でも、同居している場合は必要となってきます。

5 年金、児童手当などの受給者証のコピー

 児童手当、年金、生活保護、失業保険等の国や地方自治体から給付を受けてる場合は、その受給者証や受給金額がわかる資料のコピーが必要になります。

 証明書は、はがきなどが送られてきている場合や、窓口で発行が必要な場合があります。

6 賃貸借契約書のコピー

 住んでいる家の契約書のコピーが必要になります。

 契約が数年ごとに更新されてる場合は、更新されている最新のものが必要になります。

 また、更新契約の場合は、貸主・借主・毎月の家賃・敷金が省略されていることがあるため、その場合は、一番最初の契約書(原契約)が必要になります。

7 不動産の査定書・登記簿等

 持ち家に住んでいる場合は、今売った時の金額を評価してもらった査定書が必要になります。

 方法としては、インターネットで不動産会社に査定する方法や、不動産屋の窓口で「この不動産売った時の値段を教えてください」など聞いていただく方法があります。

 査定書は2~3社からとることになります。

 注意点としては、一般の顧客に売った場合と不動産会社が買い取る場合で金額が違うので、一般の顧客に売った場合の査定書を作ってもらう必要があります。

8 車の査定書・車検証

 車やバイクも査定書が2~3社分必要になります。

 不動産と違い、正式に査定書を作ってくれないケースも多いです。

 その場合は、中古買取業者の担当者の名刺の裏に、口頭で教えてもらった金額をメモしておくことでも代用できます。

9 直近2年分の源泉徴収票のコピー、課税証明書の原本

10 保険証券のコピー・解約返戻金計算書

 保険は、生命保険・医療保険・火災保険・自動車の任意保険・自賠責保険などあらゆる保険が対象となります。

 また、保険を解約したときに、いくらお金(解約返戻金)が戻ってくるかを計算した書類も必要となります。

 解約返戻金計算書は、毎年手紙が来ているなどしない場合、最初から手元にないことも多いので、その場合は、保険会社に問い合わせることになります。

生活保護を受けていた場合の相続放棄

1 財産が残っていないことが多い

 生活保護を受けるには、収入が最低生活費以下であること、保有資産が一定以下であることなどの条件があります。

 そのため、亡くなった時点でプラスの財産が残っている可能性は低いです。

 相続をしても、マイナスになってしまうことが多いため、相続放棄をした方がいいケースが多いです。

2 数か月経ってから請求が来ることがある

 「借金がないから相続放棄しなくても大丈夫だろう」と放っておくと、数か月してから市役所などから税金や保険料の請求が来てしまうこともあります。

 未払の住民税や水道料金などは、亡くなってすぐ相続人に請求は来ないです。

 独り暮らしで亡くなった場合は、発見後、市役所等が相続人の住所を調査してから、その後に請求書を送ってきます。

 請求書が死亡してから半年、1年経ってに届くことは珍しくありません。

 相続放棄は、亡くなったことを知った日から3か月以内に行うことが原則であるため、請求書が届いてから相続放棄をしても認められないことが多いです。

 そのため、相続人に請求が来ていなくとも、相続放棄をしておくことをお勧めします。

3 生活保護費の返還を求められることも

 生活保護を受けていた方の場合、相続人が、数百万円の生活保護費の返還を求められることがあります。

 生活保護を受けるには、資産が一定以下でなければならず、持ち家がある場合など資産がある場合は、原則として生活保護を受けられません。

 しかし、持ち家を売却して引っ越しをするとかえって費用が掛かってしまう場合や、賃貸物件が借りられない場合は、例外的に持ち家を売却せずに生活保護を受けられることがあります。

 この場合は、生活保護を受けている方が亡くなった後に、受け取った生活保護費を返還しなければいけなくなることがあります。

 生活保護費の返還額は、持ち家の売却金額になるため、多くは数百万円になってきます。

4 生活保護を受けている方の相続は放棄するべき?

 そもそも、相続は、

① 既にわかっているプラスの財産があるとき

② 借金がないことが確実な場合

のどちらかの場合に行うべきで、それ以外の場合は、相続放棄をした方が良いケースがほとんどです。

 しかし、

「生活保護を受けている」

=プラスの財産はまずなく(≠①)、親戚の支援を受けられなかった結果として生活保護になっているため財産状況を知っている人がほとんどいません(=②)。

 そのため、生活保護を受けている方の相続は、プラスの財産よりマイナスの財産の方が多く、相続をすると赤字になってしまうケースが多いです。

 そのため、費用をかけてでも速やかに相続放棄をした方が良いケースが多いです。

 

相続土地国庫帰属制度はあまり役に立たない?

 令和5年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度ですが、近年ニュースでもよく取り上げられる「相続空き家問題」などを法律で解決してくれる画期的な制度に聞こえます。

 しかし、制度の中身を見ていくと、おそらくあまり役には立ちそうもありません・・・

1 相続土地国庫帰属制度とは?

 相続土地国庫帰属制度とは、その名のとおり、相続で取得した土地を国庫に帰属、すなわち国の物にしてしまう制度です。

 国のものにしてしまうということは、今後、草刈りなどの管理や固定資産税の支払いなどをしなくてよくなるということです。

 法務省のHPでも、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由が挙げられています。

 こういった土地が放置されると、一応は他人の土地ということで国すらも手が付けられなくなってしまうので、それを解消しようという制度です。

 これだけ聞くと確かに便利そうな制度です。

2 そもそも、なぜ土地を手放したい?

 管理が大変であれば、売ってお金に換えてしまえば終わりです。

 それができないのは、次のような理由があるからです。

⑴ 価値のない土地で費用の方が高く赤字になる。

 東京の都心の土地であれば、一戸建てで1億円を超えることも珍しくありません。

 しかし、地方の土地は、土地の価値が100万円に対し、空き家の解体費用が400万円なんてことは珍しくありません。

 また、土地に値段がつけばいい方で、いわゆる田畑や山林などは、そもそも価値がなく買い手すら見つかりません。

 そのため、売ろうにも、赤字になってしまうため売れないのです。

⑵ 相続放棄をしたくても、管理責任が残ってしまう。

 手放すだけであれば、既に相続放棄という便利な制度があります。

 しかし、相続放棄は、放棄した後も管理責任が残ってしまいます。

 空き家を相続放棄して放置してしまうと、倒壊したときの賠償責任が、ということもありえます。

 相続して空き家を解体しようにも、名前も連絡先も知らない相続人がいて解体ができない。

 一方で、相続放棄をして相続財産管理人を立てようにも、弁護士費用や裁判所への予納金で100万円単位でお金が必要とジレンマに陥ってしまうのです。

3 相続国庫土地帰属制度は役に立つ?

 では、今回の制度は、今までの「赤字になる」「空き家の解体ができない」といった問題点を解決できるのかというと、できません。

⑴ 10年分の管理費を支払う必要

 まず、この制度は、申請の際に10年分の管理費を納めなければなりません。

 しかし、「お金がかかるから」「赤字になるから」という理由で手放せない人のために作られた制度なのに、結局お金がかかるので本末転倒です。

 お金がかかるなら、国に寄付せずとも、二束三文でも売った方がまだマシというものです。

⑵ 面倒な土地は引き取ってもらえない。

 この制度は、なんでも引き取ってくれるわけではありません。

 引き取れない土地としては、次のようなものがあります。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

・ 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地
 C 他人の利用が予定されている土地
 D 土壌汚染されている土地
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
 

・ 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 こちらを見てわかるとおり、建物が立っていると引き取ってもらえません。

 また、山林などの価値のない土地も引き取ってもらえません。

 「空き家を解体できない」「山林などは買い手が見つからない」という理由で土地が放置されるのに、この制度は、そういった土地を対象外にしているのです。

4 新たに法律ができるのを待つしかない。

 今回の制度で対象になる土地は、すぐにでも建物を建てて有効利用できるような価値のある土地に限られており、そのような土地であればそもそも売ってお金にしてしまいます。

 売ればお金になる土地を、10年分の管理費を払って国に寄付する人はいないため、今回の制度はおそらく利用が進まなさそうです。

 費用面を税金でカバーするような制度や、所有者の同意がなくても価値のない空き家は取り壊しができるような制度など、今の日本の法律ではできないことを可能にする制度ができないと抜本的な解決はまだ先になりそうです。

相続土地国庫帰属制度について

1 概要

 相続等で土地を取得した人が、法務大臣に対して申請をすることで、土地を国の物にしてもらうことができます。

 要は、いらない土地を国に寄付することができます。

 令和5年4月27日に始まった制度で、相続した空き家が放置される社会門題が解決するのではないかとニュースでもよく取り上げられていました。

 空き家問題については、現行の日本の法律では制度上解決できないものでしたが、今回新たに法律が作られたことにより少しは前に進むかもしれません。

2 手続きの流れ

 手続きの流れは次のとおりです。

⑴ 法務大臣に対する申請

⑵ 法務大臣による審査

⑶ 負担金の納付

⑷ 国庫帰属(手続完了)

 どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではなく、法務局の審査を通過して、初めて国に寄付することができます。

3 申請できる人

 申請できるのは、「相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人」です。

 相続以外で土地を取得した場合は、この制度は使えません。

 また、相続人以外の人が受け取った場合もこの制度は利用できません。

 子がいる場合に、遺言で全財産を受け取った兄弟が要らない土地だけを寄付するといったことはできません。

 なお、土地を一人で全部所有していなくても、共有者の一人だけが寄付するといったことも可能です。

4 申請先

 申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。

 法務局には、本局と支局・出張所がありますが、取り扱いがあるのは本局のみです。

5 引き取ることができない土地

 対象となる土地については、どんな土地でもいいわけではなく、要件があります。

 細かく見ていくとややこしいですが、要は「建物のない綺麗な更地」です。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地

   空き家は取り壊してからでないと引き取ってもらえません。
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地

   購入したときの抵当権がついていると、利用できません。
 C 他人の利用が予定されている土地

   私道など、他人が利用している土地は対象外となります。
 D 土壌汚染されている土地

   工場跡地などは、調査の結果土壌汚染がされていることがあります。
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

   土地の境界が、過去の測量などで、隣地所有者との間で同意されている必要があります。

   境界がはっきりしていない場合、所有者と隣地の人全員で境界を確定してから申請します。
 

 (2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

   崖の上にある土地などは、崖崩れの危険があるため、対象外です。

   また、土地が傾いている場合は、建築の際に大規模な工事が必要になるため対象外です。
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

   建物とまでは言えなくとも、倉庫やカーポートなどがある場合は、撤去をする必要があります。

   また、山林だと木が生えている場合も対象外です。

 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
   地下には、過去に建物を解体したときの廃棄物が埋められていることがあります。

   また、地下に井戸がある場合も撤去の必要があります。

 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

   建物や木の枝などが他人の土地に越境している場合、枝を切る切らないで揉めている場合などは対象外です。

 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

6 審査手数料

14,000円