お墓と相続

1 法律における「お墓」

相続の相談において、お墓をどうするべきか聞かれることは少なくありません。

お墓の引継ぎ先も法律で定められていますが、ここで言う「お墓」は法的には「祭祀財産」の一つとされ、次のようなものを指します。

①系譜:家系図などのこと

②祭具:位牌、仏壇などの祭祀、礼拝に用いられるもの

③墳墓:墓石、墓牌など、遺骨や遺体を葬っている設備

2 お墓は遺産分割できない

お墓を始めとする「祭祀財産」は,民法897条により祖先の「祭祀の主宰者」に帰属すると定められているため,遺産分割協議で誰が引継ぐかを決めるものではありません。

そのため,遺産分割前であっても,お墓の名義変更を行うことは可能となります。

名義変更の方法につきましては,お墓ごとに異なるため,お墓の管理者の方へお問い合わせいただくのが良いでしょう。

また,「祭祀財産」は遺産とはならないため,これを引き継いだ人が他の相続人より相続の取り分が少なくなることはありません。

3 お墓を引継ぐ人の決め方

お墓を引き継ぐこととなる「祭祀の主宰者」は次の順番で決まります。

① 被相続人の指定

② 慣習

③ 家庭裁判所の審判

したがって,亡くなった方が遺言などによりお墓の引き継ぐ人を決めていた場合は,その人がお墓を引き継いでいくこととなります。

そして,遺言等がない場合は,慣習により引き継ぐ人が決まることとなります。

この慣習が明らかでないときは,裁判所に申し立てることにより審判で決定されることとなります。

4 遺骨の引継先

遺骨については最高裁判所の判例において「慣習上の祭祀主宰者に遺骨が帰属する。」とされているため,先ほど述べたお墓を引き継ぐ「祭祀承継者」が一緒に引き継ぐこととなります。

5 お墓・遺骨と相続放棄

お墓や遺骨についても,相続財産とはなりません。

そのため,遺骨を引き取ってしまったとしても,相続放棄できなくなることはありません。

また,お墓の名義変更も相続放棄と関係なく行うことはできます。

6 困ったら弁護士へ

お墓の問題のみが問題となるケースは少なく、大抵は相続問題とセットです。

そのため、お墓の件でお悩みの場合、まずは、弁護士に相談をしてみるのが良いでしょう。

空家問題

 近年ニュースで問題となっているものとして、空き家問題があります。

 この問題の根本的な原因は、日本の法律制度にあります。

 相続した空き家を売却や解体するためには、日本の法律上、空き家をどうするのかについて、相続人全員で合意する必要があります。

 しかし、今までは名義変更が義務化されていなかったため、家の名義が祖父や曾祖父といったことは珍しくありません。

 そのため、名義変更しようにも、誰が相続人かわからないといった事態が発生しています。

 また、連絡が取れても、一人でも反対をする人がいると、空き家の解体や売却は不可能です。

 そのため、そのまま空き家が放置されてしまうのです。

 また、相続放棄をしても、空き家の管理責任は残ります。

 相続放棄をすると、遺産の所有権自体は失いますが、遺産を管理する責任は残ります。

 空き家は、そのまま放置すると、動物が住み着いたり、建物が倒壊するといった可能性が出てくるため、非常に危険です。もし、空き家が原因で、誰かに損害が発生した場合は、損害賠償請求をされる可能性があります。

 相続放棄をして空き家の管理責任から免れるためには、最終的には、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる必要があります。

 しかし、この相続財産管理人の選任が大変なうえ、申立のための弁護士費用や裁判所への予納金などで数十万円単位のお金がかかってしまいます。

 この手続きの煩雑さや費用の面も、空き家が放置されてしまう理由の一つです。

 

 空き家になった不動産を相続して、しかも特に活用方法がない場合は、税金だけが発生する「負の財産」になってしまいます。

 税金を支払うだけになるくらいであれば、すぐに売った方がメリットがあります。

 一定の条件を満たせば、売却時の税金を安くできる可能性があるため、税理士に相談することをお勧めします。

 ただし、相続した空き家の建築時期や、売却価格などについて条件があります。

 また、この特例が使えるのは、相続開始から3年以内であるため、相続した空き家を売却するのであれば、できる限り早くに売却手続きを行う必要があります。

法律的な縁切り

よくご相談をいただくこととして、親族と「縁を切りたい」と言われます。

家を出て行った子供に財産をあげたくない、離婚した父親と連絡を取りたくないなど、理由は様々ですが、色々と需要はあるみたいです。

しかしながら、民法に「縁を切る」という制度はありません。

・特別養子縁組をした場合

・遺言書を偽造した場合(相続人の欠格)

・被相続人に対して虐待などをした場合(相続人の廃除)

など、相続人としての資格を失うという、縁切りのような制度はありますが、いわゆる「縁を切る」という制度はありません。

なお、親を虐待した場合の相続人の廃除なども、相続人間の話合いでまとまればよいですが、それでも権利を主張する相続人がいる場合は裁判所での手続きが必要となりハードルは高いです。

具体的には、「欠格事由」がある場合、もしくは相続人から「廃除」された場合には相続人としての資格を失います。

「相続人の欠格事由」とは、相続人が被相続人に対して、ある一定の行為を行った場合(欠格事由がある場合)に、相続人としての資格を失う制度です。

具体例としては、

・遺言書を偽造したり、隠したりした場合

・詐欺・脅迫により遺言書を書かせた場合

などがあります。

(民法891条参照)

「相続人の廃除」は、家庭裁判所に申立てをし、申立てが認められることで、相続人としての資格を失わせます。

具体的には、被相続人を虐待したり、重大な侮辱をしたりした場合に認められます。

(民法892条参照)

また、養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の二つの方法があります。

その違いは、産みの親との親族関係が残るかどうかです。

普通養子縁組は、産みの親との親族関係はそのまま残るため、産みの親と養親(=養子先の親)の両方から相続をすることになります。

一方で、特別養子縁組は、産みの親との親族関係がなくなるため、産みの親が亡くなっても、そちらから相続することはできません。

このように、一般にイメージされるような「縁を切る」という制度は存在しません。

財産を渡したくないのであれば遺言書などの生前対策を、相続したくないのであれば相続放棄などを行っていくのが現実的でしょう。

相続放棄と遺族年金

 相続放棄をした場合、財産の相続ができなくなるため、入院給付金や介護保険料の還付などの相続に伴う金銭の受け取りはできなくなります。

 しかし、未支給年金や遺族年金など一部の金銭は、相続放棄をしても受け取ることができます。

 これは、遺族年金が、遺産ではないと考えられているからです。

 相続放棄は、一切の遺産を受け継がないという制度であるため、その言葉のイメージから「亡くなった方に関するお金は、一切受け取ることができない」と思われがちです。

 確かに、相続放棄をすると、亡くなった方の遺産については、取得ができません。

 しかし、遺族年金は、亡くなった方に支給されるお金を相続しているわけではありません。収入を支えていた方が亡くなった後に、遺された遺族に対して支給される財産です。

 そのため、相続放棄をしても、遺族年金の受給資格を失うことはありません。

 これは、そもそも、遺族年金がどういうものかという性質とも関連しています。

 たとえば妻が専業主婦で、夫の収入によって生計がなりたっているような世帯がある場合、突然夫が亡くなると、その世帯は一気に収入を失うことになります。

 そうなれば、残された妻や子は、生活ができなくなる可能性があります。

 そういった事態を防ぐために、残された遺族に支給されるものが、遺族年金です。

もちろん、夫が専業主夫で、妻の収入によって生計が成り立っている場合も同じです。

 支給対象は、亡くなった方の収入で生計を維持していた子か、子がいる妻(夫)です。

 遺族厚生年金は、亡くなった方が厚生年金に加入していた場合に、遺された遺族に支給されます。

 遺族厚生年金の受給資格には、順番が定められています。

 優先順位で言うと、1番が亡くなった方の妻(夫)と、亡くなった方の子どもです。2番目の優先権を持つのは、亡くなった方の両親で、3番目が孫、4番目が祖父母です。

 相続の権利は、法律上、妻と両親などが同時に権利を取得します。

 この点、妻が受け取る場合は両親が受け取れなくなる遺族年金は、民法上の相続の考え方とは異なってきているわけです。