相続財産調査の重要性

1 相続財産調査は必ず必要? 

結論から言えば、相続財産の調査はした方が良いです。

相続をするか、相続放棄をするか決めるには、土地や預金などプラスの財産と借金などのマイナスの財産を比べて、黒字になるのであれば相続、赤字になるのであれば相続放棄という判断をすることが一般的だからです。

また、せっかく相続人との話し合いが終わって遺産分割協議書を作っても、あとから知らなかった遺産が見つかると、また話し合いをやり直さなければいけなくなってしまうからです。揉めているのをやっと解決したあとだと、話合いのやり直しは本当に大変です。

2 一緒に住んでいたから財産調査はいらない?

亡くなったのが夫のような一番身近な人でも、財産調査をやる価値はあります。

というのも、預金も自宅にある通帳が全てとは限らないからです。

調べてみたら、最初に証書が発行されただけで通帳の存在しない定期預金が見つかることは珍しくありません。

また、夫の親が作っていた口座、親から相続していた口座など、亡くなった夫自身も知らなかった口座があるなんてこともあります。

そのため、自宅にある資料は弁護士に見せるなどして、必要に応じて財産調査は行うことも視野に入れた方が良いでしょう。

相続財産の調査とは

1 亡くなった人の財産がわからないのだけれど…

 相続のご相談で多いのが、

「亡くなった方の財産を調べられるか?」

です。

相続といっても色々なパターンがあり、同居していた親が亡くなったケースもあれば、ほとんどあったことのない叔父・叔母や物心つく前に離婚した父親から相続をしてしまったケースもあります。

財産調査のご依頼をいただくことが多いケースとしては、

①兄弟が亡くなった親の財産を隠しているケース

②面識のない親戚が亡くなって突然相続人になってしまったケース

です。

このようなケースでも、財産調査をすることはできます。

財産の種類によって調査方法は変わるため、具体的な調査方法は別の記事で紹介します。

2 相続財産調査は他の相続人の協力がなくてもできる

①のケースも、②のケースも、共通しているのは、「他の親戚の協力が得られない」点です。

①のケースだと、争いごとにしたくはないとしても、弁護士などを入れて財産調査をしていることがバレると、それだけで揉め事になってしまうこともあります。

②のケースだと、そもそも財産状況を知っている唯一の本人が亡くなってしまっており手がかりがないことも多いです。

しかし、相続人は相続財産を調査する権限が法律で認められています。

兄弟や親戚の協力がなくとも財産調査をすることができ、調査をしても他の親戚に知られることもありません。

そのため、財産調査を行うことにデメリットはないので、可能であれば行った方が良いかもしれません。

相続した借金の調べ方

相続した借金の調べ方

1 借金は調査できる

亡くなった方に借金があると、相続人は支払い義務を追ってしまいます。

そのため、相続するかどうかを検討するためにも借金の調査は重要です。

亡くなった方の借金は、どこからいくら借りたか分からなくても

・CIC(CREDIT INFORMATION CENTER)

・JICC(日本信用情報機構)

・全国銀行個人信用情報センター

に問い合わせることで調査をすることができます。

また、この手続を弁護士に任せることもできます。

2 借金の調べ方

CICなどへの調査は、法定相続人であれば、他の相続人の許可がなくとも一人で調査ができます。

具体的には、次のような書類を揃えて、郵送することになります。

①登録情報開示申込書

②本人開示手続き利用券

 もしくは

 定額小為替

③本人確認資料

④死亡を証する資料

⑤相続人であることを証する資料

①登録情報開示申込書は、CICのホームページでダウンロードできます。

②本人開示手続き利用券は、コンビニで購入します。

定額小為替は、郵便局の窓口で購入できます。

③本人確認資料として、運転免許証などの身分証明書のコピーが必要です。

④亡くなった方の死亡を証する資料としては、死亡診断書、亡くなった方の死亡日時が記載された戸籍・住民票などがあります。

⑤相続人であることを証明する資料としては、相続人の戸籍などが必要になります。

法務局で法定相続情報一覧図を作っている場合は、戸籍の代わりに使えます。

3 保証人には要注意

亡くなった方が直接お金を借りていなくとも、保証人になっている場合は、CICなどへの調査では発見できません。

しかし、保証人は、お金を直接借りた人(主債務者)が返せなくなれば、代わりに返さなければいけない点は借金と変わりません。

保証人になっているかどうかは、借金をしている会社に直接問い合わせるしかありません。

そのため、亡くなった方の自宅の郵便ポストや重要書類の入っているタンスなどを入念にチェックして、どこからお金を借りているかを確認してください。

「出生から死亡までの戸籍」の入手方法


亡くなった方の銀行預金の払戻しをする際に、必要書類として必ず目にするのが「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍」です。
この「出生から死亡までの戸籍」というのは、そのような名前の書類が存在するわけではなく、亡くなった方の名前が記載されている過去の全ての戸籍謄本のことを言います。
生命保険の請求で必要な「亡くなった方の死亡の記載のある戸籍」は戸籍1通でよいため、ご自身で集める方もいらっしゃいますが、「出生から死亡までの戸籍」を集める段階でつまずいてしまい、ご相談にいらっしゃるケースが多いです。

そこで、今回は、

1「出生から死亡までの戸籍」の戸籍とは何か
2「出生から死亡までの戸籍」の集め方を紹介します。

1「出生から死亡までの戸籍」の戸籍とは何か

人は戸籍を転々とする「出生から死亡までの戸籍」とは、今までの戸籍全てです。
産まれて出生届が提出されると、まず親の戸籍に入ります。そして、結婚をすると、夫婦2人だけの戸籍が作られ、親の戸籍から出ていきます(除籍)。また、本籍地を変えたり、戸籍法の改正があったりすると、新たな戸籍が作られます。
このように、日本人は、生まれてから死ぬまでの間に何個もの戸籍を転々と移動していきます。そして、過去の戸籍は基本的に全て市役所・区役所に保管されています。(※)この、過去にいたことのある戸籍全てのことを、「出生から死亡までの全ての戸籍」
※明治、大正の頃の戸籍だと、廃棄されていたり、戦災で燃えてしまってなくなっている場合があります。 

2 「出生から死亡までの戸籍」の集め方

市役所で「戸籍をください」と言っても最新の戸籍しかもらえないと思います。過去の戸籍を手に入れるには、その戸籍の

・本籍地

・筆頭者

がわかっていないといけません。

この点、戸籍を移動すると、移動前の戸籍には移動先の戸籍の本籍地と筆頭者が、移動後の戸籍には移動前の戸籍の本籍地と筆頭者が記載されます。

そのため、「戸籍を取る→移動前の戸籍の本籍地を確認する→その本籍地の市役所で移動前の戸籍を取る」と繰り返していけば、戸籍を一つずつ遡り、最後には出生のときの戸籍をとることができます。

もっとも、戸籍によっては、手書きで文字が読み辛いものや、どこに前の戸籍が書いてあるのかわからないものもあります。そういう場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。

特別寄与料の請求

1 制度の概要

相続法改正で新設された目玉制度の一つで、2019年(令和元年)7月1日に施行されました。

今までは、相続人以外の人は、亡くなった方の介護をどれだけ親身にしていたとしても、財産を受け取ることはできませんでした。

この制度のポイントは、亡くなった方の面倒を見ていた人が相続人以外であっても、相続人にお金を請求できるようになったことです。

以前もご紹介しましたが、親の介護などをした相続人がいた場合は、寄与分として相続の取り分が増える場合があります。

しかし、寄与分は、あくまで「相続人」でなければ認められません。

例えば、Aさんの子供BさんとCさんは、結婚して東京で暮らしており、田舎に一人残ったAさんは、兄弟のDさんやその子供のEさん(Aさんからすると甥姪にあたる)に面倒を見てもらっている、というケースは珍しくないと思います。

このような場合、相続人はあくまで子供のBさんとCさんです。そのため、相続人ではないDさんとEさんに寄与分が認められることはありません。

しかし、これでは不公平だろうということで設けられたのが、この特別寄与料の制度です。介護をしたDさんやEさんも、介護に応じてお金を受け取れる可能性が出てきたのです。

2 特別寄与料が認められるための要件

基本的には、寄与分の場合と同じ文言が使われていますが、以下の⑴⑵の点が寄与分と異なります。

⑴ 介護をした人が「親族」であること

特別寄与料の請求は、誰でもできるわけではなく、相続人以外の「親族」に限られます。

この「親族」は、法律用語としての「親族」です。

「親族」については、民法725条に定めがあり、

   ①6親等内の血族

   ②配偶者

   ③3親等内の姻族

が「親族」となります。

※1 血縁関係が近い順に1親等、2親等、3親等・・・と順位付けがされています。

   たとえば、

   1親等・・・親、子

   2親等・・・祖父母、孫、兄弟

   3親等・・・叔父叔母、甥姪、曽祖父母、ひ孫

   などです

※2 血族とは、親子、兄弟など血のつながりのある親戚です。

   姻族とは、配偶者がわの血族で、直接血のつながりはありません。

⑵ 療養看護その他の労務の提供をしたこと

寄与分は、被相続人にお金を支援した結果、遺産が増えた場合にも認められていましたが、特別寄与料は、あくまで介護をした場合(療養看護)や家業を手伝った場合(その他の労務の提供)に限られています。

なお、「特別の寄与」などその他の要件は、文言は同じですが要件の解釈が寄与分とは異なります。

この点については、また次回紹介をさせていただきます。

生命保険契約照会制度

1 亡くなった方の生命保険を網羅的に調べられる!

2021年7月から、亡くなった方の生命保険を調べられる「生命保険契約照会制度」が始まりました。

今までは、亡くなった方が生命保険に加入しているかどうかは、加入している生命保険会社に聞いてみないとわかりませんでした。

しかし、そもそもどこの生命保険に加入しているかがわからないと、せっかく保険に入っていたのに、知らないままということもありました。

今回の「生命保険契約照会制度」では、生命保険協会に問い合わせることで、全42社の生命保険会社に、生命保険契約の有無を網羅的に照会することができるようになりました。

2 生命保険契約照会制度のやり方

照会のやり方は

 ①専用のホームページから行う場合

 ②郵送で行う場合

の2つの方法があります。

①専用のホームページから行う場合

step1)ユーザー登録をする

https://seiho.force.com/seiho/s/login/?ec=302&startURL=%2Fseiho%2Fs%2F

上のURLにアクセスし、生命保険契約照会制度の専用ホームページにユーザー登録をします。

ユーザー登録は一番下の「初めて利用される方はこちら(新規ユーザー登録)」の項目をクリックします。

上の初回登録ページで、必要事項を記入して「送信する」を押すと、登録したメールアドレス宛にパスワード設定用のURLが届きます。

パスワードを登録すると、アカウント登録完了です。

step2)必要書類の準備

必要書類を準備します。

必要な書類は次のとおりです。

 ・生命保険契約照会 同意書

   生命保険契約照会制度の専用ホームページでダウンロードできます。

 ・照会者の本人確認書類

   照会者(=調査を行う人)の免許証等の本人確認書類が必要になります。

 ・被相続人の死亡診断書

 ・相続人と被相続人(=亡くなった方)の関係性がわかる戸籍(or法定相続情報一覧図)

   調査を行う人が亡くなった方の相続人であることを示す戸籍が必要になります。

   相続人であることを示す戸籍は、相続人により次のように異なります。

(ご家族の状況により、次の戸籍以外に戸籍が必要になる場合がありますため、詳しくは専門家までご相談ください。)

配偶者

→被相続人の除籍謄本

→被相続人の除籍謄本、照会者(=子)の現在戸籍

両親

→被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、子の死亡記載のある戸籍謄本、照会者(=両親)の現在戸籍

兄弟姉妹

→被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、子の死亡記載のある戸籍謄本、両親の死亡記載のある戸籍謄本、照会者(=兄弟姉妹)の現在戸籍

Step3)必要書類をホームページで提出する。

https://seiho.force.com/seiho/s/login/?ec=302&startURL=%2Fseiho%2Fs%2F

専用ホームページで、step1登録した、メールアドレスとパスワードで「マイページ」にログインします。

マイページ内下部にある「照会手続き」をクリックすると、照会対象登録者の入力画面が出るため、

必要事項を入力し、「次へ」を押して、画面に従って進みます。

「必要書類のアップロード」の画面で、step2で用意した書類をスキャンしたものをアップロードし、画面に従って進むと手続完了です。

②郵送で行う場合

https://www.seiho.or.jp/contact/inquiry/paper/

上のURLにアクセスし、次の項目を入力し「次へ」をクリックします。

・氏名

・生年月日

・住所

・電話番号

入力した住所宛に、申請書等が郵送されます。

申請書等を記入し、①のstep2に挙げました必要書類等を返送すると、手続完了です。

なお、このときに返送する必要書類は全てコピーで大丈夫です。

3 生命保険契約照会制度の注意点

この生命保険契約の照会制度は、「生命保険があるかないか」のみです。

・生命保険契約の種類

・保険金の金額

・保険金の受取人

などは調査対象外です。

実際に保険金を請求する場合や、他の相続人がいくら受け取っているかを知りたい場合は、照会でわかった保険会社に個別に調査をする必要があります。

しかし、保険会社への個別の調査は、相続人であっても、受取人でなければ必ずしも回答してくれるとは限りません。

生命保険金が特別受益として遺産分割の際に考慮される場合も存在するなどの必要性があれば、弁護士会を通した調査の場合は回答が得られる場合があります。

そのような場合は、弁護士にご相談ください。

3ヵ月経過後の相続放棄

1 相続放棄の期限は3か月

 亡くなった方の借金は、亡くなったことを知ってから3か月以内であれば相続放棄ができます。

 しかし、亡くなった方と疎遠だった場合、借金の存在を知らないことは珍しくありません。

 そのため、借金がないからと相続放棄をしないでいたら、あとから借金が出てきてしまうというケースがあります。

 もっとも、3か月を過ぎた後の相続放棄でも例外的に相続放棄が認められる場合もあります。

2 3か月経過後の放棄が認められた判例

⑴ 昭和59年4月27日最高裁第二小法廷判決

 この判例は、熟慮期間(=相続放棄をできる期間)は、原則として、相続人となったことを知った時から3か月としており、借金の存在をあとから知っても原則は相続放棄をできないとしています。

 しかし、例外として、次の①②の条件が認められるときに、3か月経過後でも相続放棄を認めています。

要件① 相続財産が全く存在しないと信じており

要件② 相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続財産が全く存在しないと信じることに相当な理由があるとき

⑵ 判例の解説

ア 基本的な考え方

  この判例は、本来、相続人は3か月以内に遺産の調査を行って、相続放棄をするかどうかを決断しなければいけないとの考え方に立っています。

  そのため、「借金があるかもしれない」と思っていたけれども、調査をしなかった場合には、相続放棄をしなかった人に責任があるとして相続放棄を認めないという判断がされやすくなります。

  しかし、「相続財産が全く存在しないから相続放棄をしなくてもいい」と信じており(要件①)、財産調査をしなかったことが仕方ない場合(要件②)に例外的に相続放棄を認めています。

イ 相続放棄が認められる具体例

  この裁判例は、「被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況」からみて、財産調査をしようと思うかどうかを重視しています。

  すなわち、亡くなった方と相続人の関係性が重要になってきます。

  例えば、次のような場合は、例外的に相続放棄が認められやすくなります。

● 両親が物心つく前に離婚して、30年以上会っていない父親が亡くなり、子供として相続人になった場合

● 会ったこともない叔母の相続人になってしまった場合

3 あとから借金が見つかったときは弁護士に相談を

  亡くなってから3か月を過ぎたあとの相続放棄は難しいです。

  しかし、裁判所に申立をする際に、主張書面をつけることで相続放棄が認められやすくなります。

  そのため、あとから借金が見つかった場合など、難しいケースの相続放棄は、弁護士に相談をして行うことをお勧めします。

  東京で相続放棄をお考えの方はこちら

介護をした際の寄与分の計算方法

親の介護などをした相続人の相続の取り分を増やす寄与分ですが、その計算方法がよく問題となります。

東京では、もしかしたら、親と同居して介護をするといった家庭は減ってきているのかもしれませんが、それでも相続で一、二を争うテーマです。

寄与分の類型により、計算方法は変わってきますが、特に問題となるのが、病気や高齢により独りで生活ができない親を子供が世話をした場合(療養看護型)の計算方法です。

 

1 介護の日数に応じて計算される

このような場合は、相続人の介護がなければ介護サービスや老人ホームの費用が必要になるところ、介護によりその支払いをせずに済んだ場合には、寄与分として認められるケースがあります。

そのため、計算方法は介護日数に応じて次のように計算されます。

 

看護報酬額×日数×裁量割合

 

2 看護報酬額の算定

介護保険における「介護報酬基準」が用いられることが多くなっています。

「介護報酬基準」では、要支援1~2、要介護1~5の7段階に分け、介護サービスの内容等により報酬を定めています。

具体的には、次の通りです。

要支援1:1397円~2793円

要支援2:2212円~4423円

要介護1:2212円~4423円

要介護2:3215円~6430円

要介護3:3215円~6430円

要介護4:3671円~7342円

要介護5:4127円~8254円

 

なお、要介護認定がされていない場合でも、寄与分が認められる可能性があります。

その場合は、被相続人の状況から要介護度を推測して介護報酬基準を利用するといくらかを基準にすることもあります。

 

また、介護を相続人で分担して行っていた場合には、行った介護時間の割合で介護報酬を分けるといった計算がなされます。

 

3 裁量割合により減額される

寄与分が認められたとしても、介護報酬基準などに基づく報酬相当額が当然認められるわけではありません。

介護報酬基準は、家政婦協会等の介護機関に支払う金額であり、実際に介護をした人が受け取る金額はこれより少なくなります。

また、介護報酬基準に基づく報酬は、看護・介護の資格を持つプロに支払われる金額であり、資格のない親族が行う介護については介護の内容も異なってきます。

加えて、親族は扶養義務を負っているため、扶養義務を超えた分の介護が寄与分となります。

そのため、実際には50%~80%の裁量割合がかけられるケースが多くなります。

寄与分とは

1 相続でしばしば問題になる「寄与分」

相続で、しばしば問題となるのが、介護をした相続人とそうでない相続人がいる場合です。

「あれだけ苦労をして介護したのに、相続の取り分が何もしていない相続人と同じなのはおかしい」

と思うのは、自然な感覚だと思います。

一方で、

「介護というが、家賃も払わず同居してもらっているのだから、それくらい面倒をみて当たり前だ」

「そんなに大変ならプロを雇えばよかった」

という言い分も納得できるものがあります。

 

2 「寄与分」とは

このような、相続でよく問題になる介護の問題について、民法では「寄与分」という制度を設けています。

「寄与分」が認められると、たとえば、介護をした相続人の相続分が、介護をしていない相続人の相続分より多くなります。

 

一例として、父親の遺産が2000万円で長男Aと次男Bが相続した場合、今まで長男が行ってきた介護が200万円の寄与分として認められると、それぞれの相続分は次のような計算になります。

長男A:(2000万円-200万円)÷2+200万円=1100万円

次男B:(2000万円-200万円)÷2      =900万円

このように、長男Aと次男Bの間では、寄与分200万円の分だけ、相続で差ができます。

 

この寄与分は、よく問題になるのは親の介護の場面ですが、他にも、

・子が親にお金を支援した結果、親の遺産が増えた場合

・子が親の事業(会社、農業)などを手伝った結果、親の遺産が増えた場合

などでも問題となります。

 

3 寄与分が認められる場合

なんでもいいから少しでも親の面倒を見れば寄与分になるわけではありません。

たまに親のもとを訪れて、話をきいてあげたり、食事を作ってあげたりした、というだけでは寄与分は認められません。

寄与分が認められるためには、法律で定められた要件を満たすことが必要となります。

まず、例えば、「特別の寄与」であることが求められます。少し面倒を見たくらいではダメということです。

また、よく問題になるのが、「財産の維持又は増加」に寄与していないといけません。「親の世話をしたことでデイサービス等の利用回数が減った=財産が増えた」など、金銭的にプラスになってなければ意味がないという考え方です。

 

詳しい要件については、また紹介をできればと思いますが、このようにややこしい要件が法律で定められています。

もし、ご自身のご相続で、介護が問題になりそうな場合は、弁護士にご相談ください。

 

 

 

生命保険が特別受益になる例外的な場合

1 「著しい不公平」がある場合には生命保険金が特別受益となる

生命保険は、原則的に特別受益にはなりません。

しかし、例外的に特別受益になる場合があります。

判例上も、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険金も特別受益にあたるとしています。

 

そして、「著しい不公平」となるかどうかは

①保険金の額

②保険金額の遺産の総額に対する比率

③同居の有無

④被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係

⑤各相続人の生活実態等

を総合考慮して判断されます。

(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)

 

3 生命保険金が特別受益となる具体的な場合

生命保険金が特別受益となるかは、事案ごとに判断されますが、②遺産の総額に対する保険金の比率は重要な考慮要素となります。

※「遺産の総額」とは、生命保険金を含みません。

 

例えば、次のような場合には生命保険金が特別受益とされています。

 

例1)東京高決平成17年10月27日

ア 遺産の総額:1憶 134万円

イ 生命保険金:1憶 129万円

ウ イ ÷ ア:99.9%

→〇特別受益にあたる

 

例2)名古屋高決平成18年3月27日

ア 遺産の総額:8423万円

イ 生命保険金:5154万円

ウ イ ÷ ア:61.1%

→〇特別受益にあたる

 

また、次のような場合には、特別受益性が否定されました。

 

例3)大阪家堺支審平成18年3月22日

ア 遺産の総額:6963万円

イ 生命保険金: 428万円

ウ イ ÷ ア:6.1%

→×特別受益にあたらない

 

4 特別受益になるかは事案ごとの判断が必要

生命保険金の遺産に対する割合は重要ですが、もちろんこれだけで特別受益であるかどうかが決まるわけではありません。

 

例えば、今まで無償で介護をしてきた相続人が保険金を受け取った場合には、今までの介護へのお礼・対価としての意味合いがあることから、介護をしていない相続人と著しい不公平は生じないとして特別受益には当たりにくくなります。(④相続人の貢献の度合い)

また、喪主になる予定の長男にだけ2~300万円程度の生命保険金の受取人に設定されていた場合などは、生命保険金は葬儀費用に充てるためであり、仮に葬儀費用より保険金の方が多くとも、相続人間に著しい不公平があるとはなりにくいでしょう。

 

生命保険金が特別受益になるかの判断は難しいため、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

生命保険と特別受益

1 生命保険金は特別受益にならない

生前に贈与を受けたときは、「特別受益」として相続の際にその分だけ取り分が減ります。

そこで、よくご質問をいただくのが、「生命保険金を受け取った人は相続の取り分が減るのか」です。

結論から申し上げますと、生命保険金は原則として特別受益になりません。

これについては、判例があり、生命保険金は亡くなって初めて請求できるようになるため、「相続人固有の権利」であり、生前贈与とは性質が違うことが理由とされています。

(最高裁判所平成16年(許)第11号 平成16年10月29日第二小法廷決定)

 

2 「相続人固有の権利」とは?

土地であれ現金であれ、被相続人(=亡くなった方)の権利を引き継ぐのが相続です。

生前贈与も、亡くなる前に権利を引き継ぐ点では同じです。

これに対し、「相続人固有の権利」とは、元々被相続人が持っていた権利ではなく、最初から相続人のものとなる権利をいいます。

被相続人から貰った権利ではないため、相続人”固有”と言われています。

生命保険金は、生前に請求することはできず、亡くなって初めて請求できるようになります。

そのため、被相続人が元々持っていた権利(遺産)を相続したのではなく、法的には生命保険金は最初から相続人のものであったと扱われます。

相続放棄をしても、生命保険が受け取れるのも同じ理由になります。

 

3 生命保険金が特別受益となる例外的な場合

しかし、このような考え方は、とっさには受け入れにくいと思います。

というのも、例えば一時払いの生命保険金は、被相続人が生前に支払った保険料が、死後に生命保険金という形で戻ってくるため、実質的には生前贈与と変わらないからです。

(理屈はともかく、感覚としては弁護士でも受け入れにくいと思います笑)

判例も、生命保険が生前贈与と性質が似ている点から、例外的に生命保険金を特別受益とすることを認めています。

要は、2000万円の生前贈与をもらおうと、2000万円を生命保険でもらおうと、不公平には変わりがないでしょうという考え方です。

ただし、生命保険が特別受益になるのは、あくまで”例外的”な場合で、基本的には認められないことは注意が必要です。

何が”例外的”な場合なのかについては、長くなるので次回紹介させていただきます。

 

法定相続情報一覧図の作り方

1 法定相続情報一覧図の作り方

前回は法定相続情報一覧図のメリットを紹介しました。

今回は、具体的にその作り方をご紹介します。

⑴ 必要書類

・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

・被相続人の住民票の除票

・相続人の戸籍謄抄本

・申請する人の身分証

・法定相続情報一覧図

・申出書

(・相続人の住民票の写し)

以上の書類を集めて、法務局に提出することで法定相続情報一覧図は作成できます。

なお、法定相続情報一覧図(家系図のようなもの)や申出書は法務局のHPにテンプレートがあるので、これらをダウンロードして作成できます。

相続人の住民票は必須ではないですが、あわせて提出することで、相続人の住所を一覧図に記載できます。

これをしておくと、法定相続情報一覧図1枚で相続手続ができるようになるのでお勧めです。

 

⑵ 提出先

提出先の法務局は

・亡くなった方の本籍地

・亡くなった方の住所地

・申出人の住所地

・亡くなった方名義の不動産がある場所

のいずれかの地域を管理する法務局から選ぶことができます。

東京都内、例えば池袋にお住いの方の場合は、東京法務局台東出張所を利用できます。

どこで作ったとしても完成する物は同じなので、行きやすい法務局を選ぶことをおすすめします。

 

⑶ 法定相続情報一覧図の作成方法

法定相続情報一覧図とは、家系図のようなもので、自身で作成する必要があります。

法務局は戸籍をチェックして、提出された法定相続情報一覧図に間違いがないかを確認します。

法務局のホームページにテンプレートがあり、これらをダウンロードしてPCで作成することができます。

 

⑷ 法定相続情報一覧図を作る際の注意点

法定相続情報一覧図は、家系図みたいなものですが、いわゆる家族・親族全員の名前を記載する家系図とは少々違いがあります。

 

① 名前を書くのは相続人だけ

法定相続情報一覧図には、相続人以外は記載をしません。

例えば、亡くなった方に子供がおらず親も既に亡くなっている場合、その兄弟姉妹が相続人になります。

先に亡くなっている両親も法定相続情報一覧図に記載はしますが、相続人ではないため、「父」「母」とのみ記載され、名前は記載しません。

また、相続人となるはずだった兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その子供たち(亡くなった方から見ると甥・姪にあたる方)が代襲相続人となりますが、相続人でない親の名前は「被代襲者」とのみ記載します。

 

② 相続放棄をしていても相続人として記載する

相続放棄をすると相続人ではなくなります。

しかし、法定相続情報一覧図には、「亡くなった瞬間に」相続人だった人を記載するため、「亡くなった瞬間に」相続人だったが相続放棄で相続人ではなくなった人も法定相続情報一覧図には記載する必要があります。

そのため、「もう相続人ではないから」と相続放棄をした人を省略すると、作り直しになってしまうため、注意が必要です。

 

③ 相続人の住所は必須ではない

法定相続情報一覧図には、相続人の住所を記載するかどうか選べます。

住所を記載しない場合、相続手続の際には、相続人の住民票をあわせて銀行窓口等に提出する必要があります。

しかし、せっかく戸籍を1枚にまとめたのに、住民票は別で提出しなければならないのはややこしいです。

住所を法定相続情報一覧図に記載してしまえば、戸籍も住民票も一切なしで、1枚で相続手続が可能になります。

そのため、法定相続情報一覧図を作る際は、相続人の住所はぜひ記載してください。

法定相続情報証明制度の活用

1 法定相続情報証明制度とは

相続手続には、ほぼ必ずと言っていいほど戸籍謄本や住民票除票が必要となります。

銀行預金の解約や不動産の名義変更には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍として、祖父や曽祖父が載っている手書きの戸籍までの提出を求められるため、その数は10通~20通となることもあり大変です。

こういうときに利用できるのが「法定相続情報証明制度」です。

集めた戸籍の束を法務局に提出して申請することで、「法定相続情報一覧図」という1枚(場合によっては数枚)の紙にしてくれます。

これが1枚あれば、大抵の相続手続で戸籍が不要となります。

保険会社、銀行での預金解約、法務局での登記手続きはもちろん、税務署や裁判所でも戸籍の代わりに使うこともできる優れものです。

 

2 法定相続情報一覧図のメリット

法定相続情報一覧図は、戸籍の束を1枚の紙にする制度です。

これを作るためには、「いずれにしろ戸籍を集める必要があるのに、何のメリットが?」と思われると思います。

しかし、法定相続情報には、次のようなメリットがあります。

 

① 何通でも作れる

法定相続情報一覧図は、交付申請をすることで簡単に何通でももらえます。

戸籍を、一度、相続手続の窓口に預けてしまうと、返ってくるまで次の相続手続ができません。

しかし、10通以上ある戸籍をもう1セット発行しようとすると、数万円の費用がかかる上、申請手続も10回以上必要になるため難しいです。

しかし、法定相続情報一覧図であれば、簡単に複数通用意ができるため、相続手続をスムーズに行うことができます。

 

② 窓口での手続が早くなる

相続手続では、窓口の担当者は何通もの戸籍を確認して、相続人に間違いがないかを確認します。

そのため、戸籍の確認が終わるまで窓口で待たされたり、場合によっては、手続が後日になってしまうこともあります。

しかし、法定相続情報一覧図は、相続関係を法務局がチェックしてくれているため、窓口の担当者も戸籍のチェックをする時間が必要なくなるため、手続が早く終わります。

 

③ 戸籍集めの間違いがなくなる

出生から死亡までの戸籍を正確に漏れなく集めるのは、専門家でもミスをすることがあるくらいで、とても大変です。

戸籍を全部集めたと思って窓口に行ったところ、戸籍が足りないと言われて出直すことになると、また同じ市役所に戸籍を取りにいかなければならない上、相続手続も最初からやり直しになってしまいます。

しかし、法定相続情報一覧図は、法務局が戸籍に漏れがないかチェックをしてくれるため、いざ相続の窓口で戸籍が足りない!という事態を避けることができます。

 

3 作成の代理は、弁護士などの専門家に

このように便利な法定相続情報一覧図は、相続のすぐの段階でお作りすることをオススメします。

代わりに作成を依頼する場合は、家族などではできず、弁護士などの専門家でないとできないため、ご希望の場合はお気軽にご相談ください。

一人だけ多額の生前贈与を受けた場合の特別受益

1 通常の特別受益の計算

相続人に生前贈与があった場合は、特別受益として相続分が減るというお話を以前したと思います。
この場合は「持ち戻し」という処理を行い実際の相続分を計算します。
※「持ち戻し」=相続財産から出て行ってしまった生前贈与を、相続財産の中に戻して相続の計算をすること
例①
Aが亡くなり、配偶者Bと子CDEの4人が2400万円の預金を相続した場合
それぞれの相続分は
配偶者B:2400万円÷2=1200万円
子CDE:2400万円÷2÷3=400万円
となります。
例②
①のケースで子Bが生前に300万円の贈与を受けていた場合
配偶者Bと子DEの相続分は、2400万円に相続財産に300万円の生前贈与を「持ち戻し」て
配偶者B:(2400万円+300万円)÷2=1350万円
子DE:(2400万円+300万円)÷2÷3=450万円
となります。
そして、贈与を受けた子Bは、贈与分300万円を引いて、
450万円-300万円=150万円
となります。

2 一人が多額の生前贈与を受けている場合

この場合は、先ほどの例②で行った通常の計算ができなくなります。
例③
のケースで子Bが2400万円相当の東京にマンション1室の贈与を受けていた場合
贈与を受けていない配偶者Bと子DEの相続分を②と同じように計算すると
配偶者B:(2400万円+2400万円)÷2=2400万円
子DE:(2400万円+2400万円)÷2÷3=800万円
となります。
しかし、3人合わせると
2400万円+800万円+800万円=4000万円<2000万円
となり、預金だけでは足りなくなってしまいます。
※子Cは相続分を超えて贈与を受けていますが、相続分が0になるだけで、超えた分をBDEに対して返す必要はありません。
そこで、2400万円の預金を配偶者Bと子DEの3人で分けなければいけません。
この計算は、本来ならもらえた相続分の割合で預金2400万円を3人で分けます。
具体的には
配偶者B:2400万円×(2400万円/4000万円)=1440万円
子DE:2400万円(800万円/4000万円)=480万円
となります。
このように、相続人の一人が相続分を超える多額の贈与を受けている場合には、特別受益の計算方法が変わるため注意が必要です。

3 特別受益でお困りの場合はご相談ください。

実際のケースでは、生前贈与を複数の相続人が受けていることは珍しくありません。
そのような場合、更に計算は複雑になります。
計算に間違いがあると大変ですので、特別受益でお困りの際は、まずは弁護士にご相談ください。

遺産分割協議の流れ

遺産の分け方の話合いがまとまらない、どのように解決するのかという質問をよくいただきます。
そこで、今回は遺産分割の解決までの流れを紹介したいと思います。
1 まずは相続人間での話し合い
ご遺産を相続するためには、原則的に遺産分割協議書が必要になります。
協議書が必要になる代表的な場面は、
・亡くなられた方の不動産の名義変更
・亡くなられた方の預金の解約
です。
亡くなった方の銀行預金は、ご相続後に凍結されてしまうため、特に問題となります。
協議書には、相続人全員のサインと判子が必要です。
そのため、相続人間で話し合い、協議書に全員が納得をする分け方を記載する必要があります。
2 話し合いがまとまらない場合
分け方の話し合いの際には、法定相続分を基準に分けられることが一般的です。
その際、生前贈与を受けている相続人の相続の取り分を減らす場合(特別受益)や、亡くなられた方の介護をしていた相続人の取り分を増やす場合(寄与分)があります。
もっとも、誰の相続分をどれだけ増やすか、減らすかで話し合いがまとまらないことがあります。
このような場合、一人でも判子を押さない相続人がいる場合は協議書の作成ができないため、次のような対応が必要になります。
3 弁護士を通しての話し合い
まず、話し合いがまとまらない場合は、専門家を通して話合いを行います。
相続の話し合いでは、生前贈与・介護や土地の評価など様々な問題点が出てきます。
このような問題点を法的な観点から検討し、相手を説得していきます。
合意が取れた場合は、正式な協議書を作成し、相続人全員がサインと実印の捺印を行い、協議は終了します。
4 家庭裁判所への調停の提起
相続人が話し合いに応じない場合は、家庭裁判所に調停を起こします。
調停とは、裁判所において、調停員という第三者を挟んで行う話し合いです。
調停では、裁判官の指示の下で、証拠を提出しながら問題点を法的に整理して、公平な分け方を探っていきます。
調停で話し合いがまとまると、調停調書というものが作られ、協議は終了となります。
5 家庭裁判所での審判
調停は裁判所での手続ではありますが、あくまで話し合いであるため、相続人全員が合意できない可能性も存在します。
そこで、調停でも話し合いがまとまらない場合は審判という手続を行います
審判は、調停と異なり、裁判官がその分け方を決めるものです。
審判においては、相続人の合意がなくともその分け方が決まるため、分割協議はこの時点において一応の解決をみます。
6 遺産の分け方でお困りの場合は弁護士にご相談を
分け方が決まっている場合でも協議書がないと相続の手続ができないため、ご家族で揉めていなくても協議書を作成する必要があります。
そして、協議書の内容に不備があると銀行などで手続に応じてもらえず、一から協議書を作り直す必要があります。
そのため、ご相続の手続の際には、まずは専門家にご相談することをおすすめします。

生前贈与と相続の取り分

1 生前贈与や遺言による贈与があると相続の取り分が減る

最近は,「生前対策」という言葉も浸透しており,相続においては生きている間に対策を行うのが当たり前になってきています。

相続の生前対策には色々な方法がありますが,特によく用いられているのは生前贈与です。

生前に贈与をしてしまうことで,いざ亡くなったときに分ける財産が無くなってしまえば,相続で揉めることがないという発想です。

しかし,これを自由に認めてしまうと,相続人間で不公平が生まれてしまいます。

 

2 特別受益がある場合の相続分の調整

そこで,法律上,一定の生前贈与を受けた人は「遺産の前渡し」を受けたとして,相続の取り分を減らす「特別受益」という制度があります。

 

民法第903条 第1項

 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

条文はとても読みにくいのですが,例を挙げると次のような計算になります。

 

① 計算例(預金4000万円,子供2人,生前贈与2000万円)

例えば,父親が亡くなり,子供2人が4000万円の預金を相続する場合,そのままだと

子A:4000万円÷2=2000万円

子B:4000万円÷2=2000万円

となります。

 

しかし,例えば,子Aが自宅を新築する際に,支援として父親から2000万円の生前贈与を受けていた場合,

4000万円に贈与価額2000万円を加えた6000万円が「みなし相続財産」となります。

そうすると,それぞれの取り分は1/2の3000万円となりますが,子Aは2000万円多く受け取っているため取り分から2000万円が引かれます。

子A:(4000万円+2000万円)÷2-2000万円=1000万円

子B:(4000万円+2000万円)÷2       =3000万円

このように計算をすると,生前贈与の2000万円分の差が生まれ公平な分け方になります。

 

② 計算例(子供3人,預金4000万円,生前贈与2000万円+1500万円)

子供の人数が増えたときも,計算方法は同じで,子供が3人いて,子Aに2000万円,子Bに1500万円の贈与がある場合は

子A:(4000万円+2000万円+1500万円)÷3-2000万円=500万円

子B:(4000万円+2000万円+1500万円)÷3-1500万円=1000万円

子C:(4000万円+2000万円+1500万円)÷3       =2500万円

となり,それぞれの生前贈与を足すと平等になります。

 

3 特別受益の概念は複雑

以上,簡単な例で紹介しましたが,生前贈与の金額が遺産より遥かに多い場合はまた計算方法が変わってきます。

また,生前贈与が全て特別受益となるわけではなく,特別受益に当たるかどうかは今まで多くの裁判例で争われている部分です。

このあたりは法的にもかなり複雑なお話になりますため,実際に生前贈与でお悩みの場合は弁護士にご相談ください。

特別受益については,また別の機会にもご紹介させていただければと思います。

 

 

相続放棄と年金の受取

1 相続放棄をしたら年金を受け取ってはいけない?
相続放棄をすると、亡くなった方の財産は相続できなくなります。
また、逆に亡くなった方の財産を受け取ったり使ったりしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまいます。
そこで、よくご質問を受けるのが
「相続放棄をしたいが、年金を受け取っていいのか」
という点です。
亡くなった方の財産は引き継げないのだから、亡くなった方の年金は受け取れないとも思えてしまいますが、今回はこの点を紹介したいと思います。
2 相続人が受け取れる年金の種類
一言に年金といっても、様々な種類があります。
そのうち、相続人が受け取れる年金としては次のようなものがあります。
①遺族年金
配偶者やお子様が亡くなった方の収入で生活していた場合、突然家庭の収入が無くなってしまうため、そのままだと生活ができなくなってしまいます。
そこで、亡くなった方の収入で生活していたことを条件に、相続人が受け取れる年金を遺族年金といいます。
②未支給年金
年金は2ヶ月に1回、15日に支払われます。
たとえば4月15日に2ヶ月分が支払われると、次の支払は6月15日となります。
この場合、5月15日に亡くなると6月15日の支払いはされません。
その場合、本来受け取れるはずだった4月15日〜5月15日分の年金は支払われないままになってしまいます。
これを未支給年金といいます。
この未支給年金は、法律で定められた順番で家族が受け取ることができます。
3 遺族年金の受取り
亡くなった方の「財産を処分」してしまうと、相続することを認めたとして(相続の単純承認)、相続放棄ができなくなります。
遺族年金を受け取る権利は、亡くなって
から発生するもので、始めから相続人に受け取る権利があります。
そのため、遺族年金を受け取っても、亡くなった方の財産を処分したことにはなりません。
裁判例でも、遺族年金を受け取っても相続放棄をすることができる旨の判示がされています。
(また,別の機会に紹介するかもしれません。)
4 未支給年金の受取り
未支給年金は、亡くなった方が受け取るはずだった年金を代わりに受け取ることになります。
そうすると、亡くなった方の財産を相続しているようにも思えます。
しかしながら、こちらも裁判例では、未支給年金を受け取る権利は相続人が独自に取得するもので、亡くなった方から相続するものではないとしています。
したがって、未支給年金を受け取ったとしても、相続放棄をすることができます。
5 東京で相続放棄にお困りの際はお気軽にご相談を
相続放棄には、他にも難しい判断を迫られるタイミングが伴います。
場合によっては相続放棄ができなくなってしまうリスクもあるため、まずは、弁護士にご相談ください。

相続人と連絡が取れない場合③

1 相続人が行方不明の場合
相続人が行方不明の場合でも、戸籍上は存命である場合、その人を除いて遺産分割を行うことは原則できません。
行方不明の相続人抜きで遺産分割協議書を作成しても無効となってしまうためです。
まずは戸籍をたどって相続人の住所を調べます。
しかし、住所変更の届け出をせずに引っ越しをしていた場合は、住民票も変わっていないため現在の居場所はわかりません。
このような場合、2種類の対応方法があります。
2 不在者財産管理人を選任する
不在者財産管理人とは、行方不明の人の代わりに財産を管理するため、家庭裁判所から選ばれた人です。
家庭裁判所から許可を得ることで、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議を行うことが可能となります。
行方不明の相続人に不在者財産管理人をつけるためには、家庭裁判所に選任の申立を行います。
その際、
・申立書
・行方不明者の戸籍謄本
・行方不明者の戸籍附票
・行方不明を示す資料
(現地調査報告書など)
・行方不明者の財産の資料
・行方不明者が相続人であることを示す資料
(戸籍謄本や法定相続情報一覧図など)
を提出することになります。
手数料は800円です。
これらの資料を揃えて家庭裁判所に申立をし、裁判所から不在者財産管理人が選任されることにより、相続人が行方不明のままでも遺産分割を行うことができるようになります。
3 公示送達を用いた遺産分割審判
遺産の分け方を裁判官が決める遺産分割審判では、相続人全員に裁判所からの手紙が届くこと(送達)が必要となります。
しかし、行方不明者がいる場合はこの送達ができません。
このような場合のために用意された制度が公示送達です。
公示送達の手続を行うと、裁判所の掲示板に貼り出しをして2週間経つことにより、行方不明のままでも審判を行えるようになります。
公示送達の手続は便利ですが、いつでも使えるわけではなく、本当に行方不明かどうかの現地調査を行い、調査報告書を裁判所に提出しなければなりません。
その際は、郵便ポストの様子、表札、水道・電気メーターが動いているか等を確認することとなります。
4 相続人と連絡が取れずお困りの場合は、弁護士に相談を
今月は3回にわたり、相続人と連絡が取れない場合の対策を紹介してきました。
一応は、どのような場合でも、最終的には遺産分割をすることはできるように法制度は整えられています。
もっとも、ご紹介したように、様々な市役所から戸籍を大量に取り付けたり、裁判所を利用したりする必要があり複雑な手続も多いです。
もし、相続人と連絡が取れずお困りの場合は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。

相続人と連絡が取れない場合②

1 相続人から無視される場合

以前,相続人の居場所や生死すら不明な場合の調査方法をご紹介しました。

一方で、連絡先がわかっていても、メールやライン、手紙などを無視されるケースがあります。

もっとも、預金の払戻しや不動産の名義変更のために必要となる遺産分割協議書は相続人全員がサインと判子を押さなければなりません。
また、遺留分減殺請求においては、手紙を送っていても無視されている限り1年間の時効が止まらない場合もあります。
そこで今回は、このような「連絡先がわかっていても無視される場合」の対処方法をご紹介します。
2 弁護士からの連絡
まずは、弁護士から手紙を送ります。
その際にどのような手紙を送るかはケースバイケースで、決まった内容はありません。
一例として、「ご連絡をいただけない場合はやむを得ず家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをいたします。」と末尾に記載する場合もあります。
この手紙は法的な手続ではありませんが、弁護士からの連絡ということで連絡をもらえる場合は多いです。
3 遺産分割調停の申立て
手紙を送っても、返事をもらえない場合や、そもそも受け取らず手紙が戻ってきてしまう場合もあります。
この場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を提起します。
遺産分割調停とは、遺産分割の話合いを裁判所で行うものです。
調停を申し立てると、裁判所から調停期日への呼び出しがあります。
裁判所からの呼び出しと言うことで、調停に出席する人は多いですが、呼出しの強制力はないため、一応は調停にすら応じないことは可能です。
4 遺産分割審判の申立て
調停への呼出しすら無視をする場合は、遺産分割審判を申し立てます。
審判と調停の最大の違いは、話し合いではなく裁判官が遺産の分け方を決定することです。
調停はあくまで話し合いのため、相手が出席しなかったり合意ができなかったりする場合に、強制的に分け方を決めることはできません。
そして、裁判所からの手紙を受け取らず審判にも出席しない相続人がいる場合は、「書留郵便に付する送達(付郵便送達)」を行うことにより、裁判所からの手紙を受け取ったものとして,その相続人を抜きで審判手続きを行うことができるようになります。
5 無視される場合も、どこかでは解決できる
このようにして、最終的には、無視し続ける相続人がいる場合でも遺産を分けることができるようになります。
ただし,裁判所での手続を利用する必要があり,どうしても時間はかかってしまいます。
次回は、相続人が行方不明の場合の対処法を紹介したいと思います。

相続人と連絡が取れない場合①

1 連絡が取れない場合の対処法
遺産分割のご相談で
「相続人と連絡が取れないのですがどうすればよいですか」
とのご相談を受ける場合があります。
遺産分割など、相続人全員が揃わないとできない手続もあります。
このような手続は、連絡が取れないからと言ってその相続人を無視して手続を行うことはできません。
もっとも、この「連絡が取れない場合」というのも何パターンがあります。
たとえば
①現在の連絡先がわからない場合
②連絡をしても無視される場合
③行方不明の場合
というようなパターンです。
これらのパターンによって対応方法が変わってくるため、今回は①の方法を紹介したいと思います。
2 戸籍をたどって住所を調べる
相続人がいるのはわかっているけれども、長年連絡を取っていないため、住所も電話番号もわからないというケースです。
この場合は、戸籍を遡って住所を調べます。
まず、自分の戸籍から順番に遡り、相続人の戸籍を入手します。
戸籍それ自体には住所は記載されていませんが、戸籍を入手すると、戸籍の附票という書類を取得できます。
この戸籍の附票には、その人の現在の住所が記載されているため、これにより住所が判明するという仕組みです。
3 戸籍の遡り方
戸籍は
・本籍の移動(転籍)
・結婚
・本籍のある市町村の変更
(東京の場合、田無市が西東京市に統合されるなど)
・戸籍の改正
(戸籍法の改正により縦書きのものから、横書きの現在よく目にする戸籍が新たに作られました。改正前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。)
等があると、前の戸籍とは別に、新たな戸籍が作られます。
この際
前の戸籍 :「どこの戸籍から抜けてきたのか」
新たな戸籍:「どこの戸籍へ抜けていったのか」
が記載されるため、繋がっている戸籍を辿っていくと親族の戸籍を調べることができます。
4 戸籍を遡る手順
たとえば、一般的なケースとして、結婚している兄が、すでに結婚している妹を探す場合があります。
この場合、一例として、次のように戸籍を遡ります。
(実際には、結婚した年や市町村合併の有無により必要な戸籍の数は変わります。)
①兄の住民票
②兄の現在の戸籍
③兄の改製原戸籍
④両親の戸籍(結婚前の兄妹が記載)
⑤妹の結婚後の改製原戸籍
⑥妹の現在の戸籍
⑦妹の戸籍の附票
5 戸籍の取り方
戸籍は,本籍のある市役所に保管されているため,その市役所でしか取得できません。
先ほどの①~⑦の書類も保管している市役所が異なる場合は,それぞれの市役所で手続をする必要があります。
基本は窓口で申請書を書いて取得することとなりますが,市役所の開いている時間でなければなりません。
また,郵送で申請をすることもできます。
こちらは,市役所ごとに申請の方法がホームページにあるため,そちらをご確認ください。
なお,当法人では相続人の調査も行っておりますため,お困りの際はぜひお問い合わせください。