弁護士との相談の際に準備しておくといいこと

1 弁護士の相談の前に用意はいらない

 弁護士に相談すると言っても、何を用意していけばいいのかわからないという方がほとんどだと思います。

 もちろん、弁護士としては「アレがあった方が良い」「コレがあった方が良い」というのは、思い浮かべればいくらでも出ては来ます。

 しかし、究極は、弁護士の相談の前に何も準備は必要ありません。

 法律的に重要なことと、法律の知識が無い方にとって重要と思うことは、必ずしも一致しません。

 そこで、相談者の様々な話の中から重要なポイントを見抜いて話を整理するのは、弁護士の仕事の一つです。

 法律的に重要なことがあれば、弁護士から質問をしてくれます。

 裏を返せば、特に準備をしなくとも、弁護士が相談に必要な情報があれば質問をします。

2 初回の相談で資料がなくとも大丈夫

 「資料がなければ相談を受けてくれないのではないか」という質問をいただくこともありますが、そんなことはありません。

 もちろん、裁判所は証拠が第一の世界なので、最終的には資料が必要です。

 しかし、当然、弁護士と相談する前にピタリと必要な資料がわかるなんてことはまずありません。

 資料は弁護士と相談する中で集めていくもので、集め方も弁護士からアドバイスできることが多いです。

 まずは弁護士に状況を話してみて、相談の中で弁護士から「こういう資料はありませんか?」「それならこういう資料があると思います。」と言ったように、資料をお願いしていくことになります。

3 なんでも弁護士に話してみる

 事前に調査を良くされている方によくあるパターンが「今回の件には関係ないと思ったから話さなかった。」「話しても証拠がないので勝てないから話さなかった。」というパターンです。

 法律の知識がない方にとって重要ではないと思うことも、弁護士にとっては重要ということは良くあります。

 また、証拠がなくても裁判で有用な情報や、直接的な証拠がなくとも様々な立証手段を弁護士が思いつくこともあります。

 弁護士も何でも予知できるわけではなく、あくまで相談者の話の中からヒントを見つけて発見をしていきます。

 最初から「意味が無いから」と口を閉ざされてしまうと、気づけたはずのものも気づけなくなってしまい、後で「なんでそれを最初に言ってくれなかったんですか!?」なんてこともよくあります。

 関係があるかどうかわからなくとも、まずは弁護士に話をしてみてください。

(関係ない話をすると、「それは関係ないのでもういいです。」とバッサリ切る弁護士もいます。もちろん、その話はもうする必要はありませんが、他の話は関係があるかもしれません。めげずに色々な話をしてみましょう。)

ペアローンの場合の個人再生

1 個人再生とペアローン

個人再生は、自己破産と異なり、住宅ローンが残っている自宅を売却することなく、借金のみを減額できる可能性のある手続です。

これは、個人再生には、住宅資金特別条項という制度が存在し、住宅ローンを今まで通り支払いながら裁判所の手続きを進めることができるためです。

もっとも、全ての住宅ローンが住宅資金特別条項を使えるわけではなく、民事再生法等には様々な条件が定められています。

夫婦がそれぞれ住宅ローンを支払うペアローンは、その条件を満たさない可能性があるため、夫婦の片方が個人再生をする場合は注意が必要です。

2 ペアローンの場合の問題点

住宅資金特別条項は、「自宅を強制売却するより、ローンの支払を続けて自宅を残した方が生活の再建に役立つ」という理由で認められています。

そのため、「個人再生をしても自宅を残せないのであれば、住宅資金特別条項は認めない」という理由で、自宅に個人再生をする人の住宅ローン以外の担保がついている場合は、住宅資金特別条項を利用できません。

例)住宅ローンを組んで自宅を購入した。

その後、クレジットカードの支払いができなくなり、不動産担保ローンを組んでおまとめローンにし、自宅に抵当権を設定した

→この場合は、個人再生をすると不動産担保ローンで設定した抵当権が実行されて自宅が売却されてしまうため、住宅資金特別条項を定めても自宅は残せなくなります。

このような理由から、民事再生法では、「」と定められています。

そうすると、ペアローンの場合、「自宅に他人(配偶者)のローンの抵当権がついている」ということで、住宅資金特別条項が使えなくなってしまうといえ問題点が出てきます。

3 ペアローンがある場合の対応方法

もっとも、配偶者のローンがついていても、直ちに自宅が売却になるわけではありません。

そこで、裁判所の運用として、ペアローンがついていてもいくつか条件を満たせば住宅資金特別条項を定めて、自宅を残して個人再生ができます。

具体的には、

4 自宅にローンが残っている場合は弁護士によく確認を

インターネットで調べると、「個人再生をすれば自宅は確実に残せる」と簡単に考えてしまいがちです。

しかし、ホームページの記事などは、わかり易さを重視して、大事な注意点を省いていることも多々あるものです。

個人再生をしても自宅を残すにはいくつかの条件があります。

手続きを進めたら自宅が残せなくなったとなると大変なので、まずは弁護士にしっかり確認をしましょう。

個人再生で減額されない債権

1 税金など一部の未払金は減額されない

個人再生は、借金を減額した上で3年や5年といった期間かけて分割払いしていく手続きです。

もっとも、全ての借金や未払金が減額されるわけではなく、税金など一部の債権は個人再生をしても減額されることはなく、そのまま支払い続けなければなりません。

民事再生法122条において「一般の先取特権その他一般の優先権」(一般優先債権)は、個人再生を行っても減額されません。

また、抵当権など担保がついている債権は、個人再生をしても担保権の実行をすることができるため、個人再生で減額をする前に債権回収が行われてしまいます。

個人再生で減額されない債権は、一覧にすると以下のとおりです。

一般優先債権

① 担保権のついている債権(民事再生法53条参照)

  例)不動産担保ローン、リース債権等

② 租税等の請求権(国税徴収法8条参照)

  例)市県民税、所得税、国民健康保険料、社会保険料、罰金等

③ 労働債権

  例)個人事業主の従業員の給料

④ 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権

  例)交通事故の違反金、有罪判決により科された罰金等

⑤ 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

  例)他人を殴った場合の慰謝料、横領した会社の返還請求

⑥ 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

  例)交通事故で怪我を負わせた場合の治療費

⑦ 養育費、婚姻費用、子の扶養義務等

もっとも、細かくみていくと、民事再生法以外の法律も関係してくるため、減額されるのか減額されないのか、弁護士でも判断に困ることもあります。

そこで、以下でいくつかピックアップして細かく説明します。

2 担保権のついている債権

 自宅に抵当権を付けるなどして担保に借入を行った借金は、別除権を有します。(民事再生法53条1項)

 別除権を有する債権は、個人再生の手続中であっても別除権の行使が可能です。(民事再生法53条2項)

 つまり、例えば自宅に抵当権を借りた不動産担保ローンについては、自宅を競売にかけて売却することができ、借金を自宅の売却代金から回収されてしまいます。

 また、リースで購入した自動車については、所有権留保が自動車についているため、自動車は引き揚げられて売却されてしまいます。

 なお、「個人再生において住宅ローンは残せる」とよく言われますが、住宅ローンも別除権付債権にあたり、原則は自宅の競売が可能です。

 しかし、住宅ローンについては特例があり、要件を満たせば例外的に住宅を売却されずに残せることになっています。

3 租税等の請求権

「租税等の請求権」については、「一般優先債権」(民事再生法第122条1項)にあたり、個人再生で減額ができません。

租税というと、いわゆる税金をイメージしますが、税金以外の国民健康保険料や社会保険料なども租税債権に含まれます。

「租税等の請求権」は、「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」とされています。(破産法97条4号)

国税徴収法では通常の民事訴訟等を経ないで差し押さえをすることができますが、市税や保険料などは、国税徴収法と同じ仕組みで差押等の手続きをすることができます。

つまり、このような仕組みで差押ができる請求権は、「租税等の請求権」として、個人再生を行っても減額できません。

具体的には、市県民税、固定資産税などの市税や国民健康保険料や社会保険料などの保険料が減額できません。

4 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権

 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求とは、人を殴った場合の慰謝料など、故意に行った違法行為についての損害賠償を指します。

 ここでいう「悪意」とは法律用語で、言い換えるなら「わざと」という言葉が一番しっくりくるかもしれません。

 「悪気があって」という意味とは少々ニュアンスが違います。

 稀にあるケースとして、借金の返済に困って会社のお金に手を付けてしまった場合などはこれにあたり、個人再生をしても減額することができません。

 また、支払うお金がないからと返さないと刑事事件にされるリスクもあるため、扱いは慎重にならなければいけません。

5 故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権

 典型例としては、交通事故で相手に怪我をさせた場合の治療費などがこれにあたります。

 「故意又は重大な過失」が条件であるため、裏返すと通常の過失や軽過失により発生した事故によりけがを負わせた場合は、個人再生で減額の対象になる可能性があります。

 もっとも、このようなケースでは被害者側からの強い反対が想定され、個人再生の手続きが難航する恐れがあるため、よく弁護士に相談しましょう。