相続人による預金の使い込み

1 親の預金を子供が使い込んでいるとき

 相続でも特に多くご相談をいただくのが、

「兄弟が親の金を使い込んでいるので、どうにかしたい」

というものです。

 このご相談は、大きく次の2つに分けられます。

①生きている親の預金を同居している子供が現在も使い込んでいる場合

②既に親の生前に預金を使い込んでおり、亡くなった後に発覚する場合

 それぞれの場合の対処法をご紹介します。

2 ①生きている親の預金を現在も使い込んでいる場合

⑴ カードを再発行し、暗証番号を変える

 カードを持ち去られてしまっている場合は、親本人と銀行窓口に行き、カードを作り変えてしまうのが効果的です。

⑵ 成年後見人を立てる

 しかし、カードの作り替えができるのは、親の協力が得られる場合です。

 より深刻なのは、親が認知症で、子供の言われるがままにカードや通帳を渡してしまう場合です。

 このような場合は、裁判所に申立を行い、成年後見人を選任することになります。

 成年後見人が選任されると、成年後見人が通帳やカードを管理し、口座の名義も

 「田中太郎 成年後見人 弁護士 佐藤浩介」

のように書き換わります。

 弁護士の許可がなければ、お金をおろせなくなるので、使い込みの心配はなくなります。

3 ②使い込みが亡くなった後に発覚する場合

 生前に親の許可を受けて受け取っていた場合には、特別受益として、相続の取り分を減らせる場合があります。

 親に無断でお金をおろしていた場合は、使い込んでいた相続人に対して不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求をすることになります。

(無断で使い込んだ時点で、法的には親が子どもに対して不当利得返還請求もしくは不法行為に基づく損害賠償請求ができます。子供は、この権利を相続し、使い込んだ人に対して請求することができるようになります。)

 しかし、この場合の注意点は、使い込んだことや生前贈与受けたことを、こちら側が証明しなければなりません。

 銀行からの引き出し履歴自体は、過去10年であれば取り寄せることはできます。

 しかし、そこからわかるのは、あくまで「いつ」「何円を」「どこのATMで」引き出したかだけです。

 肝心の「誰が」引き出したかはわかりません。

 よく「おろせたのは長男しかいなかったのだから、常識的に考えて長男がおろしたのは明らかだ」とのお話をいただきます。

 しかし、裁判所で求められる証明のレベルはかなり高く「認知症で親は病院から出ることができず、親本人がおろすことは不可能だった」レベルまで証明しなくてはなりません。

 そのため、法的には、過去の使い込みは追及できるのですが、実際に裁判で過去の使い込みを追求することは、相当ハードルが高いです。

 過去の使い込みの追及は、弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。