遺産分割前の相続預金の払戻し制度

1 令和の民法改正で新設された制度

「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」とは、民法改正で新たに始まった制度で令和2年から利用できます。

通常、死亡した人の預金は凍結されてしまい、相続人全員で話し合って預金の分け方を決めないと、預金を引き出すことができなくなってしまいます。

しかし、この制度を使うと、相続人同士が揉めてしまい話し合いがつかなくとも、1銀行あたり最大150万円まで預金を引き出すことができるため、葬儀費用や相続税の支払いに充てることができます。

2 銀行1つにつき、最大150万円引き出せる。

引き出しに限度額が設定されています。

限度額は、銀行ごとに設定されていて、次の①②のうち低い方の金額を引き出すことができます。

  預金額(※)×法定相続分×1/3

  150万円

(※)預金額は、その銀行の全ての預金口座を足した金額になります。

 

実際に、相続人の人数や持っている口座の数・金額によって引き出し可能額が変わるので、具体例で説明します。

 

例1)

相続人:子供2人(法定相続分1/2)

持っている口座

①横浜銀行 普通預金 200万円

②横浜銀行 定期預金 400万円

③みずほ銀行 普通預金 1200万円

①②横浜銀行から合計100万円

【200万円+400万円(預金額)×1/2(法定相続分)×1/3】

③みずほ銀行から150万円

【1200万円(預金額)×1/2(法定相続分)×1/3>150万円】

合計 250万円

【解説】

①②の横浜銀行は、預金額が横浜銀行全体の預金額が合計600万円なので、これに法定相続分の1/2と法律で決められた割合である1/3をかけると100万円となります。

100万円は、もう一つの限度額の150万円以下なので、低い方である100万円を引き出すことができます。

③のみずほ銀行は、

預金額が横浜銀行全体の預金額が1200万円なので、これに法定相続分の1/2と法律で決められた割合である1/3をかけると200万円となります。

しかし、200万円は、もう一つの限度額の150万円以上になってしまうので、低い方である150万円を引き出すことができます。

 

 

例2)

相続人:兄弟5人(法定相続分1/5)

持っている口座

①三菱UFJ銀行 普通預金 6000万円

①三菱UFJ銀行から150万円

【6000万円(預金額)×1/5(法定相続分)×1/3>150万円】

合計 150万円

【解説】

①の三菱UFJ銀行は、預金額が6000万円なので、これに法定相続分の1/5と法律で決められた割合である1/3をかけると400万円となります。

400万円は、もう一つの限度額の150万円以上になってしまうので、低い方である150万円を引き出すことができます。

例2は、預金額だけで言えば例1(1800万円)より多いですが、引き出しが銀行1つあたり150万円となってしまうため、三菱UFJ銀行1つしかないと、横浜銀行とみずほ銀行の2つの銀行から引き出せる例1より少なくなってしまいます。

 

3 相続預金の払戻し制度の手続き方法と必要書類

手続方法は、銀行ごとに異なりますが、大きな流れはどこも同じです。

① 死亡したことの銀行への連絡

② 銀行からの必要書類の案内

③ 必要書類の提出

④ 預金の払戻し

そして、必要書類としては、概ね次のような書類が必要になります。

・被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍

・相続人全員の戸籍

・銀行所定の書類(ex.相続手続依頼書)

・手続をする人の印鑑登録証明書(有効期限あり)

・手続きをする人の身分証明書

 

まずは、銀行の支店の窓口に連絡するか、銀行のホームページにある相続相談窓口に死亡した旨を伝えると、手続きがスタートになります。

また、手続きそのものを専門家に依頼してしまうのも一つの手でしょう。