1 10か月以内の相続税の支払いには、裁判所への申立ても検討
誰がどの預金を貰うか、相続人全員で話し合いがまとまらないと、死亡後に凍結された預金を引き出すことはできません。
しかし、話し合いがまとまらなくとも、財産が一定以上あると、死亡後10か月以内には、相続税の未分割申告を行い、仮の相続税を納めなければいけません。
この相続税の未分割申告は、相続税が少なくなる様々な特例(※)が使えないため、高額になりがちで、10か月以内に1000万円以上を用意しなければならないことも珍しくありません。
遺産分割前の相続預金の払戻し制度は、1銀行あたり150万円が限度となるため、相続税の支払には足りない可能性もあります。
そのような場合は、家庭裁判所に申立てを行い、預金の一部分割をする必要があります。
(※)土地の評価額が最大80%減額できる小規模宅地等の特例、夫や妻が相続する場合は1億6000万円までは非課税となる配偶者控除などがあります。
2 家庭裁判所での一部分割は限度額はないけれども・・・
家庭裁判所に申し立てて、相続人間で話し合いがまとまる前に預金を取得する場合は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度と異なり、限度額がありません。
そのため、裁判所の許可があれば、相続税の支払いのために1000万円以上を引き出すこともできます。
しかし、あくまで、裁判所の審査の結果、
・預金を引き出す必要があること
・他の相続人を害さないこと
などの条件を満たすと認められた場合に、初めて引き出しができます。
そのため、希望金額が必ず引き出せるわけではなく、裁判所が認めた金額しか引き出すことができません。
また、他の相続人の取分を残しておかないと、遺産分割が終わった時に他の相続人が不利益を被ることになるため、そもそも、引き出しが認められない可能性もあります。
そのため、使い勝手がそこまでよいかといわれると難しい制度です。
3 相続税の延滞をしないためにも、弁護士に相談を
使い勝手の悪い制度ではありますが、だからと言って、相続税の支払いができないと、税金が滞納となり、延滞税などがかかり、最悪の場合、財産の差し押さえなどがされます。
そのため、この制度を使わなければいけない場面というのは、必ず存在します。
もっとも、裁判所による審査は厳格で、通常の裁判手続きと同じように、証拠を提出して証明し、他の相続人からの主張に対して法的な反論をしていかなければいけません。
そこで、相続税の心配があるときは、まずは、弁護士に相談をして、綿密な計画を立てていく必要があります。