相続放棄と年金の受取

1 相続放棄をしたら年金を受け取ってはいけない?
相続放棄をすると、亡くなった方の財産は相続できなくなります。
また、逆に亡くなった方の財産を受け取ったり使ったりしてしまうと、相続放棄ができなくなってしまいます。
そこで、よくご質問を受けるのが
「相続放棄をしたいが、年金を受け取っていいのか」
という点です。
亡くなった方の財産は引き継げないのだから、亡くなった方の年金は受け取れないとも思えてしまいますが、今回はこの点を紹介したいと思います。
2 相続人が受け取れる年金の種類
一言に年金といっても、様々な種類があります。
そのうち、相続人が受け取れる年金としては次のようなものがあります。
①遺族年金
配偶者やお子様が亡くなった方の収入で生活していた場合、突然家庭の収入が無くなってしまうため、そのままだと生活ができなくなってしまいます。
そこで、亡くなった方の収入で生活していたことを条件に、相続人が受け取れる年金を遺族年金といいます。
②未支給年金
年金は2ヶ月に1回、15日に支払われます。
たとえば4月15日に2ヶ月分が支払われると、次の支払は6月15日となります。
この場合、5月15日に亡くなると6月15日の支払いはされません。
その場合、本来受け取れるはずだった4月15日〜5月15日分の年金は支払われないままになってしまいます。
これを未支給年金といいます。
この未支給年金は、法律で定められた順番で家族が受け取ることができます。
3 遺族年金の受取り
亡くなった方の「財産を処分」してしまうと、相続することを認めたとして(相続の単純承認)、相続放棄ができなくなります。
遺族年金を受け取る権利は、亡くなって
から発生するもので、始めから相続人に受け取る権利があります。
そのため、遺族年金を受け取っても、亡くなった方の財産を処分したことにはなりません。
裁判例でも、遺族年金を受け取っても相続放棄をすることができる旨の判示がされています。
(また,別の機会に紹介するかもしれません。)
4 未支給年金の受取り
未支給年金は、亡くなった方が受け取るはずだった年金を代わりに受け取ることになります。
そうすると、亡くなった方の財産を相続しているようにも思えます。
しかしながら、こちらも裁判例では、未支給年金を受け取る権利は相続人が独自に取得するもので、亡くなった方から相続するものではないとしています。
したがって、未支給年金を受け取ったとしても、相続放棄をすることができます。
5 東京で相続放棄にお困りの際はお気軽にご相談を
相続放棄には、他にも難しい判断を迫られるタイミングが伴います。
場合によっては相続放棄ができなくなってしまうリスクもあるため、まずは、弁護士にご相談ください。

相続人と連絡が取れない場合③

1 相続人が行方不明の場合
相続人が行方不明の場合でも、戸籍上は存命である場合、その人を除いて遺産分割を行うことは原則できません。
行方不明の相続人抜きで遺産分割協議書を作成しても無効となってしまうためです。
まずは戸籍をたどって相続人の住所を調べます。
しかし、住所変更の届け出をせずに引っ越しをしていた場合は、住民票も変わっていないため現在の居場所はわかりません。
このような場合、2種類の対応方法があります。
2 不在者財産管理人を選任する
不在者財産管理人とは、行方不明の人の代わりに財産を管理するため、家庭裁判所から選ばれた人です。
家庭裁判所から許可を得ることで、行方不明の相続人の代わりに遺産分割協議を行うことが可能となります。
行方不明の相続人に不在者財産管理人をつけるためには、家庭裁判所に選任の申立を行います。
その際、
・申立書
・行方不明者の戸籍謄本
・行方不明者の戸籍附票
・行方不明を示す資料
(現地調査報告書など)
・行方不明者の財産の資料
・行方不明者が相続人であることを示す資料
(戸籍謄本や法定相続情報一覧図など)
を提出することになります。
手数料は800円です。
これらの資料を揃えて家庭裁判所に申立をし、裁判所から不在者財産管理人が選任されることにより、相続人が行方不明のままでも遺産分割を行うことができるようになります。
3 公示送達を用いた遺産分割審判
遺産の分け方を裁判官が決める遺産分割審判では、相続人全員に裁判所からの手紙が届くこと(送達)が必要となります。
しかし、行方不明者がいる場合はこの送達ができません。
このような場合のために用意された制度が公示送達です。
公示送達の手続を行うと、裁判所の掲示板に貼り出しをして2週間経つことにより、行方不明のままでも審判を行えるようになります。
公示送達の手続は便利ですが、いつでも使えるわけではなく、本当に行方不明かどうかの現地調査を行い、調査報告書を裁判所に提出しなければなりません。
その際は、郵便ポストの様子、表札、水道・電気メーターが動いているか等を確認することとなります。
4 相続人と連絡が取れずお困りの場合は、弁護士に相談を
今月は3回にわたり、相続人と連絡が取れない場合の対策を紹介してきました。
一応は、どのような場合でも、最終的には遺産分割をすることはできるように法制度は整えられています。
もっとも、ご紹介したように、様々な市役所から戸籍を大量に取り付けたり、裁判所を利用したりする必要があり複雑な手続も多いです。
もし、相続人と連絡が取れずお困りの場合は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。

相続人と連絡が取れない場合②

1 相続人から無視される場合

以前,相続人の居場所や生死すら不明な場合の調査方法をご紹介しました。

一方で、連絡先がわかっていても、メールやライン、手紙などを無視されるケースがあります。

もっとも、預金の払戻しや不動産の名義変更のために必要となる遺産分割協議書は相続人全員がサインと判子を押さなければなりません。
また、遺留分減殺請求においては、手紙を送っていても無視されている限り1年間の時効が止まらない場合もあります。
そこで今回は、このような「連絡先がわかっていても無視される場合」の対処方法をご紹介します。
2 弁護士からの連絡
まずは、弁護士から手紙を送ります。
その際にどのような手紙を送るかはケースバイケースで、決まった内容はありません。
一例として、「ご連絡をいただけない場合はやむを得ず家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをいたします。」と末尾に記載する場合もあります。
この手紙は法的な手続ではありませんが、弁護士からの連絡ということで連絡をもらえる場合は多いです。
3 遺産分割調停の申立て
手紙を送っても、返事をもらえない場合や、そもそも受け取らず手紙が戻ってきてしまう場合もあります。
この場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を提起します。
遺産分割調停とは、遺産分割の話合いを裁判所で行うものです。
調停を申し立てると、裁判所から調停期日への呼び出しがあります。
裁判所からの呼び出しと言うことで、調停に出席する人は多いですが、呼出しの強制力はないため、一応は調停にすら応じないことは可能です。
4 遺産分割審判の申立て
調停への呼出しすら無視をする場合は、遺産分割審判を申し立てます。
審判と調停の最大の違いは、話し合いではなく裁判官が遺産の分け方を決定することです。
調停はあくまで話し合いのため、相手が出席しなかったり合意ができなかったりする場合に、強制的に分け方を決めることはできません。
そして、裁判所からの手紙を受け取らず審判にも出席しない相続人がいる場合は、「書留郵便に付する送達(付郵便送達)」を行うことにより、裁判所からの手紙を受け取ったものとして,その相続人を抜きで審判手続きを行うことができるようになります。
5 無視される場合も、どこかでは解決できる
このようにして、最終的には、無視し続ける相続人がいる場合でも遺産を分けることができるようになります。
ただし,裁判所での手続を利用する必要があり,どうしても時間はかかってしまいます。
次回は、相続人が行方不明の場合の対処法を紹介したいと思います。

相続人と連絡が取れない場合①

1 連絡が取れない場合の対処法
遺産分割のご相談で
「相続人と連絡が取れないのですがどうすればよいですか」
とのご相談を受ける場合があります。
遺産分割など、相続人全員が揃わないとできない手続もあります。
このような手続は、連絡が取れないからと言ってその相続人を無視して手続を行うことはできません。
もっとも、この「連絡が取れない場合」というのも何パターンがあります。
たとえば
①現在の連絡先がわからない場合
②連絡をしても無視される場合
③行方不明の場合
というようなパターンです。
これらのパターンによって対応方法が変わってくるため、今回は①の方法を紹介したいと思います。
2 戸籍をたどって住所を調べる
相続人がいるのはわかっているけれども、長年連絡を取っていないため、住所も電話番号もわからないというケースです。
この場合は、戸籍を遡って住所を調べます。
まず、自分の戸籍から順番に遡り、相続人の戸籍を入手します。
戸籍それ自体には住所は記載されていませんが、戸籍を入手すると、戸籍の附票という書類を取得できます。
この戸籍の附票には、その人の現在の住所が記載されているため、これにより住所が判明するという仕組みです。
3 戸籍の遡り方
戸籍は
・本籍の移動(転籍)
・結婚
・本籍のある市町村の変更
(東京の場合、田無市が西東京市に統合されるなど)
・戸籍の改正
(戸籍法の改正により縦書きのものから、横書きの現在よく目にする戸籍が新たに作られました。改正前の戸籍を「改製原戸籍」といいます。)
等があると、前の戸籍とは別に、新たな戸籍が作られます。
この際
前の戸籍 :「どこの戸籍から抜けてきたのか」
新たな戸籍:「どこの戸籍へ抜けていったのか」
が記載されるため、繋がっている戸籍を辿っていくと親族の戸籍を調べることができます。
4 戸籍を遡る手順
たとえば、一般的なケースとして、結婚している兄が、すでに結婚している妹を探す場合があります。
この場合、一例として、次のように戸籍を遡ります。
(実際には、結婚した年や市町村合併の有無により必要な戸籍の数は変わります。)
①兄の住民票
②兄の現在の戸籍
③兄の改製原戸籍
④両親の戸籍(結婚前の兄妹が記載)
⑤妹の結婚後の改製原戸籍
⑥妹の現在の戸籍
⑦妹の戸籍の附票
5 戸籍の取り方
戸籍は,本籍のある市役所に保管されているため,その市役所でしか取得できません。
先ほどの①~⑦の書類も保管している市役所が異なる場合は,それぞれの市役所で手続をする必要があります。
基本は窓口で申請書を書いて取得することとなりますが,市役所の開いている時間でなければなりません。
また,郵送で申請をすることもできます。
こちらは,市役所ごとに申請の方法がホームページにあるため,そちらをご確認ください。
なお,当法人では相続人の調査も行っておりますため,お困りの際はぜひお問い合わせください。