弁護士に相続放棄を依頼するメリット

1 令和6年の戸籍法改正と相続放棄への影響

令和6年に戸籍法が改正され、一般の方でも戸籍が取りやすくなりました。

今まで、戸籍は本籍地のある市役所でしか取得することができませんでした。

本籍地は引越しをしても変わらないため、例えば、東京都に住んでいても本籍は実家のある福島にあるということは良くあります。

こうした場合は、戸籍法の改正前は、福島の市役所に戸籍を取りに行くか、郵送で戸籍を取りに行く必要がありました。

しかし、戸籍法の改正により、どこの市役所でも戸籍を取得することができるようになりました。

相続放棄においては遠隔地の戸籍取得の難しさが、自身で相続放棄をするハードルの一つであったため、戸籍法改正により相続放棄を自身でやるハードルは下がりました。

2 兄弟姉妹、叔父叔母の戸籍は取れない

もっとも、戸籍法改正で相続放棄における弁護士の役割がなくなったわけではありません。

戸籍を取得できるのは、以下の関係の人です。

〇本人
〇配偶者
〇父母、祖父母など(直系尊属)
〇子、孫など(直系卑属)

つまり、兄弟姉妹、叔父叔母の戸籍は取ることができません。

亡くなった人に子供がおらず(相続放棄した場合も含む)、両親もなくなっている場合は、その人の兄弟姉妹や甥姪まで相続人になってしまいます。

そのため、こういったケースではいまだに自身で戸籍を取寄せるのは困難であるため、専門家に依頼する必要があり得ます。

3 相続放棄は、裁判所の手続き以外にもやることが多い

相続放棄は裁判所の手続きだけやれば完全解決というわけではありません。

亡くなった人の部屋の片づけ、遺品整理、携帯や公共料金等の契約内容の変更、車の処分、葬儀費用の支払いなどをしてしまうと相続放棄ができなくなる可能性があります。

一方で、これらを全て放置すると、亡くなった人の自宅の大家から問い合わせがあったり、車の移動を求められたりと対応の依頼が殺到します。

法律上は放置しても問題ない場合もありますが、相手は法律の専門家ではないため

「相続放棄といっても、こちらは部屋を片付けてもらわないと困るんだ!どうにかしろ!」

と問い合わせが止まらないことも多々あります。

また、相続放棄をしても管理責任が残る場合もあるため、相続放棄をしても放置できないこともあります。

そのため、相続放棄は裁判所の手続きさえ終われば完全解決、となることは稀です。

戸籍が取りやすくなったからと言って、安易に自分で相続放棄をしようとは思わず、やはり弁護士に相談するのが良いでしょう。

相続財産清算人を立てるべきか

1 相続財産清算人とは

相続人全員が相続放棄をすると相続人が不存在となり、亡くなった人が持っていた財産や借金は行き場がなくなります。

行き場がなくなった遺産は、国庫に帰属する、つまり国のものになるわけですが、自動的に国のものになるわけではなく家を売却したり、預金を払い戻したり、株式を売却したりといった現金に換えるための手続きが必要になります。

この手続きを行うのが相続財産清算人で、裁判所が選任します。

2 相続財産清算人の申立てをするべきか

相続財産清算人は必須というわけではなく、誰かが相続財産清算人の申立てを裁判所に申立てしないと選ばれないため、相続人全員が相続放棄をした後でも相続財産清算人は選ばれないままになっているケースがほとんどです。

また、相続放棄をした人も相続財産清算人の申立てをする義務はないため、必要がなければ相続財産清算人の申立てをしなくても問題はありません。

相続財産清算人の申立ては、申立の手続きを依頼する弁護士の費用や裁判所の予納金などで最低でも数十万円はかかるため、必要がなければしない方が良いでしょう。

相続財産清算人の申立ては、法定相続人以外にも利害関係人でもできるため、「相続財産清算人が必要な人が申立てをする」というイメージです。

では、どのような場合に相続財産清算人が必要になるかをいくつか紹介していこうと思います。

3 ケース① 空き家がある場合

亡くなった人の自宅など空き家があると、老朽化により家屋の倒壊、塀が崩れる、瓦が飛ぶなど様々な問題が起こります。

放置すると、実際に通行人が怪我をしたり、隣家が損傷したりといったことも起こります。

相続放棄をした人は現に占有している財産について管理責任を負うため、空き家の管理を怠った結果として通行人が怪我をしたら、その治療費を支払わなければいけなくなる可能性もあります。

しかし、相続放棄をしてしまうと空家の取り壊しをする権限もなくなってしまうため、空き家に手を付けられなくなります。

こういったケースで相続財産清算人が必要となり、相続財産清算人が空き家を売却したり取り壊しをしたり手配をすることになります。

逆に、空き家の管理責任を問われないようなケースでは、相続放棄をした人としては相続財産清算人を立てるメリットがないため、あえて相続財産清算人の申立てをする必要はなくなります。

空き家の管理責任を問われないケースとしては、

・空き家を元々管理していないケース

・そもそも家屋がなく、売れない山や畑しかないケース

がありえます。

4 ケース②亡くなった人が賃貸をしていた場合

亡くなった人が建物を借りていた場合、本来であれば相続人が賃貸借契約を解除して退去の手続きをしなければいけません。

しかし、相続放棄をするとその権限もなくなってしまうため、手を付けられなくなってしまいます。

個人の自宅マンション程度であればなぁなぁでどうにかなってしまうこともなくはないですが、亡くなった人が事業を営んでいて、テナントや工場を借りている場合にはそうもいきません。

放置した結果として貸主が次の人に貸せない間にかかった家賃や、テナントに放置していた財産を持って行かれたりしてしまった場合には、家賃や持って行かれた財産を損害として弁償する可能性も出てきます。

(往々にして「相続放棄をする=借金超過」の状況なので、本来は破産すべき場合が多く、亡くなった人の財産をお金を貸した人が持って行ってしまうということも珍しくありません。)

5 ケース③自宅が亡くなった人の名義の場合

自宅が亡くなった人の名義だが、借金が多く、家を相続しても借金が払いきれない場合は相続放棄をすることがほとんどです。(例外的に限定承認という手段はあります。)

相続放棄をすると、当然、家を出ていかなければいけないのですが、上手く行けば相続財産清算人を立てることで家に住み続けられるケースもあります。

相続財産清算人は、家を第三者に売却してその売却代金を残った借金の返済に充てることになるのですが、相続放棄をした後で、第三者として相続財産清算人から家を買い取ることができる可能性があります。

特に、亡くなった人が家の一部の権利だけを持っている場合は、相続財産清算人としても売却が困難なため狙い目です。

6 弁護士に相談を

相続財産清算人が必要なケースは他にも色々と考えられます。

相続財産清算人の申立てをすべきかは判断は、法律面でのメリットデメリットをよく考えなければいけないため、弁護士に相談した方が良いでしょう。

証拠がないのは有利か不利か

1 裁判における証拠の意味

自己破産や相続放棄の法律相談をしていると、よく相談者から「証拠がないから大丈夫ですよね?」と聞かれることがあります。

ここで大事なのが、証拠がないことがこちらに有利ならいいのですが、証拠がないことがこちらに不利に働く場面もあるということです。

民事訴訟においては、「言った言わない」で揉めないために、紙の証拠が極めて重要視されます。

もちろんドラマのように証人が証言台に立って証言をすることはあり、証言も証拠としての意味はあります。

しかし、裁判の結論は紙の証拠でほぼ決まり、証人尋問で結論が変わることはないと言われるくらい、紙の証拠が重要です。

そして、証拠がなく真実がどちらか不明な場合でも裁判官は判決を出さなければいけないため、「立証責任」という考え方が取られています。

「立証責任」とは、当事者のどちらか一方が証拠を提出して立証する責任を負い、証拠がなければ(立証できなければ)その事実は存在しないものとして扱うというルールです。

誤解を恐れず言えば、証拠がなければ裁判に負けるということです。

そして、証拠を提出する責任ない側は、仮に証拠を持っていても提出する必要はありません。

本当にお金を貸していても借用書がなければ、お金を貸した事実は存在しないことになってしまうのです。

2 証拠がないことが有利/不利になる場面

訴訟において証拠は立証責任を負う側が提出すればいいため、要は自分に不利な証拠は出さなくてよいわけです。

そのため、証拠がないことは、次のような具体的なケースで意味を持ちます。

⑴ 相続放棄をする場合

相続放棄においては、部屋の片づけをしてしまったり、財産処分をしてしまったりすると相続放棄が無効となってしまいます。

しかし、部屋を片付けてしまったとしても、部屋に何があったかの写真は誰も持っていないため片付けをした証拠が出てくる可能性は低いです。

つまり、証拠がない以上は、片付けをしたことは存在しないことになるため、相続放棄が無効になる可能性は低く、相続放棄をした人にとっては有利になります。

一方で、亡くなった人の預金を下ろしてしまった場合、預金の履歴は第三者でも取得できるため、預金を下ろした証拠は出てきます。

亡くなった人が預金を下ろせるわけはないため、預金を下ろした人は無くなった人の遺族とすぐにわかるため、相続放棄した遺族側としては「預金を下ろしたのは自分ではない」ことの証拠を提出する責任を負い、証拠を出さなければ相続放棄が無効になってしまいます。

そのため、亡くなった人の預金を下ろした場合は、「預金を下ろしたのは自分ではない」ことの証拠を出せないと、遺族としては不利になってしまうわけです。

このように、ケースによって、証拠がないことは有利にも不利にもなります。

⑵自己破産をする場合

自己破産をする場合、自分のお金と言えど浪費してしまうと、免責不許可(借金の支払義務がなくならないこと)となってしまいます。

お金の使った場合は、領収書など、浪費と疑われないような証拠を残しておく必要があります。

自己破産の手続きは通常の訴訟手続きとは違いますが、立証責任の考え方は当てはまるもので、証拠を提出する責任は破産者にあるということになります。

そして、お金の使い道の証拠をちゃんと示せないと、浪費したものと同視されて、免責不許可となったり財産組入(裁判所への弁償のようなもの)を求められることもあります。

このように、証拠がないことは一概に有利不利が決まる話ではないため、「証拠がないから大丈夫」「証拠がないから不安」と決めつけず、弁護士に相談してみましょう。

相続放棄にかかる費用

1 費用の種類

相続放棄では、次のような種類の費用がかかります。

・収入印紙:800円

・予納郵券:約500円

・郵便切手代:数百円~数千円

・定額小為替:300円~750円×戸籍等の枚数

・弁護士費用等:2万円~

以下で、詳細を説明します。

2 収入印紙:800円

相続放棄の申立書には、収入印紙800円を貼る必要があります。

申立書は相続人の人数分だけ用意する必要があるため、子供2人が相続放棄する場合は、800円×2人=1600円必要になります。

3 予納郵券:約500円

相続放棄の申立書には、未使用の郵便切手をつける必要があります。

裁判所は、申述人から提出された切手を使って、様々な書類の郵送をします。

切手の金額と枚数は、裁判所ごとに違うことがあり、随時金額も変更されるため、申し立てる前に裁判所のホームページで確認する必要があります。

東海市を管轄する名古屋家庭裁判所半田支部では、現在時点では、84円切手×5枚が必要になります。

予納郵券は、相続人の人数分用意する必要になることがほとんどです。

4 郵便切手代:数百円~数千円

相続放棄の申述書は、裁判所に持参することもできますが、郵送することもできます。

郵送の場合は、その分の切手代がかかります。

紛失してしまうと一大事のため、念のため簡易書留等を利用した方がいいため、500円程度はかかります。

また、相続放棄をする際は、戸籍や住民票が必要になります。

必要な戸籍等については、以下のとおりです。

戸籍や住民票は、窓口で発行ができますが、遠方の市役所で取得しなければいけない場合は郵送で申請書を送り、郵送で戸籍等を送ってもらいます。

往復の切手代がかかるため、1通取得するのに数百円~1000円程度かかります。

5通取寄せると、3000円程度は見ておいた方が良いでしょう。

5 定額小為替:300円~750円×戸籍等の枚数

相続放棄をする際は、戸籍や住民票が必要になり、手数料がかかります。

発行手数料は市役所ごとに違いますが、

住民票:200~400円

戸籍謄本:450円

除籍謄本:750円

の市役所・区役所がほとんどです。

相続放棄で必要になる戸籍は以下のとおりです。

なお、相続関係によって、追加で戸籍謄本等が必要になることがあるので、正確には専門家に相談することをお勧めします。

⑴ 子供が放棄をする場合

・被相続人の除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

⑵ 孫が相続放棄する場合

・被相続人の除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子(相続人の親)の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑶ 親が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑷ 祖父母が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑸ 兄弟姉妹が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸除籍謄本

⑹ 甥姪が相続放棄する場合

・被相続人の出生~死亡までの全ての戸除籍謄本

・被相続人の住民票除票

・相続人の戸籍謄本

・被相続人の子の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の両親の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の祖父母の死亡の記載のある戸除籍謄本

・被相続人の兄弟姉妹(相続人の親)の死亡の記載のある戸除籍謄本

6 弁護士費用等:2万円~

相続放棄を弁護士等の専門家に依頼する場合は、上記のような経費とは別に専門家の費用が掛かります。

相続放棄を依頼する専門家としては、弁護士と司法書士が挙げられますが、料金はほぼ変わらないことが多いです。

料金は事務所ごとにバラバラであるため、よく比較した方が良いですが、相続人1人あたり2万円~10万円程度のことが多いです。

また、相続放棄の料金は、相続関係の複雑さやサービス内容によって変わってくるため、単に値段で比較するので、なにをどこまでやってくれるかを良く確認した方が良いでしょう。

例えば、司法書士は書類を作ることしかできず、裁判所や借金の取立に対する窓口にはなれないため、裁判所からの質問があった場合や借金の取立てがあった場合の対応は自分でやることになります。

一方で、弁護士は代理人となれるため、裁判所や借金の取立に対する窓口などまで任せることができます。

相続放棄の延期(期間伸長)をすべきか

1 相続放棄の3か月の期限は延長できる。

相続放棄は、原則、死亡を知った時から3か月以内に裁判所に申立てを行う必要がありますが、この3か月の期限は延長することができます。

正式には、相続放棄の承認又は放棄の期間伸長申立てといいます。

延長できる期限は、裁判所ごとに違いがありますが、一般的には、3か月間延長しそれでも足りなかったら再度3か月延長の申請をします。

2 相続放棄の期限を延長するには、調査に時間がかかるなどの理由がいる。

相続放棄の期間伸長は、「相続すべきか、相続放棄をすべきかを決めるのに時間が足りない」という理由があって初めて認められます。

特に理由のない期間伸長の申立ては却下されるため、注意が必要です。

一般的なケースとしては、次のような場合です。

このケースの場合は、借金の調査が3か月で終わらなかったので、延長を求めるということになります。

逆に、特にこれ以上調査をすべきこともないとか、何の調査もしないまま、期限を延長したいと言っても却下されるでしょう。

(相続人には、財産調査をする権利があります。)

3 相続放棄の期限は、無制限に延長できるわけではない。

相続放棄の期限は、何回でもいつまでも延長できるわけではありません。

理由としては、借金を請求する立場の人からすれば、相続放棄の期限が延期されている間はいつまで経っても借金の請求ができないという不安定な状況になってしまうためです。

そこで、期限の延期は裁判所が許可した場合しか認められず、理由がなければ却下されます。

もっとも、1回目の延期(3か月→6か月)は比較的緩やかに認められます。

一方で、2回目以降(6か月以上)に延ばすためには、1回目の期限延長の間(3か月~6か月)にどのような調査を行って、どこまで調査が終わり、これからどのような調査を何か月かけて行うかを詳細に報告しなければいけません。

何も調査をせず6か月が経過してしまった場合は、延長が却下されることもありうるため注意が必要です。

4 「相続放棄が間に合わないから、期限を延期する」という選択肢は存在しない。

相続放棄の申立ては、戸籍を集めたりしなければいけないため、急いでも申立まで1~2か月程度かかることがあります。

そのため、「相続放棄の手続きが間に合わないから、期限の延期をしたい」という相談を良くいただくのですが、それは無理です。

なぜなら、相続放棄の期間伸長に必要な書類は相続放棄と全く同じで、期間伸長の理由説明をしなければいけない分、むしろ期間伸長の申立ての方が手間がかかります。

そのため、「相続放棄の手続きが間に合わない」=「期間伸長の申立ても間に合わない」となってしまいます。

「調査をしないと放棄するか決められない」という状況でなければ、期間伸長はせずに、相続をするか放棄をするかを決めて申立てをしてしまった方が良いケースがほとんどです。

相続放棄をすべきかは、弁護士によく相談しましょう。

相続放棄と遺品整理

1 単純承認になる可能性

相続放棄の相談で、最も多くの相談をもらうのが遺品整理です。

これは、遺品整理が、財産処分にあたるとされると単純承認になる可能性があるためです。

単純承認をしてしまうと問題になる場面は以下の2点です。

・家庭裁判所に相続放棄の申立てをした際に、相続放棄が認められない可能性がある。

・相続放棄が認められた後、債権者が相続放棄が無効だとして、相続放棄した人を訴えてくる可能性がある。

どちらの場合でも、相続放棄ができなくなってはしまうため、亡くなった人の借金を全額支払わなければいけなくなってしまいます。

2 どこまでなら遺品整理してよいか

遺品には一切手を付けないのが安全ではありますが、一切の遺品整理がいけないかというとそういうわけではありません。

過去の裁判例では、亡くなった人の家に残されたごみを処分した場合でも相続放棄は有効と認められたケースがあります。

また、相続の単純承認になるには、相続を認めたといえるだけの行為である必要があるとされているため、あらゆる行為が単純承認になるわけではありません。

そのため、衣類やごみなどおよそ財産的価値のないものを捨てるなどして処分したとしても相続放棄ができなくなる可能性はそこまで高くはないと思われます。

もっとも、何をもって財産的価値がないとするかは難しく、走行距離の長い年式の古い車は、買取価格は0円だとしても、おそらく財産的価値がないとまでは言い切れないと思います。

中古の家電製品も難しいところです。

そのため、可能であれば、遺品整理は一切手を付けずにいられるのならそれが安全です。

3 いつまで保管するか

遺品に手を付けないとして、いつまで保管をするかという問題はあります。

例えば、亡くなった人の名義の車を処分しない場合は、今後ずっと駐車場代を払わなければいけないのかということになります。

この点、家庭裁判所において相続放棄が認められたら処分していいと勘違いしている人が多いですが、単純承認にあたるかどうかに時期は関係ないため、相続放棄が認められた後でも処分をしてはいけません。

後々の訴訟で争われて相続放棄が無効となる可能性があります。

というのが、一般的な案内ですが、実際のところ、遺品整理をしても相続放棄が認められなかったり、後日、訴訟で相続放棄が認められなかったりする可能性はそこまで高くありません。

例えば、家庭内の遺品整理であれば、どんな遺品があり何を捨てたのか証拠がほとんど残らないため、おそらく訴訟になっても証拠不十分で、相続放棄が無効になる可能性は低いでしょう。

また、仮に遺品整理をしていた場合でも、それを追求するために、債権者が弁護士を入れて数十万円の経費をかけて訴訟まで起こすかというと、借金の金額次第では、回収できる借金よりもかかる経費の方が多くなってしまうので、訴訟まで行かないことの方が多いです。

3か月を経過した相続放棄の解決事例

1 事案の概要

実家には、両親と兄が住んでいましたが、10年以上前に両親が亡くなり、昨年、兄が亡くなったため、実家の土地と建物が残りました。

実家の建物は古く、このまま放っておくと倒壊する恐れもあるため、取り壊しをする必要がありました。

建物を解体するとなると数百万円単位の費用がかかってしまうため、兄が亡くなったタイミングで相続放棄をしようと考えました。

しかし、法務局で土地と建物の名義を調べたところ、父と母と兄の名義がそれぞれ入っていました。

そこで、どうにか管理責任を免れるために、弁護士に相談をしました。

2 相続放棄をする場合の問題点

このケースの問題点は、兄の相続放棄をしても、実家に父と母の名義が残っているため、不動産の管理責任が残ってしまうことです。

不動産の管理責任があると、万が一、実家が倒壊して周りの住民に損害を負わせたら、それを賠償する必要があります。

しかし、父と母の相続放棄をしようにも、両親は10年以上前に亡くなっているため、相続放棄の期限である3か月を大幅に過ぎてしまっています。

そこで、10年以上前に亡くなった父と母の相続放棄をする必要があります。

3 解決方法

亡くなったことを知った時から3か月を過ぎた場合は、財産や借金の存在を知らなくても、原則として相続放棄はできません。

しかし、過去の裁判例で、いくつかの条件を満たせば、例外的に相続放棄ができる場合があります。

その条件は、次の2つです。

① 被相続人に、相続財産又は相続債務が一切ないと信じていたこと

② 相続財産や相続債務が一切ないと信じたことに相当な理由があること

つまり、今回の場合は、実家が兄の名義で両親の名義ではないと信じていたこと(①)、実家の名義が兄の名義であると信じたことに理由があること(②)が必要になります。

もっとも、相続人は、被相続人が死亡したときに財産を調査する義務があるため、単に「知りませんでした。」というだけでは「調べたらわかることなのに、調べなかった方が悪い。」ということで、相当な理由がないと裁判所が認定し相続放棄が却下されてしまいます。

そこで、実家の名義が両親のものだと知らなかったことがどれだけ仕方ないことか、説得的に説明できるかが重要になります。

今回のケースでは、

両親が亡くなったあとに、10年以上も兄が実家に暮らしていたこと

昔、実家の名義を兄の名義に変更する手続きをしたことがあること

(司法書士に任せていたため、実際には、一部の名義しか変わっていなかった)

から、実家が兄の名義であると信じたことに相当な理由があるとして相続放棄が認められました。

3か月を経過した相続放棄の解決事例2

 今回ご紹介する件は、相続放棄の期限は 年前に過ぎていましたが、かなり複雑な法律構成をしたところ、どうにか相続放棄が認められた事案です。

1 事案の概要

 父親は個人事業をしていましたが上手くいかず、銀行から2000万円以上の借金をしていました。

 7年前、父親が亡くなりましたが、その時、依頼者の方はまだ高校生でした。

 そのため、葬式や死亡手続などは母親が全て行い、依頼者の方は借金があることを教えられていませんでした。

 その後、7年経ち、母親宛で自宅に届いていた封筒を開けたところ、父の借金が2000万円以上残っており、長男である依頼者の方がその半分の1000万円を相続していることを知りました。

2 相続放棄をする場合の問題点

 この事案の問題点は、相続放棄の期限が、父親が亡くなった日から3ヶ月であることです。

 つまり、相続放棄の期限は7年前に過ぎているのです。

 その理由は以下の2つです。

① 借金を知らなくても、死亡したことを知っていれば、相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

② 未成年者の場合、子供が知らなくても、親(=法定代理人)が知ったときから相続放棄の3ヶ月の期限はスタートする。

 ①については、民法で「自己のために相続の開始を知ったときから3ヶ月」と定められており、この「自己のために相続の開始を知ったとき」というのは、原則は借金の存在は知らなくても良いとされています。 

民法 915条

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 ②については、民法で次のように定められています。

民法 第917条

 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間(相続放棄の期限)は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

 そのため今回は、母親が、父親の死亡を知った7年前に相続放棄の3ヶ月の期限がスタートしてしまうのです。

3 解決方法

 今回は、相続放棄の3ヶ月の期限のスタート地点を、子供である依頼者の方が借金を知ったときにする必要があります。

 この点については、有名な裁判例があり、いくつか条件を満たせば、亡くなった人の借金を知ったときから3ヶ月以内の相続放棄を認めた先例があります。

最高裁 昭和59年4月27日判決(判例タイムズ528号81頁、判例時報1116号29頁 )
 熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知った時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識うべかりし時から起算するのが相当である。

 しかし、これだけでは②の問題点をクリアできません。

 母親が、亡くなった父親の借金を知っていたため、いずれにしろ7年前に相続放棄の期限は過ぎてしまいます。

 そこで、母親が相続放棄をしなかったこと(相続の単純承認)が利益相反に当たるとして、取消しを主張したところ、無事に相続放棄が認められました。

(本当は、不作為である単純承認が取り消せるのかといった問題など、様々な問題がありましたが、そこもどうにかなりました。)

4 3ヶ月を過ぎた相続放棄は弁護士に

 3ヶ月を過ぎたケースでも、相続放棄を認められるケースはあります。

 司法書士の先生などは、3ヶ月を過ぎた時点で「無理だから諦めた方が良い」と案内をすることも多いようですが、弁護士がちゃんと意見書を書けばそのような場合でも相続放棄できることがあります。

 3ヶ月を過ぎてしまった場合でも、まずは弁護士に相談してみてください。

 なお、このケースは、弊社の相続が詳しい弁護士にも「難しいかもしれない」と言われてはいました笑

3か月を経過した相続放棄の解決事例1

 昨年の私が行った相続放棄の件数を数えたところ、約320件でした。

 もちろん、320件の中には、死亡したことを知ってから3か月を経過した案件もかなりの数ありました。

 依頼をいただいた案件は、100%相続放棄は成功しているのですが、その中でも特に難しかった案件をいくつか紹介したいと思います。

1 3年前に死亡した父の借金の手紙を、開けずに放置していたケース

概要)

 父が、40年前に自宅を買い住宅ローンを組んだが、支払ができず自宅は競売になってしまい、借金も残ってしまった。

 そのとき、まだ息子である相談者は高校生で、住宅ローンがあることすら知らず、なぜか引っ越しになったくらいにしか考えていなかった。

 3年前に父が死亡したときにも、父宛に未払の住宅ローンの請求は届いていたが、封筒を開けなかったため借金の存在に気づけなかった。

 父死亡の3年後に、相談者宛に約8000万円の住宅ローンの支払を求める手紙が届き、相続放棄ができないか、急いで弁護士に相談した。

問題点)

 相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始を知った時から3か月」とされています。

 3か月の期限のスタートになる「自己のために相続の開始を知った」とは、このケースでは、父親が死亡したことを知った時から3か月になります。

 問題は、借金を知った時から3か月ではないため、原則は、相続放棄の期限自体は3年前に過ぎてしまっていることです。

 このケースは、借金を知った時から3か月で相続放棄を認めた最高裁判所の裁判例に紐づけて意見書を書いたことで、借金を知った時から3か月以内の相続放棄が認められました。

2 30年以上前に死亡した祖父母の実家の固定資産税の支払を求められたケース

概要)

 30年以上前に祖父母が亡くなり、実家は祖父母名義のままだった。

 実家には、祖父母の長男(相談者から見て叔父)の夫婦が住んでいた。

 1年前に、相談者の叔父家族が亡くなったため、今頃になって相談者に固定資産税の支払の請求が来た。

問題点)

 この件は、

祖父母 死亡

     ↓ 25年後

相談者の母(長女) 死亡

    ↓ 5年後

相談者(孫) 相続放棄

と相続をしています。

 そのため、相続放棄をするのであれば、5年前に相談者の母(祖父母の長女)が相続放棄をしていなければなりませんでした。

 再転相続放棄という制度もあるのですが、その場合も、祖父母が死亡してから3か月以内に母親が死亡している必要があります。

 つまり、本来は、以下のようなスケジュールで放棄をする必要があります。

祖父母 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者の母(長女) 死亡

      ↓ 3か月以内

相談者(孫) 相続放棄

 2か所で3か月の期限を、25年、5年と大幅に過ぎてしまっています

 このケースも、実家については居住している長男の所有物だと思っていたことを理由に、相続放棄が認められました。

 このケースは、退職した裁判官にも「無理だから諦めた方がいい」と言われていましたが、何とか解決できました。

 司法書士や専門でない弁護士はまず断る案件でしょうが、弁護士が意見書を書くことでどうにかなることもある、いい例かなとは思います。

相続登記の義務化について

1 令和6年4月1日からは、不動産の名義変更をしないと罰金の可能性

不動産登記法が改正され、来年の4月から施行されます。

今回の改正の目玉は、相続登記の3年以内の申請の義務化で、違反すると、10万円以下の過料(罰金のようなものです。)が発生する可能性もあります。

今までは、全く問題なかったところが、義務化され罰金もあるということで衝撃は大きいかとは思います。

制度の概要について、紹介します。

2 何が変わった?何をすればいい?

今までは、死亡した人の名義の不動産は、名義を書き換えなくとも、何も罰則はありませんでした。

そのため、先代、先々代の名義のまま放置されていることは珍しくありませんでした。

それが、これからは、名義変更をしておかないと罰則が科されるようになりました。

具体的には、死亡してから3年以内に

①相続登記

②相続人申告登記

のどちらかを行わなければいけません。

3 相続登記と相続人申告登記の違い

①相続登記

相続登記は、不動産の所有者が死亡し、相続する人が所有者が決まったら、その新所有者に名義変更をすることです。

「相続登記」という単語は法律には書いておらず、手続的には「所有権移転登記手続」という名前にはなります。

相続登記をするためには、次のような書類が必要です。

遺言がある場合

・遺言書

・死亡した人の戸籍謄本、住民票

・相続する人の戸籍謄本、住民票

・固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書

・申請者の印鑑登録証明書

遺言がない場合

・遺産分割協議書

・死亡した人の出生~死亡までの全ての戸籍謄本

・死亡した人の住民票

・相続人全員の戸籍謄本・住民票

・固定資産評価証明書、固定資産税納税通知書

・相続人全員の印鑑登録証明書

②相続人申告登記

相続人申告登記は、今回の法律改正で新たに作られた制度です。

相続登記は、遺言書があるか、相続人全員が話し合って1枚の遺産分割協議に実印を押すかしないといけないので、3年以内にできない可能性があります。

そういった場合に、暫定的に行う登記が相続人申告登記です。

法務局の登記簿には、所有者が死亡したこと、相続人申告登記をした人の氏名・住所が記載されます。

必要な書類は、次のとおりです。

・申出をする相続人が、死亡した人(登記名義人)の相続人であることがわかる戸籍謄本等

4 いつまでに申請が必要か

相続登記もしくは相続人申告登記の期限は、相続の開始があったことを知った時から3年です。

つまり、原則は、死亡したことを知った時から3年以内に申告をする必要があります。

遺言があるか、3年以内に遺産分割協議が終わる場合には、相続登記を行います。

また、3年以内に遺産分割協議が終わらない場合には、とりあえずは相続人申告登記をしておけば罰金の心配はありません。

なお、令和6年4月1日より前に死亡している場合は、令和6年4月1日から3年後、すなわち令和9年(2027年)4月1日までが期限となります。

今まで名義変更を放っておいた人も、令和9年(2027年)4月1日までに全ての不動産について行う必要があり、一斉に期限が来てしまうので注意が必要です。

両親、祖父母が土地を持っていたけれど、サインや相続の手続きなどをした覚えがないという人は、まずは弁護士に相談した方が良いでしょう。

相続放棄を弁護士に依頼するメリット

1 そもそも相続放棄は弁護士に依頼すべき?

インターネットで何でも調べられるご時世、相続放棄も、弁護士に依頼しなくても、調べれば自身でできてしまうようにも思えます。

もっとも、インターネットで調べてわかることは法律の一部だけで、本当に注意すべき点はホームページに書いていないことだったりします。

そこで、弁護士に依頼するメリットをいくつか紹介したいと思います。

2 1度きりの相続放棄は失敗できない

相続放棄の手続は、一度申立をして却下されてしまうと、それを覆すのは至難の業です。

「3ヶ月の期限を過ぎてしまう」「裁判所からの問合せの対応を間違えてしまう」など、ご本人で手続きをして失敗してしまうケースは多々あります。

私も、ご本人が申立されて相続放棄が却下されてしまった後に相談を受けたこともありますが、その時点ではもう却下を覆すことはできない状況でした。

裁判所に申し立てる前に相談をいただいていればどうにかできたケースだったので残念でした。

弁護士に依頼すれば、本当なら認められるはずの相続放棄をミスで失敗してしまうということはないのは、メリットの一つでしょう。

3 弁護士に任せっきりにできる

相続放棄を自身で行うと、申立の準備・資料集め・裁判所からの問合せへの対応など、全て自身で対応しなければなりません。

(ご家族の方が代わりに対応することもできません。)

戸籍謄本などの資料を、市役所・区役所が開いている平日の午後5時までに集めるのは、お仕事をされている方ですと中々大変です。

また、本籍地が住んでる場所から遠くにある場合ですと、取り寄せることになり一苦労です。

また、申立書の書き方や裁判所からの問合せの回答を間違えてしまうと相続放棄できなくなってしまうこともあります。

相続放棄が終わるまで、本当に認められるか不安ばかりというのも精神的に辛いものがあります。

この点、弁護士に依頼すれば、これらの面倒事を任せられるので、あとは終わるまで待つだけで精神的にも楽です。

4 まずは弁護士に相談を

相続放棄の相談をしていると、本人は問題だと思っていなかったことが、弁護士からすると大問題で、相談していただいて良かったなんてこともよくあります。

手続も裁判所の手続きとなり大変ですので、まずは弁護士に無料相談をしてみるのが良いかとは思います。

横浜で相続放棄をお考えの方は、こちらをご覧ください。

生活保護を受けていた場合の相続放棄

1 財産が残っていないことが多い

 生活保護を受けるには、収入が最低生活費以下であること、保有資産が一定以下であることなどの条件があります。

 そのため、亡くなった時点でプラスの財産が残っている可能性は低いです。

 相続をしても、マイナスになってしまうことが多いため、相続放棄をした方がいいケースが多いです。

2 数か月経ってから請求が来ることがある

 「借金がないから相続放棄しなくても大丈夫だろう」と放っておくと、数か月してから市役所などから税金や保険料の請求が来てしまうこともあります。

 未払の住民税や水道料金などは、亡くなってすぐ相続人に請求は来ないです。

 独り暮らしで亡くなった場合は、発見後、市役所等が相続人の住所を調査してから、その後に請求書を送ってきます。

 請求書が死亡してから半年、1年経ってに届くことは珍しくありません。

 相続放棄は、亡くなったことを知った日から3か月以内に行うことが原則であるため、請求書が届いてから相続放棄をしても認められないことが多いです。

 そのため、相続人に請求が来ていなくとも、相続放棄をしておくことをお勧めします。

3 生活保護費の返還を求められることも

 生活保護を受けていた方の場合、相続人が、数百万円の生活保護費の返還を求められることがあります。

 生活保護を受けるには、資産が一定以下でなければならず、持ち家がある場合など資産がある場合は、原則として生活保護を受けられません。

 しかし、持ち家を売却して引っ越しをするとかえって費用が掛かってしまう場合や、賃貸物件が借りられない場合は、例外的に持ち家を売却せずに生活保護を受けられることがあります。

 この場合は、生活保護を受けている方が亡くなった後に、受け取った生活保護費を返還しなければいけなくなることがあります。

 生活保護費の返還額は、持ち家の売却金額になるため、多くは数百万円になってきます。

4 生活保護を受けている方の相続は放棄するべき?

 そもそも、相続は、

① 既にわかっているプラスの財産があるとき

② 借金がないことが確実な場合

のどちらかの場合に行うべきで、それ以外の場合は、相続放棄をした方が良いケースがほとんどです。

 しかし、

「生活保護を受けている」

=プラスの財産はまずなく(≠①)、親戚の支援を受けられなかった結果として生活保護になっているため財産状況を知っている人がほとんどいません(=②)。

 そのため、生活保護を受けている方の相続は、プラスの財産よりマイナスの財産の方が多く、相続をすると赤字になってしまうケースが多いです。

 そのため、費用をかけてでも速やかに相続放棄をした方が良いケースが多いです。

 

相続土地国庫帰属制度はあまり役に立たない?

 令和5年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度ですが、近年ニュースでもよく取り上げられる「相続空き家問題」などを法律で解決してくれる画期的な制度に聞こえます。

 しかし、制度の中身を見ていくと、おそらくあまり役には立ちそうもありません・・・

1 相続土地国庫帰属制度とは?

 相続土地国庫帰属制度とは、その名のとおり、相続で取得した土地を国庫に帰属、すなわち国の物にしてしまう制度です。

 国のものにしてしまうということは、今後、草刈りなどの管理や固定資産税の支払いなどをしなくてよくなるということです。

 法務省のHPでも、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由が挙げられています。

 こういった土地が放置されると、一応は他人の土地ということで国すらも手が付けられなくなってしまうので、それを解消しようという制度です。

 これだけ聞くと確かに便利そうな制度です。

2 そもそも、なぜ土地を手放したい?

 管理が大変であれば、売ってお金に換えてしまえば終わりです。

 それができないのは、次のような理由があるからです。

⑴ 価値のない土地で費用の方が高く赤字になる。

 東京の都心の土地であれば、一戸建てで1億円を超えることも珍しくありません。

 しかし、地方の土地は、土地の価値が100万円に対し、空き家の解体費用が400万円なんてことは珍しくありません。

 また、土地に値段がつけばいい方で、いわゆる田畑や山林などは、そもそも価値がなく買い手すら見つかりません。

 そのため、売ろうにも、赤字になってしまうため売れないのです。

⑵ 相続放棄をしたくても、管理責任が残ってしまう。

 手放すだけであれば、既に相続放棄という便利な制度があります。

 しかし、相続放棄は、放棄した後も管理責任が残ってしまいます。

 空き家を相続放棄して放置してしまうと、倒壊したときの賠償責任が、ということもありえます。

 相続して空き家を解体しようにも、名前も連絡先も知らない相続人がいて解体ができない。

 一方で、相続放棄をして相続財産管理人を立てようにも、弁護士費用や裁判所への予納金で100万円単位でお金が必要とジレンマに陥ってしまうのです。

3 相続国庫土地帰属制度は役に立つ?

 では、今回の制度は、今までの「赤字になる」「空き家の解体ができない」といった問題点を解決できるのかというと、できません。

⑴ 10年分の管理費を支払う必要

 まず、この制度は、申請の際に10年分の管理費を納めなければなりません。

 しかし、「お金がかかるから」「赤字になるから」という理由で手放せない人のために作られた制度なのに、結局お金がかかるので本末転倒です。

 お金がかかるなら、国に寄付せずとも、二束三文でも売った方がまだマシというものです。

⑵ 面倒な土地は引き取ってもらえない。

 この制度は、なんでも引き取ってくれるわけではありません。

 引き取れない土地としては、次のようなものがあります。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

・ 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地
 C 他人の利用が予定されている土地
 D 土壌汚染されている土地
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
 

・ 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

 こちらを見てわかるとおり、建物が立っていると引き取ってもらえません。

 また、山林などの価値のない土地も引き取ってもらえません。

 「空き家を解体できない」「山林などは買い手が見つからない」という理由で土地が放置されるのに、この制度は、そういった土地を対象外にしているのです。

4 新たに法律ができるのを待つしかない。

 今回の制度で対象になる土地は、すぐにでも建物を建てて有効利用できるような価値のある土地に限られており、そのような土地であればそもそも売ってお金にしてしまいます。

 売ればお金になる土地を、10年分の管理費を払って国に寄付する人はいないため、今回の制度はおそらく利用が進まなさそうです。

 費用面を税金でカバーするような制度や、所有者の同意がなくても価値のない空き家は取り壊しができるような制度など、今の日本の法律ではできないことを可能にする制度ができないと抜本的な解決はまだ先になりそうです。

相続土地国庫帰属制度について

1 概要

 相続等で土地を取得した人が、法務大臣に対して申請をすることで、土地を国の物にしてもらうことができます。

 要は、いらない土地を国に寄付することができます。

 令和5年4月27日に始まった制度で、相続した空き家が放置される社会門題が解決するのではないかとニュースでもよく取り上げられていました。

 空き家問題については、現行の日本の法律では制度上解決できないものでしたが、今回新たに法律が作られたことにより少しは前に進むかもしれません。

2 手続きの流れ

 手続きの流れは次のとおりです。

⑴ 法務大臣に対する申請

⑵ 法務大臣による審査

⑶ 負担金の納付

⑷ 国庫帰属(手続完了)

 どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではなく、法務局の審査を通過して、初めて国に寄付することができます。

3 申請できる人

 申請できるのは、「相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人」です。

 相続以外で土地を取得した場合は、この制度は使えません。

 また、相続人以外の人が受け取った場合もこの制度は利用できません。

 子がいる場合に、遺言で全財産を受け取った兄弟が要らない土地だけを寄付するといったことはできません。

 なお、土地を一人で全部所有していなくても、共有者の一人だけが寄付するといったことも可能です。

4 申請先

 申請先は、帰属の承認申請をする土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)です。

 法務局には、本局と支局・出張所がありますが、取り扱いがあるのは本局のみです。

5 引き取ることができない土地

 対象となる土地については、どんな土地でもいいわけではなく、要件があります。

 細かく見ていくとややこしいですが、要は「建物のない綺麗な更地」です。

【引き取ることができない土地の要件の概要】

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(法第2条第3項)

 A 建物がある土地

   空き家は取り壊してからでないと引き取ってもらえません。
 B 担保権や使用収益権が設定されている土地

   購入したときの抵当権がついていると、利用できません。
 C 他人の利用が予定されている土地

   私道など、他人が利用している土地は対象外となります。
 D 土壌汚染されている土地

   工場跡地などは、調査の結果土壌汚染がされていることがあります。
 E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

   土地の境界が、過去の測量などで、隣地所有者との間で同意されている必要があります。

   境界がはっきりしていない場合、所有者と隣地の人全員で境界を確定してから申請します。
 

 (2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)

 A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地

   崖の上にある土地などは、崖崩れの危険があるため、対象外です。

   また、土地が傾いている場合は、建築の際に大規模な工事が必要になるため対象外です。
 B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地

   建物とまでは言えなくとも、倉庫やカーポートなどがある場合は、撤去をする必要があります。

   また、山林だと木が生えている場合も対象外です。

 C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
   地下には、過去に建物を解体したときの廃棄物が埋められていることがあります。

   また、地下に井戸がある場合も撤去の必要があります。

 D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地

   建物や木の枝などが他人の土地に越境している場合、枝を切る切らないで揉めている場合などは対象外です。

 E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

6 審査手数料

14,000円

 

お墓と相続

1 法律における「お墓」

相続の相談において、お墓をどうするべきか聞かれることは少なくありません。

お墓の引継ぎ先も法律で定められていますが、ここで言う「お墓」は法的には「祭祀財産」の一つとされ、次のようなものを指します。

①系譜:家系図などのこと

②祭具:位牌、仏壇などの祭祀、礼拝に用いられるもの

③墳墓:墓石、墓牌など、遺骨や遺体を葬っている設備

2 お墓は遺産分割できない

お墓を始めとする「祭祀財産」は,民法897条により祖先の「祭祀の主宰者」に帰属すると定められているため,遺産分割協議で誰が引継ぐかを決めるものではありません。

そのため,遺産分割前であっても,お墓の名義変更を行うことは可能となります。

名義変更の方法につきましては,お墓ごとに異なるため,お墓の管理者の方へお問い合わせいただくのが良いでしょう。

また,「祭祀財産」は遺産とはならないため,これを引き継いだ人が他の相続人より相続の取り分が少なくなることはありません。

3 お墓を引継ぐ人の決め方

お墓を引き継ぐこととなる「祭祀の主宰者」は次の順番で決まります。

① 被相続人の指定

② 慣習

③ 家庭裁判所の審判

したがって,亡くなった方が遺言などによりお墓の引き継ぐ人を決めていた場合は,その人がお墓を引き継いでいくこととなります。

そして,遺言等がない場合は,慣習により引き継ぐ人が決まることとなります。

この慣習が明らかでないときは,裁判所に申し立てることにより審判で決定されることとなります。

4 遺骨の引継先

遺骨については最高裁判所の判例において「慣習上の祭祀主宰者に遺骨が帰属する。」とされているため,先ほど述べたお墓を引き継ぐ「祭祀承継者」が一緒に引き継ぐこととなります。

5 お墓・遺骨と相続放棄

お墓や遺骨についても,相続財産とはなりません。

そのため,遺骨を引き取ってしまったとしても,相続放棄できなくなることはありません。

また,お墓の名義変更も相続放棄と関係なく行うことはできます。

6 困ったら弁護士へ

お墓の問題のみが問題となるケースは少なく、大抵は相続問題とセットです。

そのため、お墓の件でお悩みの場合、まずは、弁護士に相談をしてみるのが良いでしょう。

空家問題

 近年ニュースで問題となっているものとして、空き家問題があります。

 この問題の根本的な原因は、日本の法律制度にあります。

 相続した空き家を売却や解体するためには、日本の法律上、空き家をどうするのかについて、相続人全員で合意する必要があります。

 しかし、今までは名義変更が義務化されていなかったため、家の名義が祖父や曾祖父といったことは珍しくありません。

 そのため、名義変更しようにも、誰が相続人かわからないといった事態が発生しています。

 また、連絡が取れても、一人でも反対をする人がいると、空き家の解体や売却は不可能です。

 そのため、そのまま空き家が放置されてしまうのです。

 また、相続放棄をしても、空き家の管理責任は残ります。

 相続放棄をすると、遺産の所有権自体は失いますが、遺産を管理する責任は残ります。

 空き家は、そのまま放置すると、動物が住み着いたり、建物が倒壊するといった可能性が出てくるため、非常に危険です。もし、空き家が原因で、誰かに損害が発生した場合は、損害賠償請求をされる可能性があります。

 相続放棄をして空き家の管理責任から免れるためには、最終的には、相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる必要があります。

 しかし、この相続財産管理人の選任が大変なうえ、申立のための弁護士費用や裁判所への予納金などで数十万円単位のお金がかかってしまいます。

 この手続きの煩雑さや費用の面も、空き家が放置されてしまう理由の一つです。

 

 空き家になった不動産を相続して、しかも特に活用方法がない場合は、税金だけが発生する「負の財産」になってしまいます。

 税金を支払うだけになるくらいであれば、すぐに売った方がメリットがあります。

 一定の条件を満たせば、売却時の税金を安くできる可能性があるため、税理士に相談することをお勧めします。

 ただし、相続した空き家の建築時期や、売却価格などについて条件があります。

 また、この特例が使えるのは、相続開始から3年以内であるため、相続した空き家を売却するのであれば、できる限り早くに売却手続きを行う必要があります。

法律的な縁切り

よくご相談をいただくこととして、親族と「縁を切りたい」と言われます。

家を出て行った子供に財産をあげたくない、離婚した父親と連絡を取りたくないなど、理由は様々ですが、色々と需要はあるみたいです。

しかしながら、民法に「縁を切る」という制度はありません。

・特別養子縁組をした場合

・遺言書を偽造した場合(相続人の欠格)

・被相続人に対して虐待などをした場合(相続人の廃除)

など、相続人としての資格を失うという、縁切りのような制度はありますが、いわゆる「縁を切る」という制度はありません。

なお、親を虐待した場合の相続人の廃除なども、相続人間の話合いでまとまればよいですが、それでも権利を主張する相続人がいる場合は裁判所での手続きが必要となりハードルは高いです。

具体的には、「欠格事由」がある場合、もしくは相続人から「廃除」された場合には相続人としての資格を失います。

「相続人の欠格事由」とは、相続人が被相続人に対して、ある一定の行為を行った場合(欠格事由がある場合)に、相続人としての資格を失う制度です。

具体例としては、

・遺言書を偽造したり、隠したりした場合

・詐欺・脅迫により遺言書を書かせた場合

などがあります。

(民法891条参照)

「相続人の廃除」は、家庭裁判所に申立てをし、申立てが認められることで、相続人としての資格を失わせます。

具体的には、被相続人を虐待したり、重大な侮辱をしたりした場合に認められます。

(民法892条参照)

また、養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の二つの方法があります。

その違いは、産みの親との親族関係が残るかどうかです。

普通養子縁組は、産みの親との親族関係はそのまま残るため、産みの親と養親(=養子先の親)の両方から相続をすることになります。

一方で、特別養子縁組は、産みの親との親族関係がなくなるため、産みの親が亡くなっても、そちらから相続することはできません。

このように、一般にイメージされるような「縁を切る」という制度は存在しません。

財産を渡したくないのであれば遺言書などの生前対策を、相続したくないのであれば相続放棄などを行っていくのが現実的でしょう。

相続放棄と遺族年金

 相続放棄をした場合、財産の相続ができなくなるため、入院給付金や介護保険料の還付などの相続に伴う金銭の受け取りはできなくなります。

 しかし、未支給年金や遺族年金など一部の金銭は、相続放棄をしても受け取ることができます。

 これは、遺族年金が、遺産ではないと考えられているからです。

 相続放棄は、一切の遺産を受け継がないという制度であるため、その言葉のイメージから「亡くなった方に関するお金は、一切受け取ることができない」と思われがちです。

 確かに、相続放棄をすると、亡くなった方の遺産については、取得ができません。

 しかし、遺族年金は、亡くなった方に支給されるお金を相続しているわけではありません。収入を支えていた方が亡くなった後に、遺された遺族に対して支給される財産です。

 そのため、相続放棄をしても、遺族年金の受給資格を失うことはありません。

 これは、そもそも、遺族年金がどういうものかという性質とも関連しています。

 たとえば妻が専業主婦で、夫の収入によって生計がなりたっているような世帯がある場合、突然夫が亡くなると、その世帯は一気に収入を失うことになります。

 そうなれば、残された妻や子は、生活ができなくなる可能性があります。

 そういった事態を防ぐために、残された遺族に支給されるものが、遺族年金です。

もちろん、夫が専業主夫で、妻の収入によって生計が成り立っている場合も同じです。

 支給対象は、亡くなった方の収入で生計を維持していた子か、子がいる妻(夫)です。

 遺族厚生年金は、亡くなった方が厚生年金に加入していた場合に、遺された遺族に支給されます。

 遺族厚生年金の受給資格には、順番が定められています。

 優先順位で言うと、1番が亡くなった方の妻(夫)と、亡くなった方の子どもです。2番目の優先権を持つのは、亡くなった方の両親で、3番目が孫、4番目が祖父母です。

 相続の権利は、法律上、妻と両親などが同時に権利を取得します。

 この点、妻が受け取る場合は両親が受け取れなくなる遺族年金は、民法上の相続の考え方とは異なってきているわけです。

相続放棄の前の財産調査の必要性

相続放棄の前に財産調査をする必要はありますか?

1 相続放棄の前に財産を調査する必要性

相続放棄をした後に,予想だにしなかった財産が見つかった場合は,相続をしておけばよかったと思うかもしれません。

また,相続放棄をしたら,自宅が亡くなった人の名義で出ていかなければならなくなったという事例もあります。

そのため,相続放棄をする前には,専門家に依頼して財産調査を行っておいた方がいい場合が多いです。

2 財産調査を行うケース

⑴ 財産がどれだけあるのか不明な場合

財産がどれだけあるのか不明な場合は,区役所や市役所、法務局、銀行など様々な機関に調査を行い,土地や預金口座がないかを調査します。

相続財産調査の経験が豊富で,様々な調査方法を熟知した専門家であれば,調査漏れがないよう網羅的に財産を調査することができます。

⑵ 借金がいくらあるのかが不明な場合

借金がどれだけあるのかわからないと,相続放棄をするか相続するかは決められません。

借金がないからと相続をした後に借金が見つかってしまった場合、借金の支払に負われることになってしまいます。

そこで,専門家に依頼して,網羅的に借金の全容を調査することをお勧めします。

どこから借りたのか,何社からの借金があるのかがわからなくても借金の有無を調査することができます。

3 財産調査が不要な場合

財産調査は可能であれば行う方が良いですが,これをしないと相続放棄ができないというわけではありません。

全く連絡を取っていない遠縁の親戚が亡くなり相続してしまった場合には,財産調査をせず相続手続に関与しないために相続放棄をする方もいます。

この場合は,放棄によりプラスの財産があっても引き継げなくはなりますが,それよりも相続手続に関与したくないとお考えの方が多いようです。

4 財産調査でお悩みの方はまずは弁護士に相談を

財産や借金の調査は様々な機関で調査をしなければならず,調査方法や必要な提出書類は市役所ごと、銀行ごとにバラバラです。

そのため,調査を網羅的に行おうとすると,相当な手間と時間がかかります。

また,平日の日中に窓口に行かなければならないことも多く,調査のために仕事を何度も休む必要があります。

そこで,手間と時間のかかる手続は専門家に一任することをお勧めします。

また,財産調査をしない場合のリスクについてもわかるため,まずは弁護士に相談するのが良いでしょう。

相続放棄ができなかった場合の対処法

1 相続放棄ができない場合は、借金を支払う必要がある。

3か月の期限を過ぎてしまったり、故人名義の預金を引き出してしまったりした結果、相続放棄できないというケースは多くあります。

相続放棄ができないと、借金なども相続してしまい、どうにかしてこれを支払わなければいけません。

借金を支払わないでいると、裁判を起こされたり、故人とは関係のない相続人自身の預金、自宅や給料が差し押さえられるケースもあるため、何かしらの対応が必要です。

プラスの財産があれば、現金化して支払いに充てることもできますが、そのようなケースは稀です。

このようなケースでは、債権者と任意の交渉や、場合によっては、破産などの法的手続きも視野に入れる必要があります。

2 債権者との交渉で分割払い

借金を相続すると一括払いを要求されることが多いです。

もっとも、一括での支払いが難しい場合、各社と交渉をして借金を分割払いにしてもらえる場合があります。

たとえば、総額で240万円の借金がある場合、5年間で60回払にする交渉が成立すれば、240万円÷60回=4万円/月となり、毎月4万円を支払っていけばよくなります。また、交渉次第では、将来の利息をカットできることもあります。

3  自己破産で借金を0に

自己破産は、裁判所の認可により、借金を0円にする手続きです。

手持ちの財産と比較して、借金の方が多い場合は自己破産により借金をなくせる場合があります。

ギャンブルや浪費で作った借金の場合は破産できないケースがありますが、相続で借金を引き継いでしまった場合はそのような問題点も少ないため、比較的に破産手続きはしやすいです。

ただし、自己破産は、手持ちの財産を売却して返済に充ててしまうため、自宅や車など手放したくない財産がある場合は、注意が必要です。

4  個人再生で借金を圧縮して分割払い

個人再生は、裁判所で認可を受け、借金を圧縮して、3年〜5年かけて分割払いをしていく手続きです。

自己破産との違いは、自宅や車など、売却されてしまうと困る財産があるときにも手放さなくて済む点です。

実際に圧縮できる金額は、次の①〜③から一番高い額となります。

①法律で定められた最低弁済額

②借金の総額の1/5

③清算価値(手持ちの財産総額)

例えば、借金の総額が720万円で、手持ちの財産が預金20万円のときは、

①法律で定められた最低弁済額

→100万円

②借金の総額の1/5

→144万円

③清算価値(手持ちの財産総額)

→20万円

となり、一番高い②144万円を毎月4万円を3年間かけて返済していくことになります。

5  まずは弁護士に相談を

借金が返済できない場合の対応方法は色々ありますが、何が最適な方法かはケースバイケースで難しいです。

まずは、弁護士に相談し、現在の状況を踏まえて、一緒に方針を決めていくのが良いでしょう。